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最近ふと思いました。
“剣と魔法”の“剣”は、一体何処へ?
第弐拾参話 新技・きりふだ
  事前準備は、特に無し。心の準備なんかは、これを思いついたときには済んでいた。
 ……それにしても、“自分の身を犠牲に”するなんて、似合わない。似合わない……似合わないのだけれど、よく考えてみよう。あれから、私が自分のためだけに動いたことが、どれだけあったか。あれから、私が他人のために動いたことが、幾度あったか。あれから……
 
「だから、似合わないって……★」
 
 慣れないハズなのに高速回転する謎の思考回路にストップを掛けて、夕依は立ち上がった。見上げた空は、全面黄金色である。
 その金色を背景にはるか上空をゆっくりと旋回する影、双羽。夕依がその黒い軌跡を確認すると同時、描かれていた灰色の円も小さくなった。双羽もこちらに気づいたようだ。
 ……一度だけ、深呼吸をする。
 双羽と箒が落下を超えた速度で降下してきた。相変わらず、物理法則を無視した動きである。ほとんど黒い点にしか見えなかった影は、次いで複雑な軌道を残して飛ぶ。ぶつかる寸前腕で防御しようとしたが……
 
 ズドンッ!!
 
「あぐっ……!」
 
 そのまた寸前で双羽の姿は消え、代わりにわき腹から強烈な衝撃を受けた。正面からぶつかると見せかけ、素早く側面に回り込んだのだ。華月の時のように箒を捕まれないためだろう。
 しかしこの時の夕依には、もう1カ所骨折れたかも、などと考える余裕があった。
 実は箒が当たる直前に、“呪術・強制リバウンド”を自分自身にかけていたのである。そのため、あまり吹き飛ばされてもいない。
 それを確認した双羽は、突撃した直後に90°方向転換していた。これでは箒を掴むこともできず、今から魔法を放っても避けられるのがオチだろう。
 ……だが、しかし。
 ここに、双羽の誤算、そして夕依の勝算があった。実は夕依の魔法には、1つ、まだ誰にも言っていない使い方がある。別段秘密にしていたわけではなく、ついこの間1度試したばかりなので、まだ実戦で使うつもりが無かっただけなのだ。そして、双羽の知らないこの技が、勝負を決める。
 
「悪夢・百鬼夜行!!」
 
 ……通常ならば、避けられていた。夕依が魔法発動の位置を指定している間に、双羽ならば5メートルは動けただろう。
 しかしこの時、すでにその発動位置は決まっていたのだ。元々夕依のいた場所を中心に、半径1メートル。今その場所にある物体全てを対象として、魔法は発動した。
 ……魔法を放ってから実際に発動するまでの間に、タイムラグを挟むというこの技術。これこそが、夕依の切り札である。これを使えば、あらかじめ指定しておいた場所で瞬時に魔法を発動できるのだ。つまり、設置型の爆弾みたいなものだと思えば良い。ちなみに夕依本人は、“リモコン爆弾型”と呼んでいたりする。ただしこの技、普通の魔法に比べて燃費は悪い。どうも、“魔法を発動せずに留める”という動作に、思いのほか体力を使ってしまうらしいのだ。おかげで、今の魔法が夕依の最後の一撃となってしまった。もう体力は微塵も残っていない。今度の作戦がもし失敗すれば、打つ手など一つも残ってはいないのだ。
 ……しかし夕依には、魔法さえ当たれば絶対に勝てる自信があった。なんたって、相手はあの双羽なのだ。暴走してようと何だろうと、根本的なところは双羽に違いない。
 要するに、
 
「……」
 
「…………」
 
「……お……おばけぇぇぇ!! ……!」
 
 幽霊や化け物の類には弱い、ということだ。んでもって“悪夢・百鬼夜行”とは、周囲が真っ暗になり、その中から合計で百にも及ぶ古今東西の化け物が襲いかかってくる、という夕依の新作幻覚魔法。これを食らった双羽は、さっきまでの真剣モードから一転、恐怖の悲鳴と共に箒から転がり落ち、そのまま見事にノビてしまったのだった。
 効果は抜群である。
 
「はぁ……疲れた……」
 
 双羽が気絶したのを確かめて、夕依はぺたんと地面に座り込んだ。魔法に全ての体力を注ぎ込んだので、そろそろ立っているのも辛くなってきたのだ。あと、異様に眠い。今まで自分が、どれだけ気合いと根性だけで動いていたのかがよく分かる。
 なので、とりあえず寝ることにした。瓦礫を枕にしてでも、休息をとるのが最優先である。
 そう思って適当に寝転がったとき、夕依は結構重要なことを思い出した。
 
「そう言えば……貴斗の目的って、足止めよね……」
 
 つまりこの結果は、貴斗の思惑通りというわけだ。だが、今更そんなことを気にしてもしょうがない。
 
「とりあえず、寝よ……」
 
 そのまま夕依の意識は、特に抵抗することもなく、闇へと沈んでいったのであった。
 
石コロ防衛本部事務所
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