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第五話 『夕暮』
 魔法具店を出た俺たちはまた大通りを歩いていた。

日は傾きかけてはいるが、それでも横道に入いる前と喧騒の度合いはそう変わっていない。

「やっぱり、賑やかな街だな」

「うん、人の活気がいっぱい」

「そうだろうそうだろう、人の多さで言えば世界でも有数の街だからな」

「まあ、そのせいでさっきからルノが大変なんだがな」

「わうぅぅ……」

 人並みに流されないように注意しながら俺たちは歩いているのだが……体格の問題上、時折人の波にルノが流されそうになる。

さらわれそうになるたびになんとか救出できてはいるが、油断していると本気で逸れかねなかった。

「まあ、そりゃ仕方がねえよ、この人の量じゃな」

 苦笑しているアサカの言うとおり人の多い道である以上多少なりともこんなことがあるのは逃れられない。

ただ……単純に人が多いという原因だけではないのだが……

「確かに……って、ルノそっち違う、どこ行ってんだ!」

「ああぁ、食い物屋の匂いにつられてるんじゃない!」

 食べ物の屋台の近くへ行くたびにルノがそちらの方へと勝手にフラフラ近づいてしまうのだ。

今のようにほんの少し目を離しただけで全く別方向に歩き始めるのだからこちらとしても頭の痛い話である。

とりあえず……勝手に行動しているルノを捕まえて拳骨一閃。

「わふぅっ!?」

「まったく……言ったそばから何してるんだよルノ」

「うぅぅ……ごめんなさぁい」

 既に何度も言って聞かないためこちらも容赦がない。

ルノが涙目で恨みがましく見上げてくるが、それでも反省はしたようですぐにシュンとなった。

「あれ、マスターとルノ君?」

 そんな時に後ろから聞こえてきたのはそれなりに聞き覚えのある声。

俺にルノ、ついでにアサカが振り向けば予想通りの姿がそこにはあった。

「おお、サナちゃん」

「あ、サナ姉ちゃん」

「やっぱり二人だったんだ、珍しいね大通り歩いてるなんて、お店は?」

 学園からの帰りなのだろうか、制服を着たサナちゃんはこっちを見て意外といった顔を見せている。

それからこっちへ近づいてくるサナちゃんと、さらに後ろから同じ制服に身を包んだ女の子が二人こちらに来ているが友達だろうか?

「知らなかったっけ? 今日は定休日だよ」

「そうなんだ……危なかったぁ、今日はお客さんを連れて行こうとしてたよ」

「よかったねサナちゃん、入れ違いにならなくて」

「サナァ~、定休日くらいチェックしておきなさいよ!」

「ご、ごめんね二人とも」

 定休日という事実に、後ろの二人の女の子がサナちゃんに声をかける。

その様子を見る限り、一人はお淑やかそうな、もう一人はやや気の強そうなイメージを受ける。

まあ、無駄足にならなかったのはいいことだろう。

気の強そうな子に押されながらもサナちゃんは謝り、改めてこちらを向く。

「マスター、ルノ君、紹介するね、私の友達で……」

 サナちゃんはそう言って俺たちの視界から外れ、サナちゃんの後ろにいた二人の姿がよく見えるようになる。

「はじめまして、サナちゃんの友人で戦士科のシトネって言います」

 緑のロングの髪をしたお淑やかそうな子がこちらに頭を下げてくる。

遅れてオレンジのロングで、気の強そうな子の方も笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。

「技能科のセリカよ、よろしく」

 お淑やかそうなシトネちゃんが戦士科で、気の強そうなセリカちゃんが技能科……失礼だけど逆の方がいいんじゃないかなと少しだけ思ったのは内緒である。

とにもかくにも挨拶をされたのだからこちらも返すのが礼儀だろう。

「はじめまして、喫茶店『旅人』のマスターをやってる水森氷雨です」

「ルノ・ミンステアです!」

「それと……あれ?」

 流れでもう一人の従業員であるアサカを紹介しようとしたところで隣にいないことに気づく。

辺りを見回すと後ろのほうでなにやら驚いた顔でこちらを見るアサカの姿を見つけた。

「どうしたんだアサ……」

「ヒサメェェェェェェッ!」

「うわっ、なんだよオイ!」

 不審に思い呼びかけようとしたところで叫ばれながらいきなり近づかれてサナちゃんたちから離された。

なすがままに引っ張られる俺……正直、突然過ぎて意味がわからない。

「ったく……なんなんだよアサカ」

「ヒサメ、なんだあの娘たちは!」

 多少不機嫌なことを含ませた声を出したのだが、そんなことは知らぬと無視してアサカがサナちゃんたちのことを聞いてくる。

「なにって……紹介聞いてなかったのか? 二人は初めて会ったけど、一人は常連だよ」

「ヒサメ貴様……レスカさんやお姉さま方たちだけに飽き足らずあんな女の子にまで手をつけていたのか!」

「オイ、激しく待て」

 アサカの叫びに思わず突っ込んでしまう、正直に言って人聞きが悪いことこの上ない。

お姉さま方はルノが目的だし、レスカさんや他の人だって客なだけでそういうのは無いっての。

「もてない男の敵めぇぇぇっ!」

「えぇい耳元で叫ぶな喧しい!」

 意味のわからないことを叫ぶアサカに咄嗟というか思わずアッパーを放った。

あ、やばい……いいのが入ったかも。

「げぶはぁっ!」

 それを証明するかのように、アサカは奇声を上げながら真上にかち上げられてそのまま崩れ落ちた。

ピクピクと痙攣しているが……とりあえず命に別状はなさそうなので一安心、しばらくすれば回復するだろう。

……一応謝っとく、すまん。

「な……なにがあったんですか?」

 アサカが吹っ飛んだのを見てこちらへ来たらしい、サナちゃんがややおびえながら聞いてくる。

「あぁ……大丈夫、問題ない」

「問題ないん……ですか? とても大丈夫そうには見えないんですが?」

「ヒサメヒサメ、アサカ無事なの?」

 うん、そりゃさすがに信用ないよね。

俺だってあれを見て何も問題がないようには見えない……その意味では多少引いているサナちゃんと不安そうなルノは正しいと思うよ。

「大丈夫、命に別状がないから…………さすがにやり過ぎたと思うけど」

「当たり前よ……」

 ぽつりと呟いた最後の言葉を耳ざとく聞き取ったセリカちゃんが呆れたように突っ込んでくる。

……うん、黙殺しよう、これ以上この話題続けても不利にしかならないし。

とりあえずは……最初の目的だった紹介だけはしておこう。

「紹介が遅れたね、コイツはうちのバイトでアサカ、変な奴だけどよろしくしてやって」

 倒れたままのアサカを指して俺は愛想笑いというか苦笑いというか、とにかく微妙な笑い方をしながらごまかす。

「はぁ……ええと、よろしくお願いします」

「どうでもいいけど……気絶した人に挨拶するってシュールな光景ね」

 否定はしない……というか返す言葉もないです。

とまどいの中挨拶が終わり……そこでふと、サナちゃんからの返事だけもらっていないことに気づく。

……不審に思ってサナちゃんの方を見れば、何やら怒ったような顔で睨まれていた。

まあ、正直なところ迫力はなくむしろ可愛いほうなんだが……大前提としてなんで俺そんな目で見られてんの?

「サナちゃん……どうしたの?」

「ズルイ」

「はい……?」

 言葉を振ってみると、この上なく端的に返答された。

しかしその返答は正直なところ意味を読み取れない……サナちゃん、お願いだから主語とか目的語とか文として大事なものを欠かさない努力をしようね。

「私がこの前バイトやりたいって言った時はダメって速攻で言ってたくせに、なんであの人は雇ってるの!」

「……あぁ~」

 そういうわけで今度はしっかり理由を聞かせてもらったわけだが……納得、同時に思い出した。

言われてみれば来て半月くらいのときにそういったことを言ってたな……なるほど、理解できた。

「ちょっと事情があったんだよ、まあコイツも少ししたら辞めるし」

 だからあんまり気にしないでくれないか、と軽く頭を撫でながら説得する。

「むぅ……」

 それに対して明らかに不満ですという顔をしたサナちゃん。

だけどその顔が可愛らしくてとても怒っているようには見えなくて、つい小さく笑いが出てしまう。

「何笑ってるんですかぁ!」

「ああ、ごめんごめん」

 そんな笑みを浮かべた口元を見つけたのかサナちゃんの怒りがさらに勢いを増した。

それを宥めるように必死になって謝っていた俺だが、そのすぐ近くではこんな会話があっていたことを俺は知らなかった。

「サナってもしかして……」

「うん……それっぽい」

 俺とサナちゃんの会話をセリカちゃんが怪しみ、シトネちゃんもまた同意をする。

とはいえ本当にそうなのか判断する材料を二人は持っていなかった……だけど、ここにはもう一人話を聞くにはうってつけの人物がおり、当然のようにその一人に矛先が向く。

「ルノ君ルノ君、ちょっとお話しようか」

「お話、なぁに?」

「サナちゃんがお店に来たときのお話をしてくれないかなぁ?」

「サナ姉ちゃんが? うん、いいよ!」

 その一人、ルノもその程度のことを話すのくらいは何の問題もないと考えているので普通にサナちゃんが来た時のことを二人に話し始める。

一応横目にその様子は確認していたのだが、ルノの容姿や性格のこともあり可愛がられることはよくあるのでそれもその類であり、ルノも嫌な顔をしていなかったので仲良くなっているなぁ程度にしか考えていなかった。

さすがにそんな話をしていたとは夢にも思っていなかったというのが後にそのことを知った俺の感想である。

ついでに言えば、横で倒れていたアサカの意識が取り戻し始めていたのを感じていたため、そちらに意識を裂いていたのも原因となるだろう。

「ん……」

「お、起きたかアサカ」

「……ハッ、ヒサメ貴様!」

「……さっきのはこっちも悪かった、だからここらで大人しくしような?」

 起き上がり、詰め寄ってくるアサカに対して先ほどの一撃の非を認め、だけどこれ以上場を混沌とさせないために落ち着かせる。

なお、若干の威圧を放っていたことは秘密である。

ともかく非を認めたことで落ち着いたのか、それとも威圧に圧されたのかは定かではないがアサカも大人しくなった。

「はい、了解しました!? だからちょっと待って、お願い!?」

「……む~、この人が」

 すぐさま起き上がって元気になったのを見て心配そうに見ていた面々もその必要がないと考えたのだろう、驚きや呆れ、あるいは感心のような表情を向けられる。

僥倖だったのはアサカが起き上がったことでサナちゃんの恨みの矛先がスイッチしたことだろうか、今度はアサカの方に視線が向けられていたことだろうか。

仮に弱っていたりすれば、そんなこともなかっただろうけど起き上がってすぐにこの行動力だからな……ここまで元気な姿を見せれば心配する気も起きないというものだ。

「あの、ヒサメさん、何で俺はこの娘に睨まれているんでしょうか?」

 美少女に見つめられるなんて状況、いつものアサカなら喜んで受け入れるだろう。

そこに込められている感情が負の感情でなかったらの話であるが……まあ、そんな目で見られて居心地のいいわけがなく、俺の方へ理由を求めてくる。

「自業自得」

「意味わかんねえよ!」

 原因は何かと言えばお前が寮の家賃の支払い日前日に賭け事やって負けたせいだろう。

主語と目的語を抜いて端的に話している辺り、さっきのサナちゃんのことは言えないかもしれない。

さすがにサナちゃんに怒りをぶつけるわけにはいかず、やり場のない怒りが俺に……いやこの場合はむしろ正当か?

まあ、とりあえず今度はしっかりと説明して二人を落ち着ける。

「……とまあ、そういうわけだ……んで、サナちゃんもとりあえずはそれぐらいにしておきなさい」

「むぅ……はぁい」

 ここでどうにかできる話でもないことはサナちゃんもわかっていたのだろう、やや不満は残っているようではあったが大人しく従ってくれた。

これで問題はひとまず解決だろうか……俺はアサカの方を向いて声をかける。

「アサカ、案内の続きを頼んでいいか?」

「ああ……とは言ってもさすがに教えられる場所もそう多くないけどな」

 夕方に近づくこの時刻、確かにそろそろ終わるとすればいい時間帯だろう。

今日一日で、それなりに裏道などを教えてもらったし、収穫は十分とも言えた。

「案内?」

「ん、そういえば説明していなかったか」

 疑問符をあげたサナちゃんに、結局やったのは自己紹介と機嫌直ししかやっていなかったことに思い至る。

とりあえず今日の趣旨をサナちゃんに教えてあげると、興味を持ったサナちゃんが口を開いた。

「……それ、ついて行っていいですか? マスターの店が休みなら、やることなくなっちゃって」

「ん……とりあえず後ろ」

「へ?」

 個人的には別に構いはしないし、アサカやルノも反対はしないだろう。

だけど、それにはまず自分の友達に了解を取るのが正しいんじゃないかと思うぞ?

「あ……」

「サナ~、私たちには断りなしなのかなぁ?」

 完全に忘れていたと言わんばかりの間の抜けた声がサナちゃんの口からこぼれた。

そんなサナちゃんの様子をどう思ったのか、セリカちゃんの方が笑いながらサナちゃんの方に近寄っていく。

それに少々たじろぎながらもサナちゃんは愛想笑いを浮かべて謝罪する。

「ご、ごめんね二人とも」

「フフ、別にいいんだけど……」

 謝るサナちゃんにシトネちゃんも話しかけながらゆっくりと近づいて……シトネちゃんに意識を裂いた隙にセリカちゃんに拘束をかけられていた。

「え……え!?」

 予想だにしていなかったのだろう、突然の行動にサナちゃんは目をパチクリさせて二人の顔を見る。

セリカちゃんはニヤニヤとした笑みで、シトネちゃんは微笑といった感じでサナちゃんを見返し、

「でもね……私たちも、ついていっていいのかな?」

「どういう……こと?」

「観念しなさい、ネタは上がってんのよ」

「私だけ、でついていきたいんじゃないの? 加えて言えばあの人の隣で、あの人と二人で?」

 こちらには聞こえない程度の声量で、シトネちゃんがサナちゃんに耳打ちした。

言葉を聞いたサナちゃんは呆然として、それから意味が通じたのか顔を真っ赤にして、

「な……なななな、なにを!?」

 かなりの動揺を見せながらシトネちゃんとセリカちゃんに問い返した。

本来ならば一度距離を取りたかったのだろうが、セリカちゃんに拘束されているためサナちゃんは抜け出せない。

しかしあの焦りよう……シトネちゃんは一体何を言ったんだろう?

「どうやらビンゴね、さあネタはルノ君から上がってるからキリキリ吐きましょうか」

「な、なんのことかなぁ?」

 笑いながら顔を近づけてくるセリカちゃんに、サナちゃんは逃げる術を持たない。

力づくで逃げようにもサナちゃんは魔法科の生徒、どちらかと言えば肉体系の技能科に勝てるはずもない。

追い詰められたネズミと舌なめずりをするネコといった感じの様相だろうか……

「ミナモリさん、なにか失礼なことを考えてませんでしたか?」

「なんでもないよ、ルノ~、お姉ちゃんたちと何を話してたんだ?」

 女の子というのは悪口に鋭いらしいが本当のことらしい。

いつの間にやらサナちゃんたちから離れてこちらに近づいてきていたシトネちゃんが笑顔で聞いてくる。

うん、少し怖いです……とりあえず話題逸らしのためにルノのほうに話を振ることにするのだった。

「えとねぇ……」

「だめだよルノ君、女の子の秘密が含まれてる会話は無闇に話しちゃいけないよ」

 ルノが話そうとするのをシトネちゃんはルノの唇に人差し指を当てて止めてきた。

待て、止めないといけない類の話なのか?

「まったく……何を話したんだよ……」

「あら、女の子の話を聞きだそうとするのはいけないことですよ」

 そう言って笑うシトネちゃんには、先ほどよりも強い凄みが感じられた。

いかん、威嚇に近い威圧で怖がらせる俺とはレベルが違う……笑顔で殺すは女性の方が得意らしいが……本当のようである。

「……わかったよ、何も聞かない」

「賢明ですね、でもまあ、あなたにとっても悪い話ではないことですよ」

 そのまま少しの見つめあいの後、降参というように首を振った……どうもこの子には口や駆け引きでは勝てそうにないなと小さく思う。

そんな俺の様子にクスクスとシトネちゃんが笑う。

今度の笑みに先ほどのような凄みはなく、ただの可愛らしい少女の笑みだった。

そんな話をしていたせいか忘れていたのだが……

「おまえらぁ、ついて来いよ!」

「「「「「あ、ごめん」」」」」

 俺たちが止まっていたことに気づかず先に行ってたのだろう、涙目でアサカが戻ってきていた。

いや、スマン……今回はマジで悪かった……謝罪をいれ、今度こそ案内を再開してもらう。

サナちゃんたちもどうやらついていくことで決定したようだ。

そのままサナちゃんたちにここまでに案内された場所を含めて解説をしながら道案内は続き、中には探索用の道具で安いものなどサナちゃんたちも知らないような話も多くあった。

サナちゃんたちは良いことを知ったとアサカにお礼を言い、アサカが妙に嬉しそうな顔をしていたのが印象深い。

「そろそろか……ヒサメ、最後に一箇所行っていいか?」

 太陽もそろそろ沈むといった頃、唐突にアサカがそんなことを言ってきた。

特に断る理由もなく了承するとアサカは今までの裏道とはまた違う表通りから外れた道を歩き始めた。

今までの道は裏通りでもそれなりの明るさと人の気配があったが、この道はそれとは違い光が入りづらくて人気もない。

そんな道を通ることに少々の不審を覚えるが、アサカの案内は止まらず進む。

「悪いな、この道は近道なんだ……正直ちょっと急ぎたい」

 そんなことを考えていると、アサカから答えが返ってきた。

「急ぎたいって、なんか時間が関係してるのか?」

「ああ、まあ、見てもらえばわかる……この先だ」

 アサカがこちらに振り向きながら、指差した先。

そこからはさっきまでの暗い道の先とは思えない明るさを持っていて……

「「「「「うわぁ……」」」」」

 不覚にも、感嘆の声が漏れた。

街全体を見渡せる展望台、言ってしまえばそれだけだがそこから見えた景色は壮観であった。

その景色だけでも十分なものだが、そこに夕焼けの色が混ざり、さらにその景色を美しい姿としていた。

感心する俺たちを横にアサカはイタズラが成功したような顔を見せる。

「ここはな、作ったのはいいけど来るまでが大変だからってほとんど人がいないんだよ……だけど、わざわざ来るだけの価値はあるだろ?」

「ああ……すげえじゃねえか、まったく、やられたぜ」

 口から出る言葉は一切の嘘偽りのない本気の称賛。

アサカの性格上、こういった景色がいいなどのものを用意しているとは本気で考えもしなかったから、その分衝撃も大きかった。

「アサカ、すごいよここの眺め!」

 ルノも絶賛しながら飛び出すように身を乗り出し、瞳を輝かせている。

無論、その光景を素晴らしいと思ったのは俺とルノだけではなく、

「「「アサカさん、ありがとうございます!」」」

 サナちゃんたち三人もまたその景色に魅せられて、その感激をお礼という形でアサカに表現する。

「はは、今日お前に案内してもらって本当に正解だったよ」

「だろ?」

 本心からそう言って、ニヤと笑ったアサカと二人で拳をぶつけ合った。

「今日サンキュ、アサカ」

「なに、おやすいごようさ、親友」

「わう、ボクもボクも!」

 その光景を見たルノが何故かさらに瞳を輝かし、拳をぶつけ合っている横から自分の拳を突き出してくる。

俺とアサカはその様子に苦笑しながらルノも一緒にぶつけ合わせる。

それから俺はサナちゃんたちの方を向いて、

「少し気分がいい、今から『旅人』来るか? ご馳走してやるよ」

 そんな提案をすれば、全員が嬉しそうな表情を見せた。

「わんっ!」

「本当ですか!」

「あら、今日の目的は果たせそうね」

「ミナモリさん太っ腹!」

「マジか!」

「おう、何がいい? メニュー内なら何でも作るぞ?」

 代金は当然要らない……むしろお釣りが必要なくらいのものを見せてもらったからな。

全員が好き好きに食べたいメニューを答えながら、俺たちは喫茶店『旅人』に向けて歩き出すのだった。





 喫茶店『旅人』、明日より営業再開です。


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