13 ヘーベル湖2
ヘーベル湖に行く当日、イヴァンは武器と防具を装備して、私のアトリエに迎えに来た。
初めてイヴァンが鎧と剣を持っている姿を見たよ。近くの森では普段着で行ってたからな。
「フレイ姉は準備できてる?」
「うん」
アトリエの戸締りをして、私は玄関から表に出てきた。
この間買ってもらった服と膝までのブーツ、手には鋼の杖。背中には大きなリュックがあった。リュックの中にも取り分けようの子袋をいくつか用意している。現地である程度仕分けして帰りたいのだ。
「テントとかは俺が持つから。フレイ姉は最低限でいいからね」
「ありがとう」
私がお礼を言うと。イヴァンは照れたように笑い頬をかく。
「ねーちゃんは旅慣れてないから、荷物は少ないほうがいいからさ。ただでさえ、長い距離を歩くからさ」
「あー、どれぐらい歩くの?」
ザールブルグの東門へと向かって歩きながら、イヴァンと話す。
「フレイ姉の足だったら一日6時間歩いて一日半から二日かぐらいかな」
「結構あるね」
「まーね。一応足の薬とかアスランから持たせられたから、安心していいよ」
なんでも、私の護衛としてヘーベル湖に行くと知ったアスランが、イヴァンに持たせたらしい。
そんなに給料が高くないのに、何無駄遣いしてるんだ?
いや、まぁ、心配してくれて嬉しいけど。
「アスランも心配性だねぇ…」
「いや、うん、なんかフレイ姉ってしっかりしているように見えて危なっかしいから」
「失敬な」
「いや、はじめてぷにぷにに会った時の事を覚えてる?」
「人の黒歴史を…」
私が近くの森で始めてぷにぷにと遭遇したとき、私は何をトチ狂ったのかつつこうとしたんだよね。
こう、指でツンツンと。
当然ぷにぷには魔物で、私は手軽な獲物な訳で。危うくおいしくいただかれかけました。
「なんかそれ以降目を離したらなにかするんじゃないかと、心配なんだろうなぁ。本当、普段はしっかりしてるのに、なんか突然変な行動するし」
「むぅ」
年下のイヴァンに諭されるとは、まだまだ私も修行が足りない。
「早目に行っておくけど、魔物が出たらフレイ姉は後ろで待機。もし、敵がフレイ姉の方に行ったら、無理に攻撃しようとしないで、避けに専念してて。絶対攻撃しないで。弱いんだから」
「はいはい。私は防御に専念しておけばいいのね」
早目に攻撃用の道具を作らないといけないかもなぁ。強い魔物が出たら、私を守りながら戦うなんて無理だろうし。
せめて自衛が出来る程度の実力は持ったほうがいいだろう。
「本当、お願いだから危険なことは極力しないでよ。フレイ姉がひどい怪我でもしようものなら、アスランとジークさんから殺される」
「いや、殺しはしないでしょ?」
私が手をひらひらと振って言うと、イヴァンは諦めた様に首を振った。
なんだ、そのやれやれって感じの首の振りは。
ザールブルグの東門を出て、街道がまっすぐ北東に伸びている。
街道といっても町の中のような石畳ではなく、人が歩いて出来た土の道だ。
石畳だったら、輸送とか便利でザールブルグの交易に便利そうなのだが、色々と問題があって無理なんだろうなぁ。
「今日は休憩を多く入れながら歩くから、きつくなったら言ってくれよな。夜はちゃんと休憩所で休むから安心していいよ」
「休憩所?」
「あぁ。旅人がよく利用する場所なんだ。簡単な竈や平らにならした地面があるから寝泊りに便利なんだ。兵士が常駐してるから、安全の面も悪くない」
「兵士がいるの?」
「一応な。そこで一泊して、次の日の昼にはヘーベル湖に着くと思う」
道のり的には平坦な道がほとんどなので、そんなに困難ではないみたい。
「シグザール王国内は、結構旅をするのは楽だぜ。休憩所があるし、なにより治安がいい」
「やっぱり他国は治安は悪いの?」
ザールブルグから滅多に出たことが無い私と違い、冒険者として2年近くの経験があるイヴァンは色々な国に行った事があるらしい。
シグザール国内の第二の都市であるカスターニェや、北のカリエル王国、一昔前まで戦争をしていたドムハイト王国など、本当に色々行ったらしい。
そう言えば何ヶ月か帰ってこないときが何回かあったなぁ。
「あー、ドムハイトは比較的安全だぞ。カリエルは、あそこは排他的な所だからなぁ。やっぱり、気候が関係するのかもな」
ザールブルグは比較的温暖なところで、冬でも滅多に雪は積もらない。
けれど、ここより北のカリエル王国は雪がとても深いらしい。
冬の間は滅多に町の外には出ず、家の中で過ごす。そのせいか、家族や周りの人間との絆が深いのだ。
カリエルの人間と喧嘩をしたら、その親戚全員と喧嘩をしなければならなくなるぐらいに。
「ふーん。機会があったら行ってみたいかも」
「いつか、な」
そう言えば、毎日生きるので精一杯で家族旅行なんてしたことがなかった。
ジークおじさんが仕事を休めないって言うのが大きい。
「無駄口叩いてるけど、疲れてないか?」
「うん。太陽が中天まできたらお昼にしよう。作ってきたから」
「やった」
二時間ほどして、道の端に座ってサンドイッチで昼食にする。
足が疲れたので、軽くマッサージをしてほぐしておく。今日はまだまだ歩くのだ。
「この調子だと日暮れ前には休憩所に着くな」
「日が暮れる前までにテントの用意やご飯の用意したいしねー」
夜の真っ暗闇の中でテントの用意や食事の用意なんて、難しいだろうし。
「あぁ。さっ、そろそろ行こう」
「はいはい」
体の疲れを取る為に、ウエストポーチに入れておいた飴を舐める。
甘さが疲れた体に染み渡る。
あと、4時間位は歩くのだ。頑張らないと。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。