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太郎のある日曜日の変
作:ひゃまぐの箱


太郎は2年生だ。
家族構成はパパにママ。そして太郎の3人だ。
友達もそれなりにいて、成績もまあまあ。テレビゲームが好きだったり、家の大きさも人並みで、つまりは普通の家だ。太郎は普通であればあるほど、それに越したことはないと思っている。
そんな太郎のある日曜日のことである。
「もう十時よ!起きなさい!」
日曜日の朝。これはママのお決まりのセリフになっていた。太郎の日曜日は決まって布団にくるまり起きようとしない。こうなるとママは太郎を無理矢理にでも起こそうと布団を引っ張る。
太郎は太郎で意地でも出ないと布団をしっかりと握り締め放そうとしない。暫く太郎とママの攻防戦は続くのである。
力で言えば、断然ママの方があるだろう。だが、毎週のことなので太郎もまだ負けていない。今日こそは出ないと誓っているのだ。
ママは布団を引っ張りながら叫んだ。
「起きな。健ちゃんから電話よっ!」
そう聞いて太郎は布団から手を放した。ママは勢い余ってひっくり返った。
「電話なら早く言ってよ!」
太郎は尻餅をついたママにそう言い捨てて部屋を後にした。
太郎の家の電話は廊下に置いてある。太郎は慌てて受話器を取ろうとした。
「あれ。」
受話器は綺麗に本体に納まっている。この電話には保留機能はついていない。
騙された。
太郎は自分の部屋を思わず見た。ママは布団をたたみながら太郎を見ている。寒いのを我慢して出たたのに…と太郎は文句を言いたそうだ。
今回の攻防は、どうやらママの作戦勝ちのようだ。
プルル…と太郎の目の前で電話が鳴った。太郎はすぐさま電話に出た。余りに早く出たので向こうが驚いて
「え」と声をあげた程だ。その声に聞き覚えがある。健ちゃんだ。
「タロ(太郎)今日一緒に遊ぼうよ。他にも呼んでさ。」
ママの嘘もたまに本当になることもあるらしい。
「いいよ。何して遊ぶの?」
「外すごく天気いいし、公園の雪山にソリ持ってさ。」
「外行くの?中で遊ぼうよ。」
健ちゃんは楽しそうに言ったが、太郎は乗り気ではない。
だって外は寒いのだ。雪は冷たいし、何より晴れている日は雪の降っている日よりなぜか寒く感じる。今日は正にその日だ。
太郎はこういう日はできれば外に行きたくない。布団からも出たくない。
「とにかく他にも声かけてタロん家行くから、待ってて。あとでね。」
健ちゃんは、さっさと電話を切ってしまった。太郎も受話器を置くといつの間にか背後にママが立っていた。
「子供は風の子。遊んできなさい。」
ママは微笑んで太郎の背中をたたいた。
部屋でテレビゲームをしている方が暖かいし楽しいと思うのだが、遊ぶと約束したからには外に行くのは免れない。
太郎は仕方なしに顔を洗いに行った。ご飯を食べ終え服も着替え、健ちゃんが迎えに来ると言っていたので、太郎はそれまでコタツでテレビでも見ようと畳の部屋に向かった。
窓から外が見える。見るからに寒そうである。
太郎は身震いをして外でも遊べる完全防備のまま、急いでコタツに足を突っ込んだ。寒いのだ。
ざわっ…
太郎の足に何かが触った。
生温かく毛深いような、パパではない。パパは仕事に行っているはずだからだ。
太郎はコタツの中を覗き込んだ。猫がいる。
しかも普通の猫ではない。シルクハットを被っているのだ。
太郎は思わずコタツから離れた。慌てて出たのでコタツがガタゴトと揺れた。
太郎は猫を飼っていない。それにシルクハット。きっと見間違いと思った。
だが、コタツの中からその猫は這いだして、太郎の前にすっと立つ。
手には杖を持ち黒のスーツでバシッと決めている。猫はシルクハットを脱いで丁寧にお辞儀をしたのだ。
太郎はつられて頭を下げた。「いきなり顔を蹴られるとは思いませんでした。」
顔をあげると猫は丁寧な言葉で日本語を喋ったのだ。
「英語の方が良かったですか。」
猫が喋っている事が問題なのだが、太郎は笑って気にしないことにした。
「それよりもです!太郎君!」
急に緊迫して猫は杖を打ち鳴らした。バシバシと畳の性か鈍い音がする。
「早くここから出るのです!ここは危険です!」
猫は太郎の手を掴むと引っ張った。当然のように太郎には訳が分からない。なぜ太郎の家にいることが危険なのか。
「意味わかんないよ。猫。」
その時だった。突然家が大きく揺れた。太郎は思いっきりひっくり返った。
「なんだ?」
「これは獣の体内です。ですから急いで外へ!」
「意味分かんないってだから!」
太郎が叫んでいると尚も揺れは激しく、色々なものがあたりに倒れた。太郎は慌てて跳び退いた。その上遠吠えまで聞こえてきた。
「わかったでしょう。さあ早く。」
「出るってどこに」猫は杖で窓を指した。
太郎は怪訝な顔をした。
外は寒い。
太郎はこの妙な状況の中でも外には出たくない。
ガタンッ…横に大きく揺れて畳の部屋は窓を上にして傾いた。そのためにテレビやタンスは、吸い込まれるように畳を滑って扉に消えた。太郎も扉の方へに滑っている。太郎は青ざめた。扉に入っては行けない気がしたのだ。
「捕まりなさい!」猫は叫んだ。太郎は杖を掴んだ。
部屋は尚も傾く。
猫はシルクハットを抑えながら、太郎を杖で持ち上げようとした。窓まで何とか行こうと引っ張った。が猫に人間が持ち上がるわけがない。
「これは少々無理ですね。」
「無理?このままじゃ落っこちる!」
太郎は猫に訴えた。「仕方ありませんね。窓から出るのは止めましょう。」
「じゃあ、どうするの?」
猫はコタツを指さした。
コタツはなぜかこの状況下滑らずに部屋の中央に残っている。
明らかに変なコタツだ。
太郎はぶら下がっている状態で猫を見た。猫なのに汗を掻いている。
太郎は言われたとおり杖からコタツに捕まった。
猫はすかさず杖でコタツの布団をめくった。
コタツの中が光っている。
部屋が激しく揺れ始めた。
太郎はバランスを崩しコタツの中に落っこちたのだった。
太郎は光に包まれた。かと思うと吹っ飛んでいた。白いものがあたりに広がっている、その中に太郎は頭から突っ込んだのだ。
太郎は頭を振りながら起き上がるとそこは太郎の家の庭だった。
ただ、太郎の家からはドラゴンのような頭と足、尻尾がはえ、狼のような叫び声が辺りに響いていた。
「嘘だろ。」
太郎はそれ以外に言葉は見つからない。
「本当に困りましたね。思ったより大きい。」
猫はいつの間にか太郎の背後の庭の木のてっぺんに座っていた。
少し笑っているように見える。
笑い事ではない。
「さあ。やっつけてください。」
猫は杖を家のドラゴンに向け、太郎に無茶を言った。
「ちょっとそんな。どうしろって!武器もないのに…」
「武器はありますよ。」
家はその大きな足をばたつかせた。
庭の雪が波のように太郎に向かってきた。
猫は杖を持って太郎の前に飛び出した。すると雪は真っ二つに割れたのだ。
太郎は拍手した。
「さあ、解ったでしょう。雪の驚異。こちらも雪で応戦です!」
「無理だよ!」
「大丈夫。必ず効きます。保障しましょう。あなたと同じですから。」
太郎は意味はよくわかなかった。
「それにその為の完全防備でしょう!」
そんなバカな。と太郎は思ったが確かに外でも寒くないようにと万全な服装だった。
猫は太郎の後ろへヒョイと飛び上がり、また木の上に立った。確かにこのまま家がドラゴンでは大変である。
太郎は猫の言っていたとおり、小さいが雪玉を作り家に向かって投げつけた。
バシッ…と言う音とともにドラゴンは痛そうな顔をして首を引っ込め、声を上げた。
効いているらしい。
太郎は何度も雪玉を作りさらに投げつける。
ドラゴンは前足を完全に引っ込めた。
だが、その代わりに頭を地面に押しつけた。雪がまた、太郎に被さってくる。太郎は慌てて横に跳び退いた。太郎は雪玉をドラゴンにぶつけた。今度はもう一方の前足も引っ込んだ。
「その調子です!太郎君!」
猫は高みの見物をしている。
「見てないで一緒にやってよ!」
太郎が叫ぶと、猫は胸に手をあてて…私が?…とでも言いたいように太郎を見た。
太郎は飛んでくる大雪から逃げながら猫の立っている木の下まで走ってきた。
ドラゴンは叫び声をあげている。
「上手ですね。避けるのもぶつけるのも。さすがです。」「あんなに的が大きいんだよ?誰でもぶつけられるよ!手伝ってよ!」
太郎は猫が嫌みを言ったように感じたので、思い切り睨みつけ怒鳴った。
猫は仕方ないと言わんばかりに木から降りると杖をおいて、雪玉を握った。
太郎は始めからそうしてくれればと思いながら家にむき直った。
ぽさっ…太郎の真横で雪玉が転がって崩れた。
太郎が振り返ると猫は雪玉を作る時点で苦戦していた。「何せ猫なものでこの手で雪玉を作るのは些か巧くいかないようですね。」
太郎は頑張って作ろうとしている猫になんとなく同情した。
人には向き不向きがある。彼は猫だが。
ドラゴンはまた頭を叩きつけ、雪が飛んできた。
太郎は猫の首根っこを掴むと上に放り投げた。
太郎は雪にまみれた。
「太郎君!」
猫の声が太郎を呼ぶ。
さすがに顔が冷たい。だが完全防備のおかげで冷たいのは顔だけで済んだ。太郎は雪から這い出すと辺りから雪玉を拾い上げ、家のドラゴンに向かって雪玉を投げつけ続けた。
ドラゴンは頭も完全にしまい込み、尻尾もなくなり後ろ足だけになると、立ち上がった。
家が真横を向いたのだ。
その時ふと太郎は思った。
ママはどうなっているのだろう。まさか中にいるのだろうか。
太郎は雪玉を手に持ったまま止まってしまった。
そこへ放り投げた猫が太郎の肩にしがみつくように乗った。
「大丈夫。すべて丸く収まりますよ。まるで何事もなかったようにね。」
そう猫が発したとたん、目の前の横たわった家はゆっくりと太郎の方へ倒れてきたのだ。
そして大きな音とともに辺りの雪を一気にケチらし目の前を雪煙で真っ白になったのだった。


「なんだもう遊んでたのか?」
太郎が後ろを見ると健ちゃんが門の前に立っていた。健ちゃんは太郎を見て笑っている。
それはそうだ。太郎は全身に雪を被り、真っ白になっていたのだから。
太郎ははっとして健ちゃんを見た。
「あのさ。健ちゃん、今、何か見たり聴いたりしなかった?」
「いや。真っ白なタロ以外は見てないよ。」
健ちゃんは笑いながら言った。
太郎は周りを見渡した。
家にドラゴンの頭はない。窓からママが畳の部屋に掃除機をかけているのが見える。何も起こっていなかったように。
だが、家の壁に雪玉をぶつけた痕は沢山ある。それにさっきまであんな体が寒かったのに、今はとても暖かい。
明らかに今、太郎は何かをしていたのだ。
太郎は今起こった事を話そうかと思って、もう一度健ちゃんを見たが、やめておくことにした。
だって普通じゃ考えられない出来事だったし、誰も信じないと思ったからだ。
太郎は立ち上がった。
「公園行こうよ。皆待ってるんでしょ!」
「あれ。行きたくなかったんじゃ?」
「いいから雪合戦しよう。攻防戦だよ。攻防戦!」
太郎は健ちゃんの背中を押して庭を出ると駆け出していった。
その様子を木の上から一匹の普通の猫が欠伸をしながら眺めていた。














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