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地球人宇宙人混合車両

作者: 尾山 湊洋

 私は宇宙人だ。この地球と言う星に諜報員として一年ほど前にやってきた。この地球人の身体を拝借して地球人になりかわって生活している。

 この地球人は中企業のサラリーマンというごく一般的な人間らしく、私は彼の中に入っているため出勤をしなければならない。これも地球の中に溶け込んで様々なことを調べていかなければならないためだ。

 記憶などは彼の脳から引き出すことができるので特に困ったりはしないのだが、面倒なのは行動なのである。自分より偉いものにはこうしなければいけない、ということが私の星での作法とは全く違うので戸惑う。非常に難しい。


 と、今は出勤中なのだ。


 全く、地球の中でもこの日本という国に来たのは失敗だったような気がする。毎朝毎朝日本人はせかせかと忙しそうに動いている。何をそんなに急ぐのか。時間には厳しいし、正確でないといけないだなんて本当に面倒である。

 私の星の出身者は地球人の百倍ほど生きるので、そこまで時間は気にするほどはない。この環境にはどうも慣れづらい。しかしこれも調査の為…我慢するしかないだろう。

 何故調査をしに来たか?私の星は人口が増えてしまったために住める場所が足りなくなったため、私たちが生存できるような環境の整っている星を探しているからだ。太陽系の中でも地球は一番環境がよさそうだったので地球が今回の調査対象となっている。

 もしこの星が適正と判断されれば、地球人を絶滅させ私たちが移り住むことになっている。大丈夫だ、痛みなど感じぬうちに全ての地球人を殺せるほどの技術はもう千年ほど前には開発されている。実際約五百年前の太陽系から遥か彼方で勃発した宇宙大戦では地球の二倍ほどの大きさで人口は四倍ほどある星をたった数分で全滅させられたのだ。


 地球は空気や水も豊かだ。おそらくこれは審査に通るだろう。しかし私は地球人以外の脅威が存在しないかどうかの調査をしているのである。今のところ他の生物はどれも私たちには簡単に扱えそうなものしかいないので問題ない。


 ガタゴトと電車に揺られる。この星の文明は遅れているのだな。私の星にも同じような乗り物はあるが全く揺れたりしない。

 目の前にあと数年で寿命を迎えるであろう老婆がフラフラと立っている。非常に危ない。あまりにも危険であったので私はそっとドアの近くから退いて老婆にそこに立つように言った。すると老婆はにこにこと笑いながら「ありがとうございます」と指差したところに立った。

 ……別に地球人を殺すのが惜しいなどとは思わない。が、何とも言えぬ気持ちになる。きっとこの身体が地球人だからなのであろう。

全く、元の姿に早く戻りたい――――






 あたしは宇宙人。この地球と言う星にずっと前から興味を持ってて、一ヶ月ぐらい前にやってきたの。この地球人の身体を借りて地球人になりかわって生活してる。

 この地球人はJK、と言われる人間らしく、あたしは彼女の中に入っているため通学しなくちゃいけない。これも地球の中に溶け込むためには仕方がないかな。

 記憶とかは彼女の脳から引き出すことができるので特に困ったりはしないけど、面倒なのは他人との関係。友達といっても別に心から信頼するわけでもなく上っ面だけだったり、恋人が浮気だとか横取りされたりだとか。こういうことがあたしの星とは全く違うのですごく戸惑う。非常に難しい。


 と、今は通学中。


 本当に、地球の中でもこの日本という国に来て正解だったと思う。何をするにも便利だし、可愛いものは沢山売ってるし。プリクラ、という面白い機械まである。ぴかっと光るのはちょっと苦手なんだけど。カラオケという所にも友達に連れて行かれたけどすごく面白かった。

 あたしの星の出身者は可愛いものが大好き。この国にある「キティちゃん」なんて本当に可愛くてたまらない。今すぐにでも星に持って帰って自慢したいぐらい。この地球人は「キティちゃん」が好きみたいでカバンに沢山ついていて幸せ。とっても素敵。

 何故来たか?だって可愛いものが欲しかったから。あたしの星はもう可愛いものに限界が来てたの。でも一度だけ地球のことを望遠鏡で覗いてみたらすごくすごく可愛いものがあって!こんな可愛いものに囲まれたところで住めたらいいのにって思ったし。……あ、でも地球人の顔って凄く変な感じね。あんまり可愛くないわ。折角可愛いものを作れるのにどうして可愛くないのかしら。凄く不思議。

あたしの星だと容姿はその人が作るものと同じようになるのよ。可愛いものを作る人は可愛いし、かっこいいものを作る人はかっこいい。不器用だと大体不細工になるわ。あたしはまあ……そこまで可愛い方じゃないかな。作るの得意じゃないし。

 ガタゴトと電車に揺られる。あっちこっちに可愛いもの。あの地球人もJK、という人種みたい。この星ではそのJKという人種はとても可愛いものらしい。でもあの地球人はそんなに可愛くないわ。まだあたしが中に入っている地球人の方が可愛い。

 斜め前に何だか冴えない感じのサラリーマンという人種の地球人が立っている。…かっこよくないな。じっと見ていると、そのサラリーマンはそっとよぼよぼの老婆を安全な方へと移動させた。あら、何。優しくてかっこいいじゃない。こういう地球人もいるのね。

 ……別に地球人に惚れたわけじゃないわよ。だけど、何とも言えない気持ち。きっとこの身体が地球人だからよね。だからこんな変な気持ちになっちゃったんだわ。こんな地球人に好意を抱くなんて。やだやだ。

でも、元の姿には戻りたくない――――






わしは宇宙人じゃ。この地球と言う星にわしの宇宙船が墜落してからもう五十年ほど経った。墜落した時に巻き込んでしまった地球人の身体を借りて地球人になりかわって生活している。

 この地球人は五十年前は息子がいる母親じゃった。今は息子も独立し、老いぼれじじいと二人で住んでおる。実を言うとわしは生物学的にはオスなのじゃが、女の地球人の身体の中におる。思い切り失敗した。何が楽しくて男と五十年も寄り添って生きなくちゃいけなかったのじゃろう。まあ、そんなこんなで働くことがないので日々のんびりと生活しておる。

 記憶などは彼女の脳から引き出すことができるので特に困ったりはしなかったのだが、最近は脳が衰退してきて記憶が途切れ途切れになっていて非常に困っておる。これがいわゆるボケというものだと、テレビでやっておってわしは非常にショックを受けた。わしの星ではこんなことはないので戸惑う。非常に困る。


 と、今はお出かけ中じゃ。


 全く、地球の中でもこの日本という国はやたら年寄りが多いのう。わしもじゃが。あっちを見れば老人、こっちを見れば老人。老人、老人、老人。そのお陰かこの国は少し老人に親切な気がせんでもない。いいことじゃ。しかしこの時間に出掛けたのはまずかった。人が多すぎて押しつぶされてしまいそうじゃ。

 わしの星の出身者は地球人と同じほどの寿命じゃが、年寄りには厳しい。老いぼれはすぐに死んでしまえ、というのがわしの星では普通じゃった。この環境はどうも慣れづらい。あっちにいけば譲ってもらったり、大丈夫ですか?と声をかけられたり。別に有り難いなど思わんがな。

 何故地球に来たのか?わしの星は前々から地球を侵略しようとしておったのじゃがな。まあ、わしが他の星に遠征しに行ってる間にわしの星は戦争を起こして潰されてしまったのじゃ。帰ってみれば全滅。どうしようもない怒りを地球にぶつけようと思ったら墜落するざまじゃ。

 地球で今まで住んでおるが、何だかんだで住みやすい。もう生き残りはわししかいないだろうから、生きてる間に仇を討てたらいいんじゃがな。地球から出る気にもなれはせん…まず宇宙線も無いのじゃから地球から出るのはもう無理かもしれん。

 地球にも宇宙船があるのかと思いきや、どうやらスペースシャトルどまりらしい。月に行くだけで大騒ぎしとるぐらいじゃからな。故郷もなし。もうこのまま地球で死んでいくとしようかのう。


 ガタゴトと電車に揺られる。街並みは五十年前より故郷に少し近づいてきた気がする。

 掴まるところに手が届かず、フラフラと立っていた。わし自身も危ないと思ったが、どうしても手が届かない。それどころか押しつぶされそうになってしまう。全く年寄りの地球人はわしら異常に脆いのじゃから困るわい。すると、あまりにも危険に見えたのであろう、若い男がそっとドアの近くから退いてわしにそこに立つように言ってきた。この男も押しつぶされそうになりながら出勤しとるというのに…


「ありがとうございます」


 ……別にいつも年寄り扱いしてもらいたいとは思わん。じゃが、優しくされると何とも言えない気持ちになる。きっとこの身体が地球人だからなのであろう。

ああ、地球で死ぬのも悪くないのう――――






地球人宇宙人混合車両


あなたの目の前にいるのは本当に地球人だろうか、

それとも―――――――



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