14 ヘーベル湖3
日暮れ前、イヴァンが言ったように休憩所に到着した。
私達以外にも数組のグループが、キャンプをしていた。
私たちは人の邪魔にならないように端で、キャンプをすることにした。
「フレイ姉は休んでて。疲れたでしょ?」
「うん、言葉に甘えさせてもらう…。夕飯は作るから」
木にぐったりと寄りかかって、木の間を抜けてきた涼しい風に当たる。
ここシグザール王国は、東と西で気候が異なる。
ザールブルグがある東では、冬になると雪が降る気候なのだが、西部の方は冬でも雪が降らずコートもいらないらしい。
その他にも日本と違うのは、湿度である。日本のように夏でも湿度が高くなく、蒸し暑くないのだ。
それ以外にも、自然が多いせいか気温自体も低く抑えられいる。
ようするに、現代日本と比べて過ごしやすいのだ。
しばらくの間ぼーっとしている私の近くで、イヴァンは手早くテントと竈を作り上げてしまう。
「今から森で薪を取ってくるから、動かないでね」
「はーい」
言われなくても動く気力なんて無い。
むしろこのまま食事も取らずに寝たいぐらいだが、それでは次の日に差支えが出てくる。
私はのろのろとした動きで、自分の鞄から固めに焼いて保存が利くパンと、小鍋と塩、干し肉とズユース草を取り出した。
パンは店で買ってきたものだが、干し肉と干したズユース草は自家製だ。
準備だけして待っていると、そんなに時間がかからずにイヴァンが帰ってきた。
薪だけかと思ったら、ウサギも取ってきている。
「用意はしてくれてたんだ。ありがと、フレイ姉」
「いや、それぐらはね」
「ついでにウサギがいたから狩ったので、焼いて食べようぜ」
「あー、ウサギかー。おいしいもんね。余ったら燻製にでもしてヘーベル湖での食事にしようか」
イヴァンからウサギを受け取り、ナイフで捌きだす。
イヴァンが〆て血と内臓の処理をしてくれていたので、皮を剥ぎちょうど良い大きさに切り分けていく。
「火が起きたら燻製が出来そうな枝を取ってきてよ。その間に食事の準備をするから」
「はいはいっと、ってついたついた」
イヴァンは手際よく火をつけると、竈から離れて森へと向かった。
私は小鍋に水筒から水を入れ、ズユース草と干し肉を入れた。
干し肉は塩気があるので、味付けは薄めにする。
ウサギの方は軽く塩をして、木の串にさして竈の火で焼くことにした。
調理道具って小鍋一つしかないんだよね。食器も金属のコップとフォークのみ。
今度鍛冶屋で給食の時に使っていた、先割れスプーンを作ってもらおうと心に決めた。
あれ一本で、給食を食べていたから、旅で使うにはもってこいだ。
スープの方が先に出来たので、味見をすると少々塩気が足りないが、肉の方には塩気があるので十分だろう。
軽く炙ったパンを皿代わりにして、ウサギの肉を挟む。
出来上がって間もないうちに、イヴァンが生枝を片手に帰ってきた。
「お、うまそ」
「簡単なものしかないけどねー」
本当、家で作るのと比べたら簡単なものしか出来ない。保存が利く食料しか持ってこれないから、どうしてもメニューが定まってしまう。
「男しか居なかったら、携帯食料だけで終わってるから、それと比べたら十分豪華だよ」
「普段、どんな食事してるのよ?」
「えー、パンと干し肉齧ってる」
「料理出来るのだから、しなさいよ」
実は我が家の男たちには、一通り料理は仕込んだのだ。
一番物覚えが良かったのは、細々としたことが苦にならないアスラン。次いでイヴァン。最後にジークおじさんだったりする。
一番下手なジークさんでも、肉に味をつけて焼くぐらいは出来るから、それより上手いイヴァンはもうちょっと凝ったものが作れる。
「そんな労力があったら、寝てる」
「あ、そ」
元来、ものぐさなところがあるイヴァンだから、料理に使う時間はダラダラしていたいのだろう。
その割には美味しいものを食べたがるのだが。
「フレイ姉の依頼を受けて良かった事は、食事の条件が格段に上がることだよなー」
なんでも、依頼人が護衛の分の食事を作るのは珍しいことらしい。
各自自分で用意して食べるので、冒険者が携帯食料を食べてる傍らで、依頼人がフルコースを食べているなんて事もあるらしい。
旅先でフルコースなんて、貴族ぐらいしかたべないらしいが。
「まぁ、一人分も二人分も作る手間は大して変わらないしね」
自分一人だったら、食事も手が抜きがちになるが、他に人が居たらそう言う訳にもいかない。
栄養や彩を考えて作ってしまう。
「フレイ姉の依頼だったら、いつでも受けるから今後もよろしく!」
「あんたの手が空いていたらあんたに頼むわよ。他に冒険者なんて知らないし」
ゲームを通しては知っているけど、現実には全然知らない人ばかりだからなー。
「それに、私からの依頼なんてお金にならないから、普通の依頼もちゃんと受けなさい」
「…へーい」
今回の依頼料は、イヴァンと相談の末に決めた。
最初、イヴァンは要らないなんて言っていたが、それではイヴァンの生活に影響が出るので、無理にでも金額を決めた。
今回は、銀貨50枚。長くなるときは、そのときに別個に相談らしい。
長くなる場合なんて一ヶ月単位になるので、一ヶ月の専属契約を結ぶことになるらしいので、値は張るらしい。
イヴァンは、実は結構腕がいいらしく、若手の癖に一回護衛に雇うと銀貨200枚は軽く飛ぶらしいので、実に安価で雇っている。
ゲーム内で最高に使い勝手が良かったハレッシュが100枚ほどで雇えた事を考えたら、かなりの高値である。
騎士団長のエンデルクが400枚だったから、それ程までないとしても十分高い。
実は我が家で一番の高給取りは、イヴァンだったりするのだ。
ジークおじさんは下っ端の兵士だから給料はそんなに高くないし、むしろ低い。
アスランはまだ騎士見習いだから、そんなに貰っていない。それでも、ジークおじさんよりかは貰っている。
今考えれば、ジークおじさんの薄給で、よく三人の子供を養えたなぁ…。
「後片付けは俺がするから、フレイ姉は先に寝てて」
「見張りは?」
「休憩所の場合は兵士がいるから、一応大丈夫。貴重品は身につけている事が前提だけどね。まぁ、何かあったら俺が対処するから大丈夫」
本当に50枚で雇った以上の働きをしてくれるイヴァンに、もうちょっと依頼料のイロをつけてやるんだったと後悔した。
引越しで結構使ったから、懐が非常に寒いんだけどね。
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