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第四話 『休日』
 アサカをバイトで雇ってから二日後、本日は定休日である。

店を閉めた俺たちはアサカによる裏道抜け道含めた街の中の紹介を受けていた。

ある程度回り、一旦大通りに出た俺たちは、近くの広場で休憩をしていたのだが、

「ヒサメヒサメ、あれ買って!」

「あれ……っておい」

 ルノの指差したほうを見るとフランクフルトっぽいものの販売店があった。

中で店のおじさんと目が合い、その返答かイイ笑顔でこっちを見ていた。

そんな様子を見てさすがの俺も呆れた顔を見せる。

「ルノ、お前さっきから食いもんばっかりじゃね?」

 そう、道中、そして休憩に入ってからルノはひっきりなしに外に出ている屋台の料理を買おうとするのだ。

屋台の食べ物のコンプリートでもする気なのだろうか?

そこからわかるとおり、ルノは結構な食いしん坊である。

どこかで歯止めをかけなければ際限なく食い続けるため中々問題があるのだ。

まあ、あまり金銭面において困ることはないんだが……そういう癖は無い方がいいに決まっている。

「ん~、ダメ?」

「う……わかった、だけどこれが最後だぞ?」

 そうは思っていても、結局ルノの目にやられてしまう。

ことルノのお願いに関して、俺が勝てることはほとんどないと言っていい。

ぶっちゃけかなり甘やかしている自覚がある……俺絶対に子育てには向かないだろうな。

「わんっ!」

 許可が出てルノが弾けるように笑う姿にため息交じりに苦笑する。

それこそ誰が見ても陥落するような笑顔であり、特にある一部の人間にとっては一撃で昇天する威力を持っているだろう。

「よっしゃ、おっちゃん三つお願い!」

 ルノが頼む前に、聞き覚えのある声が響き、俺とルノがそちらを見ると。

「まいどあり!」

 店のおじさんから、三本受け取っているアサカの姿を発見した。

「ヒサメ、会計頼む」

「はいはい、わかってるよ……って、待て、なぜ三つ頼んでいる?」

「あん、俺とお前とルノの分だろ?」

「平然と自分の分を換算しているのは何故だろうな!?」

 叫びながらも既に頼んでいる以上、いらないと言って迷惑をかけるわけにはいかず、俺は店員に三人分の代金を払うしかない。

給料の前借という形で寮の部屋代を払って、なんでこんなもんまで買ってやってんだ、俺?

改めてこいつの厚かましさを知った気分だ。

「串モノ一本ぐらいでそう目くじら立てんなよヒサメ」

「その一本ぐらいも払うこともできない奴が何を言ってやがる」

 少々ジト目になってアサカに突っ込むと、気にしてたのか一気に倒れこんだ。

「ぐあっ……言葉のナイフが俺の心を深く抉る!」

 アサカが俺から離れたところで蹲る。

こいつも結構心が脆いよな……復活は早いけど。

それでも……復活まで待つのも時間がかかるし、なにより目立つ。

今日はアサカがいないと話にならないのだからこのまま置いて行くこともできはしない……俺は心中で一度だけため息をついてアサカへと近づいた。

「ったく、もういい……悪かったからさっさとそれよこせ」

 涙をぼろぼろと流しながらアサカは俺にフランクフルトを受け渡す。

バイトに雇ってからこいつの印象が少し変わった……というよりは発見したといったほうが正しいか。

基本的に明るくてノリがいい……それから、結構落ち込みやすくて立ち直りやすい。

あとは、珍しいほど人種を気にしていない。

ルノと出会った一地方は獣人の扱いが悪く、人間主義の場所だったのだが、それはそこに限った話ではない。

そこほど悪くないにしても、ゼロではないのだ。

特に、多くの人間が流れるこの街では、そういう部分が他の街よりやや多い。

事実、『旅人』の中に入った客がルノを見た瞬間、取って返すように店を出る姿も無い訳じゃないのだ。

その点でアサカはそういうものを一切気にしていない。

そういう事実にルノは救われているし、俺も感謝しているのだが……口にはしない、恥ずかしいから。

「ほら、さっさと次行くぞ、案内しろ」

「任せろ、この街のことならどこでも案内してやるさ!」

 今日は定休日でちょうどアサカも探索に行かない日だったようなので街の案内を頼んだところ快く引き受けてくれた。

この街に来てすぐに、中を少し改装すれば即座に使える優良物件があったので速攻で買い取った俺とルノは到着三日で『旅人』を開店した。

その後は買出しに必要だった主要な商店を除けば、いくらか定休日に街を回っているとはいえ、まだまだ地理に疎い俺とルノにはアサカの案内は非常に都合の良いものであった。

デートスポットなど割とどうでもいい場所を除けば、アサカの案内は非常に便利な場所が多くて役に立つものばかりであったのだ。

「正直意外だったよ、ここまで真面目に案内してくれるなんてな」

「バッカお前、さすがに色々やってもらってるんだ、その分を返すくらいはやるっての」

 もう一つ発見、コイツ思ったよりも律儀である。

まあ、それでも金は貸さないけどな……金絡むと結構人の信頼崩れるし……

そんなふうなことを考えている横で、ルノは楽しそうにアサカと話をしていた。

「アサカアサカ、次はどこに行くの!?」

「そうだな……っと、わるいヒサメ、寄り道していいか?」

 大通りを歩きながら、その脇に外れる道を見て、アサカが止まって俺に聞いてきた。

寄り道……か、まあ、今日の案内自体が全体的な寄り道のようなものだし、

「構わないけど、どこに行くんだ?」

「友達が手伝ってる魔法具店だ、修理に出してた武器を取りに行って来る」

 魔法具店か……それも大通りではない店、あるいは何か掘り出し物があるかもしれない。

「いいぞ、少し興味あるし……というか、金はいいのかよ」

「安心してくれ、先払いで払ってある」

 さすがに修理代をこちらに頼る気はないようなので安心した。

そのまま俺たちは大通りから外れ、やや狭くなった道を歩き始める。

それだけで、外の喧騒が一気に静かになる。

「このあたりって治安はいいのか?」

「どうだろ……とりあえず、路地裏での喧嘩とかは少ないぞ、高等部の学生による治安組織とかもあるし」

「へぇ、学生組織か……」

 学生とはいえ探索者、普通の問題なら十分解決することが出来るだろう。

まあ、ここは探索者の街なので外部の探索者同士の喧嘩などだと危ない気がするけど……

「結構参加人数は多いらしいぜ、単位か金は入るらしいし」

「なるほどねぇ……」

 中等部とは違い高等部は単位制、そのため空いている時間に合わせてチームを組んで取り扱っているらしい。

その部分は学園としての拘束時間となるらしく、授業もしくは学園からのバイトという形となっているそうだ。

そんな風に学園内での話をしていると、古びた魔法具店が目の前に建っていた。

「ここだぜ……お~い、シオン、いるか~」

 アサカが中にいるであろう人の名前を呼びながら扉を開けて入っていく。

俺とルノもその後をついて中へと入る。

「いらっしゃいアサカ……と後ろのお二人は?」

 迎えてくれたのはアサカと一緒の制服を着た男子で、アサカを見て、それからその後ろの俺たちのほうを見て首をかしげた。

おそらく彼がシオンなんだろう。

「俺のバイト先のマスターと従業員で親友だ」

「へぇ、アサカがバイトを……はじめまして、ここで仕事をしているフィオーリア学園高等部で魔法具科のシオンといいます」

 柔和な笑みを浮かべてシオンがこちらにやってくる。

整えられた短めの茶色い髪に、俺よりやや低めの身長をしており、纏っている雰囲気からはアサカとは反対の空気が感じられた。

「水森氷雨だ、喫茶店『旅人』のマスターをしている」

「ルノ・ミンステアです、喫茶店『旅人』の従業員だよ」

 印象は良い、軽く握手をしながら自己紹介をしておく。

「よろしくおねがいします、しかし変わったお名前ですね」

「よく言われる、ちなみに氷雨が名前だ」

 そうなんですかと応じて、今度はルノと握手をしていた。

どうやらこの辺りはアサカと同じで人種に特にこだわりはなさそうだ。

「んで、頼んでいたもんはどうなってる?」

「できてるよ、ちょっと取ってくるから待っててね」

「おう、適当にその辺のを見てる」

 短いやり取りの後、シオンは店の奥へ、アサカは適当な棚の商品を眺め始める。

こちらもルノと一緒に棚に陳列された商品の見物をする。

腕は悪くない……いやむしろ良いと言えるだろう、一般的な技術で作られるものでは高位に位置することは間違いない。

作った店主の意向なのだろうか?

かなり効率を重視し、無駄のない質素な作りになっている……女性受けはしなさそうだななどと変なことを思う。

「一番は……これだろうな」

「わう」

 俺はその中の一つを手にとって見る。

円形の首飾りで、攻撃緩和の力を持っているのがわかる……その力は学生程度の一撃、特に打撃に対しては相当な耐性を得られるだろうことは想像に難くない。

「ほぅ……坊主、見る目があるじゃねえか」

 そんな俺とルノの反応に称賛したのか店の奥からシオンじゃない声が響く。

見ればかなり大柄の厳つい感じの男がこちらへやってきていた。

「ザインさん、ちわっす!」

「アサカか……お前はもう少しこっちに顔を出せ、使い込み過ぎでシオンの奴も毎度苦労してるんだぞ?」

「う……うす、気をつけます……」

 ザインと呼ばれた男は挨拶で下げたアサカの頭に手をのせ、ワシワシと撫で付ける。

おお……アサカが完全にガキ扱いされている……

その後で俺の目を見て……それから俺の手を確認する。

「……若いが良い手だ、坊主……作るのが専門か?」

「ええ……使いもしますが、もっぱら作るほうが好きですね」

「ボクも!」

「ほう……お前さんもか、どれどれ……」

 今度はルノの手をとり、見定めるようにじっくりと確認していく。

「なるほど、坊主ほどじゃないが、なかなかだ」

 そう言って、ザインさんはルノに笑いかける。

……厳つい顔で笑われても逆に怖い、ルノくらいの年で普通の子だと泣き出しそうだな……

などとかなり失礼なことを考えていたのだが、笑いかけられたルノは反面、嬉しそうにこちらを向く。

「ヒサメ、褒められた!」

「おう、よかったな」

「わん!」

 ルノの頭を撫で、ザインさんのほうを見る。

「水森氷雨です」

「ルノ・ミンステアです!」

「俺ぁ、ザインだ、ザイン・ルードスティン、この店の主をやってる」

 よろしくな、と豪快に笑うザインさんに、俺たちも釣られて笑う。

「久しぶりに面白い坊主と会った、なあ、ヒサメ、ルノ……あちらの棚の物をどう思う?」

 視線を向けられた棚を見れば、少々周りとは毛色の違う商品が点在していた。

おそらくザインさんの作ったものではない……だったらこれはもしかして……

「ん、シオンの作った奴じゃねえか」

「やっぱりか」

 アサカの言葉に納得といったように頷き、商品を手にとって見てみる。

ルノもそれに倣い、近くにあったものを手に取った。

「まだまだ……ですけど、才は感じます」

「わう、おじさんのには劣るけど、十分だと思う」

 ザインさんと同じく、基本がしっかりとしており、効果も十分に見込めるものであることがわかる。

とはいえ、さすがにザインさんの如く一切の飾り気がないというのには抵抗があったらしく、シンプルながらもセンスの良い意匠である。

効果で言えばザインさんので確定だが……商品として売れるのはシオンの作品だろうな……

そうやって見ていると、一つ特に才を感じる作品をルノと同時に発見する。

「これ……」

「わぁ、綺麗だね、力も凄い」

 銀の十字架のペンダントで背面に古代言語が彫られている。

技術の面ではやや不揃いな文字列、知識の問題では、綴りとして余計な文字の加えられている古代言語とまだまだなところは見受けられる。

しかし、それでもその魔法具に込められた所有者を護るという力は強く発揮されているのがわかる。

そのことを俺はじいさんからの知識から、ルノは直感でその力に気づいたのだった。

「ほう、やっぱり良い眼を持っているな二人とも」

「ありがとうございます……これもシオンが?」

「おう、最近の中では最高傑作だ、なかなかものだろう?」

「わん! これなら自慢できるレベルだよ!」

「ガハハ、そうかそうか!」

 おそらくは弟子であろうシオンが褒められているのが嬉しいのだろう、ルノの絶賛にザインさんは嬉しそうに笑う。

「アサカ、持ってきたよ……って何をみんなして見てるの!?」

 大きめの剣を抱えるように奥から持ってきたシオンは、俺たちの注目しているモノに気づいて叫ぶ。

自分の作品をまじまじと見られていたのが恥ずかしいのか、その顔は若干赤みがさしている。

「この出来ならそう恥ずかしがるもんでもないだろ」

「そうだそうだ、いつも言っとるだろ、お前さんに足らんのは自信だと」

「うぇ、あ……はい」

 褒められ、怒られ、シオンの顔がパタパタと変わる。

それから、手に持っているモノを思い出し、話を変えるためにアサカに手渡す。

「毎度ありがとな、シオン!」

「これをやるのが僕の仕事だからね」

 アサカは受けとり早速その剣の状態を確認する。

そこで俺もアサカの獲物を初めて見ることになったのだが、俺は少なからず驚いていた。

大きめの剣、その刀身はどこか機械的な造りが見受けられる……そうした類の剣の名を……

機工剣(アーツセイバー)

 機工剣は魔法具が取り付けられた剣で、取り付けられた魔法具により様々な効果を発揮することのできる剣である。

しかし、魔法具というものは繊細で、あるいは衝撃で簡単に機能を停止してしまうなど、こまめに整備をしてやらなければうまく動かなくなってしまう欠点を持っている。

その整備や修繕費のために機工系の武器はあまり人気がなく、作るほうも使うほうも珍しいという状態だ。

「しかし修理……って、ちゃんと手入れしてなかったのか?」

「コイツはシオンの作品で、俺の専属として頼んでるんだけどよ、たまたま時間が合わなくてそのまま連続で探索行ったら……」

「機能の停止が起こったってところか」

 若干声に呆れが混じるのも仕方がないと思う。

繊細な武器なのだから、自分でもしっかり整備できるようになっなければいけないだろうに……

「面目ない……」

「あはは、僕としては勉強になるからいいんだけど、でも自分でもできなきゃだめだよアサカ」

「ああ、了解した」

 アサカは機工剣を止め具を使って背中に背負い、こちらのほうを向く。

「ま、とりあえず俺の用事は終わったぞ」

「そうか、じゃあ案内の続きを頼めるか?」

「当たり前だろ」

「わう、じゃあ行こうよ!」

 次の場所が楽しみなのか、引っ張ってくるルノに引きずられながら俺は手の中にあるものを思い出す。

「シオン、ザインさん、これ」

 それから俺はポケットの中を探して、あるものを投げ渡した。

「っと、これは」

「金貨じゃねえか、一体なんだよ」

「これの代金」

 訝しげに見るザインさんとシオンの前に、銀十字の首飾りを見せる。

「え、あ!?」

「足りるよな!」

 それを見て赤くなるシオンと、ニッと笑うザインさん、そして……

「問題ねえ、持ってけ!」

「あ、ありがとうございます!」

「また来いよ!」

「ええ、必ず」

 俯きがちにお礼を言うシオンと、いい顔で笑っているザインさんに見送られ、俺たちは店を後にするのだった。

「ルノ」

「わう?」

「つけとけ、お守りだ」

 道中振り向いたルノに首飾りをつけてあげると、くすぐったそうにしながらもそれを受け入れた。

「お、いい感じじゃないか」

「わん!」

 アサカの褒め言葉に嬉しそうにしながらルノは跳ね回る。

その動きに合わせて、首の銀十字が太陽の光を浴びながら揺れていた。





 喫茶店『旅人』、その日からお姉さま方の受けがさらに良くなったそうです。


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