205 誕生日プレゼント
アロエもと<針樹の果肉>を集めていたら、あっと言う間に時間が過ぎていった。
「そろそろ、野営準備に入ったほうがいいな」
イヴァンは、そう言うと少し離れた奥まった場所に荷物と共に向かう。
「え、ここにテント設置したら駄目なの?」
「そろそろ潮が満ちるから、そこ海になるよ」
「そんなに、満ち干きの差が大きいの?」
私の言葉にイヴァンは頷いた。
なるほど、だからミケーネ島への道も出来ると言う訳か。
私はイヴァンがテントを設置しだしている場所へと、ピピンと共に向かった。
※※※
スープを作っていたら、海が見る見る間に押し寄せて、あっと言う間に先程まで私達が居た場所を海へと変えてしまった。
「ここまで凄かったら見事よねぇ…」
「明日の朝ぐらいにまた干き始めるよ。まぁ、昼ぐらいにならないと砂が乾かないので、砂の採取は出来ないけどね」
今日、砂の採取を済ませて正解だったと言う訳か。
「朝、海草とかが落ちているかもしれないから、楽しみにしてなよ。あーいうのも材料になるんだろ?」
「よく知ってるわね」
私、イヴァンにそんなに詳しいことまで教えたかな?
「ほら、フレイ姉のアトリエにいるときに、図鑑見たんだよ」
「黒い背表紙と、赤い背表紙のどっち?」
「黒いほうだけど…」
「あぁ、そっちならいいや」
赤いほうは、日本語で記述していたから見られなくて良かった。
見られても、大事なものだから暗号化しているって言うけどさ。
「俺、馬鹿だけど絵と特徴は大体覚えたよ。さっきの、針樹の果肉って回復薬の代わりになるんだろ?」
「馬鹿ね。代わりにはならないわよ。あ、ピピン刻んだミスティカを入れてちょーだい」
「はーい」
ミスティカを入れてくるくるっと回したら、完成っと。
いつものスープに、干し葡萄入りのパン、それとイヴァンが先程取ってきた(本当に手で取ったよ、この子)魚の塩焼き。
魚以外は、いつもの旅メニューだ。
それを食べていると、イヴァンが鞄からゴソゴソと何かを取り出した。
「フレイ姉、はい」
そう言って手渡されたのは、一冊の本。開いてみると参考書っぽかった。
まぁ、参考書は値段が高いから、おそらく古本屋で購入したんだろう。
題名は、『愛と友情の心理』
……最早何も言うまい。
「アスランからのプレゼント。それで、こっちが俺から」
次に手渡されたのは、あまり大きくないナイフ。
鞘から抜いてみると、装飾の類などは一切無いが肉厚で丈夫そうなナイフだった。
採取するときには便利良さそうかも。中には素手で取るのが面倒なのがあるし。
「今日、誕生日だろ?」
「おぉ」
ポンと手を叩く私。
正直、この年になると誕生日なんてどうでもいいのよねー。
まぁ、家族から祝ってもらうのは嬉しいけどさ。
「街にいるならお菓子とかご馳走とか用意しようかと思ったんだけどねー」
フレイ姉、採取入れちゃうんだもん、とブツブツとイヴァンがボヤく。
「まぁ、家族が集まってのパーティーは毎年5月にしてたもんねー」
アスランとジークおじさんが4月は忙しいために、私の誕生日のお祝いは5月にしているのだ。
今年は、5月も下手したらいないがどうするのだろう?
6月にするのか?
でも、2ヶ月近く前の誕生日のお祝いって、馬鹿っぽくないか?
「まぁ、ザールブルグに帰ったらちゃんとパーティーするからね」
「はーい」
「それと、その髪につけている髪飾り、誰からのプレゼント?」
ニコリとイヴァンが嗤った。
な、なんかアスランの笑い方にちょっと似ているんだけど…。
「それ、誕生日プレゼントだよね? この間、どーいう手段か知らないけどピピンがザールブルグに行ったみたいだし。どこの害虫?って言うより、やっぱり昔からの害虫かなー」
ピピンが少しずつイヴァンから離れだす。
わ、私も離れたい。
「ねぇ、フレイ姉。誰から?」
「ア、アイゼルからです!」
しゅたっと手をあげて白状する私。
すると、イヴァンが先程まで纏っていた雰囲気が一気に霧散した。
「アイゼルさんから?」
「う、うん。最近アクセサリー類の調合をしているらしくて、その努力の一部らしいわよ」
そう言って、髪留めを外しイヴァンに手渡した。
さらりと海風に髪が揺れる。
「あ、確かにアイゼルさんの頭文字が刻み込まれてる」
「でしょ。まったくもう、なんで私に男からのプレゼントがあると思うのよ。私にプレゼントする男なんてギルぐらいよ」
「自覚してるでしょ」
「あれは昔から。それに、あれのプレゼントって大体が花だし」
そう。ギルは毎年花をくれていたのだ。
誕生日ぐらい恵んでやるってカードを添えて。
まぁ、受け取った瞬間に横から奪われ、ゴミ箱行きへとなっているのだが。
「だから、今年からだから心配したの。フレイ姉は意識してないけど、結婚適齢期に突入したでしょ。結婚しなくったって、婚約ってのがあるんだし」
「いやー、正直まだ恋愛は考えてないよ。錬金術だけで手一杯だし」
「それは分かってるよ。けど、フレイ姉って節操無く男引っ掛けるからなぁ」
ひっかけてねーよ。
表情に出ていたのか、イヴァンが
「カスターニェでも雑貨屋の主引っ掛けたでしょ」
「オットーさんのこと?」
どーして、引っ掛けたになるんだ?
「今はまだいいけど、絶対仕事以外では付き合わないでよ!」
「仕事以外どーやって付き合えと!?」
そもそも、仕事以外に付き合いようが無いでしょうが。
「フレイ姉の場合だと、分かったもんじゃない」
結局、一人増えてるし、とブツブツボヤくイヴァン。
なんで、誕生日に弟に男性関係で色々言われないといけないのだ?
まったく、心配性此処に極まれりだ。
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