ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
12 ヘーベル湖1
8月に入って一週間ほどすると、アカデミーからアトリエへの入居許可が下りた。

私に与えられたアトリエは、職人通りの外れにあり地理的には少し不便な所にあるが、若干中が広めなのと、井戸が庭に備え付けらた二階建ての家。

元々あった家をアカデミーが買い取り改築したせいか、大掃除ではなく普通の掃除でいいので、引越し前の掃除は簡単に済んだ。

アトリエ部分にはいまだ何も無い。
壁一面にある本棚や道具棚に置く本や道具は、入学前だから当然無いにしても、本来ならば備え付けられている筈の錬金釜もない。
私と同じようにアトリエを貰った新入生が結構居るらしく、順番に入れて回っているらしいのだ。
だから後日と言うことになっている。

アトリエの奥には台所兼居間があり、そこに買ってきたテーブルとくつろぐ為のソファーを置く。居間から上へ上る階段と下に下りる階段があり、上にベッドを入れて寝室にして、地下室は採取をした物を入れる倉庫にすることにした。

倉庫には家から持ち込んだ、ぷにぷに玉やうに、魔法の草とズユース草を種類別に分けて収納した。

2階の寝室に備え付けられたクローゼットに、普段着用と外出用の服、アスランたちが買ってくれた遠出用の服を入れる。杖もクローゼットの中に立てかけておく。

錬金服はと言うと、アカデミーの新入生がいっせいに仕立て屋に注文したせいか、時間がかかるとの事だった。

入学式にまでは仕立て上げて配達してくれるとのことなので、何もし心配はないだろう。

引越し後の細々とした面倒ごとも全て終わり、一気に私は手持ち無沙汰になった。

7月の終わりからもうバタバタしていたので、ほっと一息つけたのだが、今度は暇をもてあまし始めた。

8月に入ってから皆は仕事が忙しいのか、食事がいらなかったのだ。

自分の分の食事なんて大して手間がかかるものじゃない。

「どこかに採取に行こうかなぁ」

私が今まで行った事のある採取地は、日帰りができる近くの森のみ。

入学前に事前にある程度のアイテムがあったら、入学後の調合がスムーズに進むだろう。

「候補地は比較的安全なへーベル湖かストラデル川だよね」

忘れないようにノートに日本語で書いた錬金知識を見ながら決めた。

さすがに15年近くゲームを離れていると、細々としたイベント内容の記憶が怪しくなってくる。
アイテムの調合とかは大丈夫なんだけどね。

「へーベル湖もストラデル川もかかる日数は一緒だったよな。あ、駄目だ。ストラデル川の方はディオからの噂話を聞かないと行けないんだった」

結局へーベル湖に行く事にして、護衛の事を思い出した。

ザールブルグから近く、比較的安全な近くの森ならともかく泊りがけで行く採取地では護衛が必須だ。

ゲーム内では、へーベル湖なんて護衛を付けずに行っていたが、私の能力では無理だろう。

足は遅い力は弱い、魔法も使えないし攻撃アイテムなんてうにぐらいしか持っていない。

けどうにの攻撃力なんて激弱なので、普通に杖で殴ったほうがダメージが与えれるかもしれない。

まぁ、近付かないでも攻撃が出来るという点は利点だが。

護衛を雇うといっても、私の心当たりなんて家族ぐらいしか居ないのだが、城勤めのアスランと王国内の警邏に出て不在のジークおじさんは無理だろう。

「イヴァンの仕事が入ってないといいなぁ」

外出用の服に着替え、イヴァンがいつも居るという飛翔亭に向かった。





昼間の飛翔亭は、この間来た夜間のときと違い静かだった。

カウンターの隅で静かにお酒を飲んでいるおじいさん以外は、普通に食事をしている人の姿が目に付く。

「ジークの娘か。珍しいな、何のようだ」

ディオが奥から酒の瓶を出しながら尋ねた。

「イヴァンの仕事っていつまでですかね?」
「頼むのか?」
「はい。ミスティカが欲しくてへーベル湖まで行きたいんです」
「へーベル湖か。比較的安全だから護衛は一人で十分だな。ちょっと待て」

ディオがカウンターの隅に置かれてあった台帳を捲った。
飛翔亭が冒険者に仕事の斡旋をしている事は、イヴァンから聞いていた。
予定の管理もしてくれるので楽だとは本人の弁だ。

「明後日から一週間は何も入ってないな」

明後日から一週間だったら、入学式の10日位前には帰れるから問題は無い。

「じゃあ、明後日から一週間雇いますので、予定を入れておいてください。

「判った。金はイヴァンと相談して決めてくれ」

ディオは台帳に何やら書き込むと、元にあった場所に戻す。

「何か飲んでいくかい?」

そう言えば酒場に来たのに何も注文していなかった。

「昼間から酒は何だから、お茶ありますか?」
「トーン茶なら銀貨1枚でいいぞ」

私はトーン茶を頼むと、カウンターに座り壁に張ってある紙を見た。

モンスターの討伐の募集や、護衛の募集の仕事のほかに、錬金術のアイテムの名前が見て取れる。

「お嬢ちゃんにはまだ仕事は斡旋出来ないが、結構あるもんだろう?」

依頼で多いのはレベルの低い中和剤や、傷薬や状態異常の回復薬だが、中にはミスティカティのような高レベルアイテムも見て取れる。

「ですねー。アカデミーに入学したらお願いしますね」
「あぁ。楽しみに待ってるよ」

ディオから銀貨一枚と引き換えにトーン茶を受け取り、口をつける。
緑茶に似た苦味は、私が作るトーン茶と比べてずいぶんとまろやかだ。

「あ、おいしい」
「フレアが作ったんだ。あまり苦くないだろう?」
「ですねー。私はこの苦いのが好きだから、もう少し苦くてもいいんですけどねー」

苦くないトーン茶はあっという間に飲み終わり、ディオに挨拶をして、私は飛翔亭を後にしたのだった。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。