135 休日4
アイゼルがヘルミーナ先生から聞いたのは、私でも名前だけは聞いたことのある大きな宝飾店だった。
大陸中から宝石を仕入れ、ザールブルグや他の街で売っているらしい。
シグザール王国の貴婦人が宝石を買うのは此処と言われる程のお店だ。
私とアイゼルは入り口を専用の店員に開けて貰い、中に入った。
いや、錬金服を着てきて良かったよ。
平民でも裕福な部類の人たちが、綺麗な服を着て宝石を見ていた。
アイゼル曰く、貴族になると家まで持ってこさせるらしい。
前の世界で言う外商と言うやつに近いのか?
私とアイゼルが店に入ると、すぐに店員が寄ってきた。
「何かご入用でしょうか?」
「インゴットを見せて欲しいのだけれど」
アイゼルがそう言い、ヘルミーナ先生からの紹介状を見せると、店員中身を確認し、納得した顔で私達を別室へと通した。
私達を椅子へと案内し、お茶とお菓子が運ばれてくる。
うわ、<ミスティカティ>だよ、オイ…。
お茶菓子も生クリームがふんだんに使われたケーキだ。
ヘルミーナ先生、どれだけこの店のお得意さんなんだ?
さすがにお得意さんの紹介でもない限り、値の張るこのお茶は出さないだろう。
そして、私達を案内した店員がインゴットを2つ、台座の上にのせてきた。
「お待たせいたしました。当店が普段取り扱っているインゴットはこの二点になります」
そう言って、アイゼルの前に金と銀のインゴットを置いた。
「手にとってもよろしいかしら?」
「では、こちらの手袋を…」
そう言って、アイゼルに白い手袋を渡す。
アイゼルはそれをはめ、金銀のインゴットの品質を確かめる。
私も後学の為に確かめさせてもらった。
うわ、高いなこの品質。Aに近いんじゃないか?
私が感心してインゴットを見ている内に、アイゼルは店員と値段の交渉をしていた。
いやはや、あまりにあまりな価格に思わず天井を見てしまったよ。
小声で
「アイゼル、金欠じゃなかったの?」
「お父様から、誕生日に何が欲しいかと聞かれたので、インゴットが欲しいといいましたの」
お父さんもビックリしただろうなぁ。
娘が宝飾品ではなくて、インゴットを欲しがるなんてさ。
って、そうじゃなくて、アイゼルの誕生日のことすっかり忘れていたよ。
何かプレゼントを考えないと……。
ノルディスには薬研をあげたので、アイゼルにも器材がいいかな?
結局アイゼルは、値段が高かったのか小さめの金のインゴットと、先程の銀のインゴットを購入した。
そして、幾分か安く済んだと、宝石も色々と持ってきてもらって検分中だ。
貴族って半端ないわー。
「そちらのお嬢様も何か持ってきましょうか?」
手持ち無沙汰になっている私を気を使ってか、店員がそう言った。
「当店では、ありとあらゆる品を揃えておりますよ?」
確か、街の平民の女の子の婚約指輪にここの指輪って人気があったのよね。
大きくない石だと、もしかしたら私でも購入可能かもしれない。
私は、店員に大体の金額と一つだけ条件をつけた。
「出来れば、シグザール王国以外で手に入る石だとよろしいのですが」
「シクザール王国以外、ですか。探してみましょう」
シグザール王国で手に入る石ならば、採取に行けばいいだけだ。
流石に色々と採取に行く私でも、この大陸以外の石はそう簡単には手に入らない。
けれど、この店なら別だ。
大陸でも有数の宝石商が持つ独特のネットワークを使えば、私では手に入らない石でも手に入るかもしれない。
しばらくして、別の店員が数個の石を持ってきてくれた。
「お待たせしました。聞いた条件に該当する石はこれですね」
私の前に置かれた石を手にとって見てみる。
「右から島琥珀・ペンデローク・珊瑚です」
島琥珀は綺麗な琥珀色に、島魚と言う鯨に似た魚の模様がついている。
ペンデロークは、1個は私も持っているが、流石に宝石店で客に出す代物だ。ヒビ一つない品だ。
珊瑚は綺麗なピンク色だ。私は見たことがないのだが、赤味が強いものほど高級品らしいので、これは平民でも手に入るレベルだろうなぁ。
これは、島琥珀が欲しいなぁ。でも、珊瑚も捨て難い。
両方買ったら銀貨500枚は吹っ飛ぶからなぁ……。
私は少し悩んだが、結局島琥珀と珊瑚の購入を決めた。
銀貨500枚を払い、私は両方の品を包んでもらった。
ホクホク顔のアイゼルと私に、店員がおまけですとなにやらくれた。
ゴツゴツしたこの店には似つかわしくない鉱石だった。
「一応これでも宝石の原石なんですよ。あまり質の高いものではないですけど。良かったら、一つどうぞ。ウチは鉱石の類も多少ですが扱っておりますので」
そっか。貴金属の類だけではなくて鉱石も売っていたのか。
「それと、錬金術士の方だから申しますが、貴金属の買い取りもしております。御用の際は気軽にお声をおかけください」
さすがにヘルミーナ先生と付き合いの長い店なだけはあるな。
錬金術士が銀や金を作れる事を知っていたようだ。
このお店、定期的に訪れたほうがいいかもしれない。
何か掘り出し物があるかも。
アイゼルが払った金額にガクブルしつつ、私は店を出た後アイゼルと別れた。
職人通りのパン屋を覗いて、今日のパンを購入して帰った。
アトリエに帰ると、荷物のいくつかはすでに届いていたので、所定の位置に収納する。
時間的には少し早いが、風呂に行くことにして、妖精に行き先を告げて外に出た。
今日はいつもより寒いのか、人々は足早に歩いている。
私も少し早めに歩いて、風呂へと向かった。
風呂上りにいつものように牛のミルクを飲んで、アトリエに帰る。
良く拭いたけど、まだ髪が濡れている。
あー、ドライヤーが欲しいなぁ…。風邪引かないように注意しないと…。
体は<太陽の首飾り>のおかげでホカホカだが、さすがに髪まではカバー出来ないみたい。
冷えた髪とホカホカの体と言うなんとも奇妙な体で、わたしはアトリエに帰還した。
家に帰り、夕食を食べるとパメラが舟を漕いでいたので、ポポロに頼んで2階へと連れて行って貰った。
私はアトリエから参考書を一冊持ち出して、ソファーの上で開く。
<怪しいキノコ汁>のページを見つけ、よく読む。
まぁ、作り方自体は難しいものではないからね。私はソレを読み終わると、次は酒関連の本を取り出した。
それを見ながら、ノートに色々と書き出していく。
「<蒸留酒>と<ゲルプワイン>でも持ち込んでみるかぁ」
さすがにとんでも酒を持ち込むわけにはいかないし。
その前に材料が手に入らないけど。
一応の、依頼の品の目安をつけ、私は寝室へ足を運んだ。
それにしても、久し振りだったな。アトリエにいるのに、調合をしていないなんてさ。
たまには、こんな日があってもいいかもしれない。
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