プリンセス・ワルツ縦書き表示RDF


「ナイトメア」クイズの正解が10を越えましたので、かねてからの公表通り、「後日談三部作」の公開を開始します。……いっそ、100件とでも言っておけばよかったかもしれませんね(^_^;)
本シリーズでは珍しい恋愛話です。

プリンセス・ワルツ
作:信濃屋 助六


クリスマスイブ。

 一般的には雨が夜更けすぎに雪へと変わったり、サイレントだったりホーリーだったりする日。

 なぜか夜ばかりが偏重される日。

 父親が子供に、男が女に、それぞれ金品やその他、下手すれば人生までをむしり取られる日。

 独り者が部屋で寂しくケーキに蝋燭を立て、「わーっ!おめでとう!」なんて一人芝居の挙げ句に死にたくなる日。
 
 それが、クリスマス・イブだ。


 「明日はクリスマスイブ……」
 珍しく水瀬を教会に呼び出したイーリスが、窓の外を眺めながらぼやく。
 先程まで強く吹いていた風が止み、月が綺麗に映えていた。
 「そうだね」
 「一日だけキリスト教信者が増えるなんて、そんなバカな話があるのは、この国だけだ」

 「いいんじゃない?」

 “コーヒー作れ”。

 それだけのために居候先の喫茶店から呼び出された水瀬は、持ってきたサイフォンの調子を確かめながら、気のない返事をした。
 イーリスお気に入りのコーヒーカップはすでに準備万端。
 カップに描かれたスニーカーを履いたニワトリモドキの生物も微笑んでいる。

 「これが終わればその人達は神道の信者になってくれるもん」
 「お前の所はいい」イーリスは不満顔で答えた。
 「賽銭があるからな」
 「そうだよ?」
 水瀬はどこか、話半分だ。
 室内にコーヒーの甘美な香りが漂い始める。
 「そこが問題だ」
 イーリスは肺一杯にコーヒーの香りを吸い込み、
 「彼らは、教会に説教を聞きに来るわけでも、まして寄付するわけでもない」
 「もうかるのはケーキ屋とオモチャ屋と……ラブホテル。10ヶ月後には産婆さんか」
 「露骨だな」
 「本当のことでしょ?ついでに鶏にとって一年で最悪の日」
 「?」
 「一体、何匹がモモや唐揚げに変わって、卵をケーキの原料にされるやら。イーリスさん。いっそ彼らの冥福祈って、ミサ開いてあげたら?喜ぶよ?」
 「……奇妙なミサだな……それで?私は教会があるが、水瀬はどうするんだ?」
 「ウチには宗教的なスゴイ理由があって、一度もお祝いしてもらったことないのは確か。だから、今更ね」
 「ほう?何もせずに終わるのか?綾乃ちゃんは仕事か?」
 「まぁ、そんな所……はい。コーヒーはいったよ?」
 「ん!」


 予定がない。

 その答えはウソである。
 水瀬には、立派な仕事があった。
 それは、日菜子のお忍びのお供。
 しかも、日菜子が宮中から抜け出す手助けをさせられるというおまけ付きだ。


 そして迎えたクリスマス・イブ当日。

 どこの女の子もそうかもしれない。
 そして、この子も例外ではなかった。

 「うーん」
 姿見の前で一回転して、首を傾げているのは、日菜子だ。
 「これで、いいでしょうか?」
 「はい。大変お似合いでございます。殿下」
 そう答えるのは、日菜子付きの女官、橘綾音(たちばな・あやね)だ。
 橘の周囲では、日菜子が脱ぎ散らかした服を片づける別な女官達が右往左往している。
 「本当ですかぁ?」言われても、日菜子は不審そうな顔を崩さない。
 「本当でございます」橘は答えた。
 「本当に、よくお似合いでございます」
 「そうですか……」
 「そうでございます」
 「わかりました。それでは橘」
 「はい」
 「このことは、絶対に他言無用に」
 「心得ましてございます」
 橘達が一礼する間に、日菜子は部屋から出ていった。
 「橘様」
 周囲の女官達が、心配そうに橘の周囲に集まる。
 「本当に、よろしいのですか?お(ぐし)まであのように変えられて」
 「かまいません」橘は平然と答えた。
 「我々は、日菜子殿下の命令のみに従う身です」
 「いえ、あの、そうじゃなくて」
 「?」
 「殿下、今朝までお仕事を」
 「……隠密衆が御守り申し上げる。問題はないでしょう」


 それから1時間後のことだ。
 宮中参拝を終え、宮中から出ていくのは、観光客の一団。
 ガイドに案内されてバスに乗り込もうという彼らから走り出し、どこかへと消えた二人組がいたのに気づいた者は、いなかった。
 
 「はぁ……はぁ……ぬ、ぬけました」
 駐車場に止まったバスの影で息を整えているのは、
 「殿下、大丈夫ですか?」
 「水瀬こそ」
 そう。
 日菜子と水瀬だ。

 観光客の中に紛れ込み、どさくさにまぎれて宮中を脱出するという水瀬の手は、今のところ上手くいったようだ。
 水瀬が周囲を警戒するが、少なくとも駐車場に敵対する気配は存在しない。
 「それで?どちらへ」
 「まずは―――」

 日菜子に連れられる形でやって来たのは、ウエストプロムナード。
 東京タワーがブリッジの中央に来るように設計されたというだけあり、最高のロケーションを誇る。
 「へぇ」
 「いい所でしょう?」
 お上りさん同然に感嘆の声を上げた水瀬に、日菜子が楽しげにそう言った。
 「はい……スゴくきれいですね」
 「ええ。あっ。ベンチ空いてますね」
 腰を下ろしたベンチの前を、何組ものカップル達が通り過ぎていく。
 風がやや寒いが、ここに集まるカップル達にはそれすら親しくなるきっかけでしかない。
 いちゃつくカップルを目の当たりにする機会の少ない日菜子にとって、それはなかなかに刺激的な光景ではあった。
 「殿下は、ここにはよく?」
 「いえ。初めてです」
 取り留めもない会話でも、日菜子は楽しげだ。
 しかし、そこへ来たのは……。
 「ねぇ彼女達!」
 見上げると、いかにも遊んでいます。という顔の二人組の男達が立ちふさがる。
 「二人だけ!?」
 「いえ。連れがいます」水瀬がきっぱりとそう言い切った。
 「あの……」
 「失礼します。……行きましょう」
 水瀬は、日菜子の言葉を遮ってそう言うなり、日菜子の腕を掴んで歩き出す。
 「いいじゃん!連れなんて放っておいてさぁ」
 男達も諦めたわけではない。
 その男達へ、水瀬は二言三言告げた。
 それだけで、男達は逃げていった。
 「?どうしたのですか?」
 「いえ。親がヤクザで一緒に来ている。さっきナンパしたヤツは海に沈んだって。そう言ってあげただけです」
 「ウソは、いけませんよ?」
 「方便、です。それより、さっきの話ですけど」
 
 そのまま歩き続けた二人は、お台場海浜公園にさしかかり、そして新たな難問にぶつかった。
 「ねぇ!ちょっといい!?」
 二人の前に立ちふさがったのは、カメラとマイク、そしていかにもな格好のヒト。
 「今日、クリスマスイブよね?それでね?」
 向けられたマイクに青くなる水瀬と、興味深そうな顔をする日菜子だったが、
 「す、すみませんっ!」
 水瀬は日菜子の腕を掴んで走り出した。
 「ち、ちょっと水瀬!?」
 走りながら日菜子が抗議した。
 「質問にはきちんと答えなければ失礼ですよ!?」
 「答えたらどうなるか考えてください!」

 それから二人が行った先は、いわゆる「雑誌によく出てくるデートスポット」。
 その一言で片づく。
 テレビ局でスタンプラリーに挑戦したり、展望室に登ったり。
 かと思えば、テーマパークでアトラクションに並んだり。
 日菜子は終始楽しげだ。
 それだけが、水瀬の救いだ。
 水瀬は、顔にこそ出さないものの、場所を変える度に疲労が蓄積していくのが自分でもわかったから……。

 女の子とデートして疲れるとは何事か?

 そう、思われるかもしれない。

 だが、水瀬のために弁護しておけば、あまりにトラブルが多すぎたのは確かなのだ。

 無論、アトラクションが終わった途端、番組(しかも生放送)のインタビューを求められて逃げる最中、テーマパークの着ぐるみ達の中を突っ切って、警備員に追い回されたり、しつこいナンパ野郎を数回沈めてやった程度は、まだいい。
 
 特設の巨大ツリーに気を取られた日菜子が、スキンヘッドのヤクザにぶつかった挙げ句に、深々と頭を下げて「お坊様。大変失礼致しました」なんて答えたり、

 「あのお城のような建物は何ですか?」
 日菜子が指さしたのは、昼間からカップルが行列をなす建物。
 建物から、どうやら娯楽施設と勘違いしたらしい日菜子が、
 「行ってみましょう」とか言い出したり、

 こっちの方が近道かもしれない。と、もっとヤバ目の風俗街を突き抜けようとしたり、

 これ、カワイイですね。制服ですか?といってその手の古着屋に入ろうとしたり……。

 ……その繰り返しだ。

 その度に水瀬が止めに入り、四苦八苦して日菜子をなだめすかして危機から遠ざける。

 わざとやっているようにしか思えない。

 そんな水瀬の表情が楽しくてしかたないらしく、日菜子は終始笑顔を絶やさない。

 だから、水瀬は怒るに怒れないでいた。

 その笑顔が、決して作られたものでないことは、水瀬自身がよくわかっていたからだ。

 いつしか、水瀬自身、その笑顔がみたくて疼いている……。


 変化は、3時を回ってから起きた。

 「殿下?そろそろお茶でも」
 「……」
 「殿下?」
 「えっ?」
 日菜子が驚いたようにあたりをきょろきょろし出した。
 「どうしました?何か、ありましたか?」
 「……殿下?」
 まずい。
 露骨なまでに言葉が少なくなってきた。
 会話がつながらない。
 (機嫌を損ねたか?)
 そう思った水瀬は、いろいろ会話を試みるが、日菜子は最後には顔色が悪くなっていた。
 「ど、どうなさったのですか!?」
 「……なんでもありません。さ、お茶でも飲みましょうか?」
 「で・ん・か」
 「きゃっ!?」

 水瀬は突然、背後から日菜子に抱きついた。
 「み、水瀬っ!?」
 赤面して知らずに大声を上げてしまう日菜子の回りでは、
 「あらあら」
 「くすっ。何あれ」
 「あら、かわいいわねぇ」
 二人の周囲を通り過ぎる通行人達が奇異の視線を向けてくるのが、イヤでもわかった。
 「は、放しなさいっ!」
 「ワケを話してくださったら放します」
 「―――っっ」
 「どうなさったのですか?」
 男に抱きつかれる恥ずかしさ。
 周囲から奇異の視線で見られる恥ずかしさ。
 「……言ったら、水瀬が怒ります」
 「言わない方が怒ります」
 「……」
 しばしの沈黙の後、日菜子はついに白状した。

 「……眠いんです」


 連日の公務。
 しかも、今日一日の公務を休むため、前日からは徹夜仕事だ。
 その上、あちこち走り回ったせいで、その疲れが一気に出たのだ。

 「……殿下」
 水瀬は日菜子の手を掴んで歩き出した。
 「あそこに行きましょう」
 「え?み、水瀬!?」
 水瀬が歩き出した方角には、
 「ラブホテル」
 と書かれた看板のある建物がいくつもある。
 日菜子だって、それがどういう目的で使われるかは、さすがに知っている。
 さっき、その建物に行こうといったのは、本当に冗談だったのだ。
 全部、水瀬が慌てるのが楽しくて、馬鹿をやったのだ。
 それなのに、今、私は求められている。
 (えっと……)
 日菜子は必死になって考えた。
 (下着はおろし立て。上下フルセット。問題はないのですが……)
 問題は、日菜子の心の準備が整っていないことだ。
 「水瀬!」
 日菜子はたまらず叫んだ。
 「待ってください!あ、あの……私まだ」
 「?そこの植物園ですよ?」
 「―――えっ?」

 水瀬が日菜子を連れて行ったのは、深夜まで楽しめることで話題の温室植物園だった。

 地下から湧く温泉を使った植物園で、室内は暖かい。

 「暖かいから休むのには丁度いいです」
 水瀬はベンチに日菜子を誘いながらそう言った。
 「……あまり楽しめるところではありません」という日菜子だが、ベンチに座ったと思った時には、眠りの中に落ちていった。



 (やっぱりかわいい)
 水瀬はただ、じっと日菜子の寝顔に見入っていた。
 整った顔立ちがみせる安らかな寝顔。
 形のいい耳。
 芸術品のようなうなじ……。
 水瀬はただ、それに見入るだけ。
 たったそれだけで心臓が高鳴ってくる。
 心が騒ぐ。
 水瀬ははっきりと自覚していた。
 それは、祷子と別れて以来、綾乃にも一度しか感じたことのない感情。
 男としての異性への思慕。
 
 日菜子の体温が、
 日菜子の香りが、
 「―――んっ」
 艶めかしくすらある寝言が、
 太股に感じる寝息が、
 日菜子という存在そのものが、
 水瀬に、自分が男性であることを思い知らせる。

 さっき、どさくさ紛れに抱きついた時、髪の中でした深呼吸。
 脳がとろけそうだった。
 自分の事だからわかる。
 いつからそうなったか。
 きっかけが何だったか。
 それはわからない。
 それでも、
 それでも、だ。

 僕は、殿下のことが……。

 (だ、ダメだからね!)
 水瀬は必死になって因数分解の問題を考え続けた。
 身分を考えて!
 それになにより、もし、ここで日菜子が起きるなり、「さぁ!すぐに行きましょう」とベンチから立たされたらどうなる?
 殿下から軽蔑される程度では済まないぞ?
 それはマズい。
 (……あっ。そうだ)
 水瀬は日菜子を起こさないように胸のポケットから携帯電話を取り出し、ピクチャフォルダを開いた。
 パスワードでロックされているフォルダから一枚の画像を再生する。
 (やっぱり、効くなぁ)
 その画像を見ただけだ。
 効果はてきめんだ。
 それだけで、水瀬は因数分解を解かなくて済む。
 水瀬は、心の中で写真に感謝した。
 (さすが綾乃ちゃん)


 「んっ」
 日菜子が目を覚ました。
 「あ、あら?」
 「目を覚まされましたか?」
 「み、水瀬!?」
 飛び起き、そして驚いた。
 「い、今、何時ですか?」
 「午後8時30分です」
 「私一体……」
 「よくお休みでしたよ?」
 「す、すみませんでした」
 「いえ」
 水瀬がイタズラっぽく答えた。
 「寝顔が、可愛かったですよ?」

 さすがにもう限界だ。

 二人は宮中に戻ることにした。

 通りかかった公園横のホールで行われているクラシックコンサートの演奏が聞こえてくる。
 今日ばかりは公園で遊ぶ者はいない。
 子供達は、暖かい家庭で遊ぶのだ。
 公園を抜けようとする二人の周囲に、人影はない。

 日菜子は、演奏に耳を傾けつつ、それでもぼやいた。

 「デートコースを途中まで回れませんでした」

 「ちなみに、どのような?」
 「えっと……六本木でお買い物をして、それから鎌倉、横浜山下公園、さらに横浜ベイブリッジの夜景の見えるレストランでお食事を」
 「い、移動時間でかなり無理があるかな……と」
 「……」
 移動方法をまるで考えていなかった自分に気づき、日菜子は思わず赤面した。
 「殿下らしくていいですよ」
 フォローのつもりだろう。
 水瀬はそう言うが、
 それが、逆に日菜子の逆鱗に触れた。
 「そ、そんなこと、言わなくてもいいじゃないですか!」
 日菜子は、顔を真っ赤にしてそう怒鳴る。
 「殿下?」
 「そ、それは確かに―――」
 日菜子は拳を握りしめながら水瀬を睨み付けた。
 「私は宮中と学校以外、ほとんど何も知りません。世間知らずで、何も知らないんです!それでも、それでも私は私なりに精一杯、考えたんだんです!」
 

「……うーん」
水瀬はちょっと考えた後、日菜子に待っていてくれと言い残し、姿を消した。
「……」
公園のベンチに座り、足下の石を蹴りながら、日菜子は思う。

 どうして、生まれて初めてのデートで、こんなことになるんだろう。

 自分は、世間並みのデートは出来ないのだろうか。

 せっかく勇気を出して水瀬を誘った。
 別に水瀬に落ち度があったわけではない。
 ずっと、自分を守ってくれていた。
 私だって、精一杯おしゃれして、計画して、そして途中まであんなに楽しかったのに

 それなのに、何でこうなるんだろう。

 「はい。殿下」
 泣きそうになる日菜子に差し出されたのは、紙袋。
 「?」
 中身は焼き芋が一本。
 「何ですか?」
 「焼き芋です」
 「焼き芋?」

 結局、ベンチに座って、二人で焼き芋を分け合って食べたものの、日菜子の内心は複雑だ。
 甘くて暖かい食感が心をほぐしてくれるが、生まれて初めてのデートの食事が、レストランの食事じゃなくてこんな焼き芋とは……。
 それが、割り切りれない。
 
 「殿下」
 そんな日菜子に、水瀬は言った。
 「……デートは、どこに行くかじゃないです。それより大切なことがあるんです」
 「何です?」
 「二人で一緒にいることです」
 「……」
 「二人でいれば、どこだって、どんなことだって楽しめます。レストランの豪華な食事じゃなくても、こんな焼き芋でも、二人でわけあって食べることだって楽しもうと思えば楽しめるものです」
 「要は、心の持ちよう―――そういうことですか?」
 「そうです。……あの、美味しくないですか?」

 モクモク……
 日菜子は焼き芋をかじりながら答えた。

 「おいしいです」

 いいつつ、日菜子は内心で驚いていた。

 デート。

 自分は一言も言っていない。
 それなのに、これがデートと水瀬が認識してくれていた。
 それが、最高にうれしい。
 
 日菜子は、水瀬に見えないように、そっと、涙をぬぐった。




 それからしばらく、焼き芋をかじりながら、とりとめもない話が続き、
 「あっ!」
 不意に水瀬が立ち上がった。
 「何です?」
 訳がわからず、きょとんとした日菜子は水瀬を見た。
 「曲が変わりました―――ほら。ワルツです」
 「……そうですね」
 「殿下」
 水瀬は日菜子の手をとる。

 「踊りましょう」

 「えっ?」

 「せっかく、タダで演奏してくれるんです。踊らないと損ですよ?」

 日菜子はいう。

 「レディを誘うなら、方法があるでしょう?」

 「あっ。そうですよね」
 「クスッ。そうです」

 水瀬は片膝をついて日菜子に言った。

 「一曲、いかがですか?」

 日菜子は微笑みながら水瀬の手をとった。

 「―――はい♪」

 誰もいない公園

 そこで踊る二人。

 「何やってるんでしょうね?私達」
 「はたから見たらバカですね」
 「ふふっ。バカも楽しいですね」
 「はい」

 そんな中、思い出したように日菜子は言う。

 「そういえば、クリスマスプレゼント、忘れていました」
 「僕もです」
 「どうしましょう」
 「さっきの焼き芋じゃ、だめですか?」
 「皇女がもらうプレゼントじゃないですけど」
 「インパクトありません?いい思い出になりますよ?」
 「ふふっ……水瀬」
 「何です?」
 「来年もまた、こうしてクリスマス、一緒にデートしてくれますか?」
 「―――はい。よろこんで」

 曲の終わり……照明に浮かぶ二人の影が、重なった。





 翌日―――

 ニギャァァァァッ!!
 橘は、寝室からあがる猫の悲鳴に驚いて、即座に日菜子の寝室に飛び込んだ。
 「で―――」
 そして、その場の光景に言葉を失った。
 
 そこには、猫を抱きしめながら七転八倒する日菜子の姿があった。

 顔はにやけきり、きゃーきゃー叫び、悲鳴を上げる猫を抱きしめながら完全に舞い上がる日菜子の姿が、あった。

 橘は、後ずさりするとすぐに部屋を出た。

 世界中のあらゆる祭典を一挙に行っても足りないだろうほど、脳内が盛り上がった日菜子が気がついた時、武装した女官達と、医師団が部屋に飛び込んできたという。

 「全く、ヒドイ騒ぎです」
 ぼやきながら、いつもより遅れて朝の公務を行うため、執務室に向かうと、
 「あら?」
 執務室には姉の麗菜がいた。
 麗菜は憮然とした表情で、妹を出迎えた。
 「姉様?」
 「日菜子」
 その声は、明らかに説教モードだ。
 「はい」
 「そこへ座りなさい」
 日菜子は無言で席についた。
 「昨日のことなんだけど」
 「……」
 「公務を休むことは知っていました。しかし、宮中を無断で抜け出すとは何事ですか?」
 「……」
 「日菜子」
 「……遊びたかっただけです」
 日菜子はふてくされたように答えた。

 そう。
 それだけだ。
 私は水瀬と遊びたかった。
 年頃の娘として、遊びたかった。
 その、何が悪い?

 日菜子は憮然とした顔でただ、机に視線を落とした。

 「遊び?」
 麗菜は、その言葉を聞きとがめた。
 「遊びだというの?」
 「……はい」
 「デート、じゃなくて?」
 「えっ!?」
 その時初めて、日菜子は麗菜を見た。
 近衛軍総司令官、
 皇位継承権者、
 その肩書き故に課せられる義務故に、姉上はここに来た。
 そう思っていたのだ。
 しかし、
 
 顔を上げて見た姉は違った。
 
 そこにいたのは、姉であり、そして母だった。

 麗菜の目は、決して怒っていなかった。

 ただ、慈愛を浮かべ、優しく妹であり娘である日菜子を見つめていた。

 「……姉様?」

 「これ」
 麗菜が机の上に放り投げたのは封筒。
 投げられたショックで中身が机に広がる。
 中身はすべて写真だ。
 「これって!」
 愕然とする日菜子に麗菜は言った。
 映し出されているのは、すべて自分達。
 行動は、すべてトレースされていた。
 あの公園での出来事まで、だ。
 それを、写真達が告げていた。

 ぴらっ。
 麗菜が取り上げたのは、その中の一枚。

 「正直、これには驚いたわ」

 「!!」
 日菜子の顔が一瞬にして耳まで真っ赤になった。

 それは、あのワルツの後の二人―――。

 「大人の階段、ちょっとだけ登ったわね」
 感慨深げに麗菜は写真に見入るが、
 「返してください!」
 日菜子が食って掛かる。
 「だぁめ。これは私のよ」
 クスクス笑う麗菜に、反論する言葉も、ない。

 「―――まぁ、いいわ」

 麗菜は言った。

 「今は、夢を見なさい」

 「あの……」
 意味が、わからない。

 「安心して。昨日の事は、すべて箝口令を敷いてあります。ただ」
 「ただ?」
 「水瀬は、罰します」
 「えっ!?」
 「当たり前でしょう?軍規違反だもの」
 「と、止めてください!」
 「止める前にね?」
 麗菜は気の毒そうな顔で言った。
 「樟葉が怒っちゃって……いえね?私は日菜子がここまでやったことを褒めるつもりで言ったのよ?それが」

 結局、日菜子が宮中から抜け出す手助けをしたとして、水瀬は樟葉に殴られ、懲罰任務が科せられたことは本当だ。

 「どうやって水瀬に謝る?あなたの命令でしょう?」
 と聞く麗菜に、青くなった日菜子は言う。

 「どうしましょう?」




 


●お知らせ●
「美奈子ちゃんの憂鬱」シリーズの設定資料集のページを作成しました!
題して「美奈子ちゃんの憂鬱Wiki」……もっとヒネるべきですね。
アドレスは
http://www28.atwiki.jp/ayano01/pages/1.html
です。
一度、ご覧下さい。
ただし、かなりのネタばれが含まれていますのでご注意下さい。











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