15 ヘーベル湖4
次の日の、私たちは朝食を取り竈などの後始末をして、ヘーベル湖へと向かった。
休憩所からしばらく進んだ先に、矢印の書かれた木に〈ヘーベル湖〉と〈カリエル〉とあったので、ヘーベル湖へと向かう。
なんでも、錬金術が一般的になるにしたがって、ヘーベル湖へ向かう人が増えたらしいのだ。
まぁ、増えたせいで環境的に色々問題にもなってるらしいが。
「小さな林を抜けたらヘーベル湖に着くよ」
「はいはい。着いたら昼食にしようね。昼食って言ってもパンとウサギの肉ぐらいしかないけど」
「まぁ、食べれるだけいいんじゃない?」
ザールブルグは基本的に三食だけど、カリエルなんかは二食しかないらしい。
一回の食事量は増えるので、簡単に太りそうだな。
黙々と歩くうちに、イヴァンが言うとおりこじんまりとした林があり、その先に光る水面が見えた。
ヘーベル湖に着くと、湖の間際に座りパンと燻製にした肉を取り出す。
「軽く炙りたいから火をお願いできる?」
「わかった」
昨日集めておいた薪を少しだけ取っておいたので、ここで使う。
そして、火を熾すのはイヴァンに任せる。いや、私でも熾せるんだけど、下手なせいか時間がかかるんだよ。
早くハッカマンを作りたい。あれってまんまチャッ×マンだし。
持ってきたパンと肉を炙って、かぶりつく。パンはちょっと固いけど、がまんがまん。
「俺はテントの準備とかしておくから、フレイ姉は採集でもしてきたら?って言っても、この付近をお勧めする」
ここはもう人の居住地ではないので、いつどこででも魔物が出てもおかしくない。
ヘーベル湖の付近には村もないし。
なんでも、王家の直轄地らしいのだ。その王家がこの湖を一般人にも開放しているので、キャンプに来る人も居れば、私たちのように採集に来る人もいる。
私は湖の水際に近寄ると、手でヘーベル湖の水をすくってみた。
本にも書いてあったが、確かににごり一つない透明度だ。
これでも昔に比べたら、透明度が落ちているらしいが、現代とは比べ物にならない。
むしろ、比べるほうがおかしい。
持ってきた水袋に、水を汲む。今回のメインの採集物は、実はこのヘーベル湖の水だったりする。
このヘーベル湖の水は、中和剤〈青〉や蒸留水など、錬金術で多用するアイテムの材料なのだ。
それこそいくらあったも足りない。
水袋は4袋持ってきたので、それ全部に余計なゴミ等が入らないようにゆっくと汲んでいく。
結構な時間をかけて水を汲み終わると、水袋を地面に置き、水際を探す。
確かミスティカは綺麗な水際に生えるから……あぁ、あった。
水際の一部分のミスティカが短く刈り取れていた。あぁ、他の人が先に採ってしまったのだろう。
後ろを振り向くと、まだイヴァンの姿が確認できるが、あまり離れては危険だ。
ミスティカは明日以降にして、いったんイヴァンの元に戻ることにした。
元に戻ると、野営場所の準備を終えたイヴァンは、木によっかかって目を閉じていた。
「イヴァン?」
寝てるのかな、と思って声をかけたら、以外にも寝ていなかった。
「寝てないよ。今晩は昨日みたいに見張りをしないで寝れないから、今のうちに休んでいたんだ」
「火の番ぐらいだったら出来るよ?」
「それも込みの護衛なんだから、気にするな。で、目当てのものは取れたか?」
「一つは取れたんだけど、ミスティカは駄目だったわ。ここら辺のは根こそぎ取られてた」
私の言葉に、イヴァンが眉を顰めた。
「群生を守る意味もあるから、普通根こそぎ取るなんてしないんだがな。明日別のところに案内するさ」
なんでも、護衛についた錬金術士が教えてくれた場所があるらしい。
「うん」
「まぁ、最近錬金術士が増えて、錬金術の材料が沢山必要だから、馬鹿やる人間が増えるんだよ。アカデミーにも結構居るから、注意しろよ?」
私より年下のイヴァンは、冒険者として色々の人間と付き合ってきた。
アカデミーの生徒の中には、裕福な家庭の出身者が多いので、冒険者を下に見る傾向が多く、不快な思いを何度もしたのだろう。
「後、いまここにあるって言ったら…あ、ズユース草でも取るか?あそこにあるぞ」
「んー、近くの森で取れるから、ここで取らなくてもいいかなぁ…。鞄があいたてたら摘んで帰ることにするよ」
どうせなら、ここでしか取れないものを取って帰りたい。
「だったら…あっちの方にズフタフ槍の草が生えてるな。これも使えるだろう?」
「あ、そうなの?」
「錬金術士が取ってたから、覚えてた。確か眠らせるアイテムが作れた筈だぞ」
錬金術士でもないのに、よく覚えているものだ。
「じゃあ、いくつか取って帰ろう」
イヴァンにズフタフ槍の草の所に案内してもらい、ズフタフ槍の草を採取する。
全て取らずに、後の人のことを考えて控えめに取る。
それでも結構な量を取ることができた。
そうしているうちに日が暮れだしたので、火を熾し野営に入る。
昨日と同じようにスープを作り、昨日と同じようにウサギの肉とパンを食べる。
これでウサギの肉は全て食べてしまった。
明日以降は、パンと干し肉だけの生活になる。
おなかが一杯になると眠気が襲ってきたので、目をこすりながらテントに入り目を閉じる。
眠気はあっという間に襲ってきて、知らない間に眠っていた。
次の日、野営の後片付けをした後、イヴァンにミスティカの群生地に案内してもらった。
ミスティカはヘーベル湖の水辺には大抵生えているが、ここは茂っているというぐらい生えていた。
私はナイフでミスティカの比較的新しい所を切りながら、手早くまとめいく。
半日ぐらい作業をすると、十分な量が確保できた。
後はリュックに詰めて持ち帰るだけ、そう思っていたらイヴァンが私の腕を掴み自分の方へと引き寄せる。
「フレイ姉」
「ん、わかった」
イヴァンの背中の後ろに隠れて、ミスティカを地面に落とす。
ガサガサ
ミスティカの茂みの中から青いぷにぷにが二匹飛び出してきた。
近くの森に居たぷにぷにより一回り大きい。
ぷにぷにを確認したイヴァンは、一気に踏み込むと剣を抜き放ち一閃。
ぷにぷにが綺麗に真っ二つになった。
イヴァンが使う剣は、騎士団で使われる剣とは違い、長さは無い。
その分習熟が容易で、少し剣を齧った人間だったら問題なく使える。
長さは無いといっても、短剣と言うほど短いわけでもない。
「つぎ!」
返す剣でもう一匹のぷにぷにも切ってしまい、ぷにぷには二匹とも動かなくなった。
その頃の私はと言うと、ようやく杖を構えました。
構えたら全て終わったから意味無いけどね。
「フレイ姉、もう大丈夫」
「ありがとう。やっぱり近くの森と比べてモンスターの大きさも大きいよね」
人の居住範囲から離れれば離れるほど魔物は凶暴かつ巨大になってくる。
ザールブルグ横の近くの森より、ヘーベル湖のぷにぷにの方が大きいのはそう言った理由だ。
「あ、いけない忘れてた」
慌ててイヴァンが倒したぷにぷにに近寄り、その死骸を杖でかき回す。
ねちゃりとした粘着質が解け出たものが、徐々に地面に染み込んでいく。
「あ、あった」
一匹目は何も無かったが、もう一匹から青い固まった丸いゼリーのような物質が転がり出てくる。
これがぷにぷに玉だ。
錬金術では色々な道具の材料として使われるのだが、入手方法はぷにぷにを倒すしかないので、結構貴重品だ。
冒険者の中では、倒したぷにぷにからぷにぷに玉が取れた場合、知り合いの錬金術士に売っていい小遣い稼ぎにするらしい。
ちなみに、ぷにぷに玉の色は倒したぷにぷにの色によって変わる。
ぷにぷに玉を小袋に入れ、ウエストポーチの中に大事に仕舞い込む。
貴重品は肌身離さず持ち歩くのだ。何かあった場合、背中のリュックは捨てて逃げるので、捨てて惜しいものは身につけておくに限る。
落としたミスティカを拾い、野営地へと戻っていく。
これだけ採集すれば、一時の間は持つだろう。それでも、ヘーベル湖の水は大量に使うので、すぐに採取に来なければならないだろうが。
それだったら、今回のように水袋での採取は非効率だな。
もっと大量に持って帰れれば…。ネックは重量と容器か。
容器は小さめのタルを使えばいいが、重さばかりはなぁ。ロバでも借りるか。
一応、ザールブルグでは貸し馬をしてくれる店もある。
代表的なので、西部のカスターニェに行く貸し馬がある。貸し馬を借りたら、早くカスターニェに着く事ができる。
カスターニェ以外でも貸し馬はあった筈だ。
別に馬じゃなくても、ロバでもラバでもいい。乗る用途ではなく運搬用なので、値の張る馬でなくていいのだ。
馬はロバやラバと違い、餌代がかかるらしいので、値段もそれ相応に取るからだ。
まぁ、今回はこれで満足して、次の採取の時に考えよう。
予定ではもう一日だったが、リュックが一杯になってしまったので一日早く切り上げることにした。
今日の夕食は、ズユース草と干し肉のスープではなく、ズユース草の代わりに取れたてのミスティカを使ってみた。
なんか、すーっとした味だった。
明日は朝に出発して夕方まで歩き、一日目とは違う宿泊所に泊まる予定らしい。
明後日の昼ぐらいにはザールブルグに帰り着く予定だ。
こうして、私の始めてのヘーベル湖採取は無事に終わったのだった。
個人的には、もう少しぷにぷにが出た方が嬉しかったかなぁ。
簡単アイテム説明
ズフタフ槍の草:ズフタフ槍という武器に似てる草。睡眠効果がある。
ヘーベル湖の水:純度が非常に高い水。あまりに高い純度のため、ヘーベル湖では魚は生息していない。
ぷにぷに玉:ぷにぷにを倒すと入手出来る貴重品。
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