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10 飛翔亭での食事
日が暮れた後、私たち家族4人は、大通りから一本入った道を歩いていた。

「どこでご飯食べるのよ?」

さすがに住宅街とは違い大通りでは、照明の数が違うのか外の方もある程度明るい。

私が始めてこの世界の夜を迎えたとき、あまりの暗さと星の明るさにビックリした。

現代日本と比べたら、それこそ暗闇といえる暗さだからかもしれない。比較対象が暗いから、星程度の明るさでも明るくなってしまう。

「フレイは酒を飲まないから連れて来た事が無かったな。イヴァンとアスランは何回か連れて来てたんだけどな」

ジークさんが足を止め木の扉を開いた。店の入り口には木で出来た看板にジョッキの絵と<飛翔亭>と書かれた文字。

「クーゲル、きたぞー」
「少しは静かに入ってこれないのか、お前は」
「ははは、無理だ」

ジークおじさんがクーゲルの肩を笑いながら叩く。

飛翔亭の中は外と比べようが無いほど明るく、カウンターではマスターのディオが客にコップを渡していた。

客は八割がた入っており、満員といっていい程度の込み合い方で、客層も冒険者らしき人や旅人、なんと騎士らしき甲冑を着た人までいた。いや、ローブを着ている人までいる。

「アスランとイヴァンは見せたことあるよな?今日は娘を連れてきた」

そう言うと、ジークさんは私の両肩を掴んでクーゲルの前に出した。

「はじめまして、フレイです」

頭を下げた私を見て、クーゲルも苦笑いをしながら会釈をした。

「うら若い少女をこんな時間に酒場につれてくるものじゃないぞ?」

マスターが手を拭きながらこちらにやってきた。

「俺が知ってる店の中で、食事が出来てコレを連れて行ける店はここしかねーし」
「おじさん、いつもどんな店行ってるの?」
「そりゃもう、きれーなねーちゃんがお世話してくれる店に…まて、そのコブシはなんだ?」
「ジークさんは大人だしいい分別が付いているから問題ないにしても、アスランはともかくイヴァンはそんな所に連れて行ってないでしょうね!?」
「いや、それはその…」
「俺はともかくって…」
「アスランって変なところで達観してるからなー。むしろ、ジジ臭い」
「ジジ!?」

あたふたと弁明しているジークさんと、何やら落ち込んでいるアスランと、どうして私が怒っているのか判らないイヴァンの姿に、ディオとクーゲルの目が丸くなった。

「ジークから聞いていたが、ずいぶんしっかりとした娘さんだな」
「兄さん、これぐらいじゃないとコイツを躾けるなんて出来ないさ」

なんでも、昔はほとんど家に帰らず飲み歩いていたらしいのだ。

私が家に着てからは毎日決まった時間に帰り、食事を取っていたのになぁ。

「ほら、お父さんたち。入り口で止まっていたらお客様が入れないわ。こっちに席を作ったから案内してちょうだい」

奥のほうにいたフレアが、お酒を乗せたお盆を片手に用意してくれた席を指差す。

人があまりいない端に4つの椅子と丸いテーブル。テーブルの上には小さな燭台が置いてあった。

「そうだな。お前はいつものでいいんだろう?お嬢ちゃんとそこの二人はジュースでいいのか?」
「今日は祝い事だから、一杯目は軽いワインにしてくれ」
「珍しいな。お前はワインなんて弱すぎて水みたいなものだと言ってたくせに」

そんなに酒強かったんだ…。

「食事は腹に溜まりそうなの適当に頼むわ、フレアちゃん」
「はーい」

フレアとディオが奥の方へと引っ込んだ。多分奥が調理室なのだろうな。

椅子に座った私たちの前に、金属で作られたコップが3つとジョッキが1つ置かれた。

「お祝いって何か良い事でもあったのか?」
「コイツがアカデミーに受かったんだよ」

ワインをコップに注ぐクーゲルに、ジークおじさんは笑いながら私の頭をかき回すように撫でた。

「アカデミーにか。それはすごい。数年前と違い、今のアカデミーの入学試験の難易度は桁違いと聞いている。裕福な家なら家庭教師を雇えるが、そうでもないのに合格するとは、余程優秀なのだろう」
「俺の娘だからな」

私が褒められて嬉しいのか、胸を張るジークおじさん。

「お前の娘だから信じられないんだ。じゃあ、この一杯はワシの奢りだな」
「おう、ありがとよ」

私たちにもワインが行き渡り、私たちはコップを手に取った。

「フレイのアカデミーの入学試験合格を祝って、かんぱーい」
「「「かんぱーい」」」

カチンと軽くコップを合わせる。ジークおじさんは、一気にそれをあおって飲むと、クーゲルにコップを差し出し

「いつもの」

と言った。クーゲルも予想しておいたのか、別の瓶を取り出して、テーブルに置く。

「ほどほどにしとけよ」

それだけ言うと、カウンターに戻ってしまう。元々あまりフロアに出ないのだろう。カウンターの中でコップを布で磨いている。

「いつから学校が始まるの?」
「えーと、9月1日に入学式で、八月の中旬に引越しだね」

コップに口をつけて、舐める様にワインを飲む。

転生前はそれこそウワバミと言われるほど飲んだものだが、この世界では始めての酒だ。どのくらい酔うのか正直見当が付かない。

久しぶりに飲んだワインは少々渋く感じた。まだ、若いワインなのかな?

「家から通うのじゃないのか?」
「私の場合は寮じゃなくて、町の中にアトリエが与えられてそれを運営しながら学ぶらしい」
「なんだそれは?」
「んー、最近アカデミーは机上だけでなく実践を重視しているみたいで、実践に耐えうる錬金術士の教育の一環らしいわね」
「フレイ姉、家から居なくなるの!?」

イヴァンが大声を出した。
やはり一番幼いイヴァンにとって、私の存在は大きかったのか?ずいぶんと面倒を見てあげたからね。

「うん。まぁ、同じ町の中に居るからたまには帰ってくるだろうけど」
「メシ、俺のメシは!?」
「自分で作れ」

ちょっとジーンとした分、損した。

「まぁ、ウチにきたらご飯ぐらい作ってあげるわよ?まぁ、家に居たらだけど」
「じゃあ、俺の分もよろしく」

イヴァンの飯コールにアスランが便乗してくる。

「お前ら、少しはフレイ離れしろよ」

ジークさんが顔を片手でおおい、搾り出すように言う。

確かに、イヴァンもアスランも私にべったりで、このままじゃ恋人なんてできそうにもない。

けど、この三人での関係は心地よいので、もう少しこのままでいたいと思うのは贅沢なのだろうか?

「まぁ、いい。それじゃあ、それまでに必要なものを買わないといけないな」
「あ、錬金術の道具は入学式の後に奨学金と援助金が出るから必要ないよ。必要なのは、錬金術士用の服ぐらいかなぁ。日常品などは家からある分を持っていくし、必要な分だけ買い足すようにするから」

貰った手紙をポケットから引っ張り出して、見ながら言った。

フレアが両手一杯に料理を乗せて、私たちの前に来ると皿を狭いテーブルの上に絶妙な配置で置いていき、空になったコップにオレンジ色をした液体を注ぐ。

「このジュースは私のおごりね?ごゆっくり」

そういいながら、なにやら話しかけてくる客たちを適当にあしらいながら奥に引っ込む。
しつこく言い寄ろうとした客は、クーゲルとディオの二人がブロックしている。

置かれた料理を口いっぱいに頬張りながら、イヴァンが

「そう言えばフレイ姉も、外に材料の採集とか行くの?俺、アカデミーの生徒に雇われて護衛することがたまにあるんだけど」
「あー、そうだね。行くことになると思う」

採集に行かないと、アカデミーの売店の材料じゃ調合に不都合があるし。

寮生たちってどうやってアイテム入手してるんだろう?実家から送ってもらったお金で購入してるのかなぁ。

「だったら、武器と防具も必要だな」
「ねーちゃん一応錬金術士だから、重めの装備は無理だよな。だったら、杖と服か」

アスランとイヴァンが何事か相談している。
テーブルの上に何やら数字と、その分担をごちゃごちゃ言ってる。

「フレイ、合格のお祝いに俺たちが武器と防具の一揃い買ってやるよ」
「なら、錬金術士の服は俺からの祝いだな」
「いや、少ないけど貯金ぐらいあるよ?」

近くの森で採取した材料で売れそうなものは、妖精のポックルを通じて売りさばいておいた。
主にぷにぷに玉と魔法の草だが。
ぷにぷに玉はともかく、魔法の草も結構需要があったのだ。まぁ、中和剤の材料になるから、いくらあっても足りないのだろう。

「外に出るなら野営の道具とかも必要になるから、残しておいたほうが良いよ。フレイ姉、マント一枚で野営なんてやったことないでしょ?」

マント一枚でどうやって雨風凌ぐんだ?

「だったらテントとか居るし。お金使わせるのが悪いなと思うのだったら、俺とアスランを外に行くときに雇ってくれたらいいよ。安くしておくし」
「俺は休みのときぐらいしか付き合えないがな」
「……うん、ありがとう」

胸が熱くなってこみ上げてきた何かを隠し、目を擦る。

「それじゃあ、もうちょっと料理追加しようか?」
「え?」

ふと、料理に目をやるとすべて綺麗に空になっていた。
私と普通に喋っていたのに、いつ食べたんだ!?っていうか私一口も食べてない!

「ちょ、いつの間に」
「フレアさん、料理ついかー」
「はーい」

飛翔亭の喧騒の中、イヴァンの声が響いたのだった。


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