125 20年前のアイテム
飛翔亭に寄ると、フレアが
「ごめんなさいね。折角の創立祭なのに水を差してしまって」
「いえ、別の飲み物を出すことになったのでそれは構わないんですけど」
代替品が出来たので、大きな問題にならなかったし。
私はカウンターに座り、フレアと向き合った。
「新しい飲み物が出来たの?」
「ここに卸してもいいですけど、一応酒場ですよね此処」
あまりノンアルコール類を卸したら、ディオが煩そうなんだよね。
「そうだぞ、フレア。昼は基本的にお前に任せてはいるが、ここは酒場だからな。ほどほどに頼む」
「どうせ私が継ぐのに…」
「まぁ、喫茶店に改装するのは、継いでからで」
私の言葉に厨房から出てきたディオがウンウンと頷く。
ディオと入れ替わりで、フレアが厨房に引っ込んだ。
「なぁ、フレイ。ちょっと頼みがあるんだが…」
「もしかして新しいお酒の事ですか?」
最近では飛翔亭は酒場と言うより、軽食屋つまり喫茶としてのイメージが強くなってきている。
そろそろマスターが動くだろうと踏んでいたのだが、案の定動いたな。
「そうだ。何かないか?」
「<冒険者の酒>ぐらいなら、調合できますけど?」
「そんなの他の錬金術士でも出来るだろ?
お前にしか調合できない酒を求めているんだ」
どこかで聞いたことのあるような台詞だな。
そうか。私しか調合できない酒か。
「少し考えて見ますけど、期待はしないで下さいね」
「ならば期待させてもらおう」
ディオは笑って、私の前にお茶の入ったカップを置いてくれた。
匂いからしてアザミ茶葉で入れたお茶だろう。
横にミルクを置いてくれているので、ミルクティーにしろと言う訳か。
「ディオさん、蒸留酒あります?
少量でいいのですけど」
「飲むのか?」
ディオが少し顔を顰めている。
「いえ。少しお茶に垂らしてみようかと思いまして」
「ほう。いいだろう。待ってな」
そう言うと、ディオが奥から一本の瓶を持ってきてくれた。
「ワインを蒸留して作った酒だ。多分合うとおもぞ」
材料と作り方からみてブランデーといった所か。
私は、ブランデーを受け取ると数滴お茶に垂らした。
私の周囲に広がる酒の香り。
あー、家でも蒸留酒を作ってみようかしら?
私は一口お茶を口に含む。
うん。ブランデーの風味はアザミ茶葉の風味に負けてはいない。
元々ミルクティーよりストレートが好きだからね。ブランデーを垂らして飲む飲み方は結構好きだ。
「いいな。今度メニューに入れるか」
「それはいいですけど、入れるなら目の前でお酒を垂らして下さいね。そうじゃないと匂いはすぐに消えますから」
そうなんだよね。匂いと言うのは長持ちしないのだ。
「あぁ、そうだな。あと、入れる酒も色々と試してみよう」
ディオの顔が嬉しそうだ。
やっぱり、お酒が好きなんだろうなー。
私は、うきうきしているディオを横目に依頼の紙に目を通していく。
報酬のワリがいい依頼依頼……これかな?
『<酔い止めの薬>種類は問わず』
「ねぇ、マスター。これなんですけど…」
私は依頼の紙をマスターに見せた。
「あぁ、これな。依頼人が今はない酒場で手に入れた酔い止めの薬が欲しいらしいのだが、名前を覚えていないんだよ。けど、アカデミーで教えている酔い止めの薬は一種類だろう?
だから、種類は問わずになってるんだよ」
「酒場の名前は分かります?」
「確か金の……なんだったか…」
「金の麦亭じゃないですか?」
「そんな名前だったような……もう10年以上前に閉店したからなー」
そっか。金の麦亭は閉店したんだ。
まぁ、生きていたら67歳だもんね。
確かシグザール王国の平均寿命は50才ぐらいだから、おかしいことではないし。
とにかく、金の麦亭で受けた依頼ならば、おそらくリリーのアイテムだろう。
酔い状態の回復ならば<ホッフェン水>だと思うんだけど…。
「これ、受けますね」
「おお。酔い止めの薬でも問題はないらしいからな。難しく考えなくてもいいだろう」
「えぇ」
後は目ぼしい依頼はないわね。
お茶も飲み終わったので、席を立とうとしたらクーゲルがやってきた。
「こんにちは。クーゲルさん」
「あぁ、フレイ嬢。少し時間をもらえるか?」
「何かありましたか?」
前回納品した毒薬三種類に何か問題があったのだろうか?
「いや。前回の依頼主が品物に大変満足したらしく、追加報酬が届いているんだ」
「追加報酬!?」
「あぁ。今朝届いた。受け取ってくれ」
そう言って私に手渡されたのは、おおよそ銀貨600枚の大金だった。
「いいんですかね。こんなに」
「いや、受け取ってもらえないとこちらも困るんだ。またお願いすると言っていたので、依頼があったら受けて貰えると嬉しい」
「はぁ……。もしかして、何かあります?」
「あぁ。これなんだが…」
そう言って渡されたのは、『麻痺効果のある薬。ただし<しびれ薬>以外』と言う依頼。
「<しびれ薬>って、アカデミーの参考書に書いてある薬ですよね?
それ以外のしびれをもたらす薬って事でいいですか?」
「そうだ。出来るか?」
「いいですよ。これお願いします」
報酬は一つで銀貨480枚。うん。奇人の依頼は高報酬だな。
「後、こちらもお願いしたいのだがな」
そう言って渡されたのは、ドナースターク家からの滋養強壮の薬の依頼。これぐらいだったら私がするまでもないなー。
ドナースターク家の依頼は、比較的難易度が低いし。
「これだったら、エリーに頼んだらどうですか?」
「エリーか。確かこちらの依頼はまだやっていなかったな。ふむ……ちょうどいいかもしれん。今度来た時に話を振ってみよう」
よし。依頼回避ー。
正直、ドナースターク家の依頼は簡単な分報酬が安いんだよねー。
しかも、さりげに数が5つと多かったので、私の手には余るしね。
さ、これ以上依頼を押し付けられたら堪らないので、さっさと帰宅しようっと。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。