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wish for20:運命の出逢い。真実の愛。
で、放課後。
俺は南音(ナオト)に言って、先に帰る事にした。
家に寄ってから行くって約束したし、南音らに俺んちまで付き合わせんのも悪いし。
だから、俺だけ先に帰って、家に寄ってから病院。
まぁ、由李は眼が見えねぇから、ほんとは俺が帰ったかどうかなんて、俺が隠し通す限り判んねぇと思うけどな。
けど、やっぱり嘘吐くのは嫌だから。

「んじゃ、俺帰るわ」
「あ、うん。俺、皆待つね」
「おぅ。多分、ロビーで秀統(シュウト)龍偉(ルイ)も居るだろから、俺があんま遅かったら先部屋行っとけよ」
「いや、待ってるよ。気まずいし…」
「由李は、そんなの気にするような奴じゃねぇよ?」
「んー…でも、やっぱこっちにも負い目あるからさ。だから、なるべく早く来てよ」
「最大限にゆっくり行くわ」
「…憂灯(ユウト)君、喧嘩売ってる?」
「まさかっ。けど、流石に1コ上とずっと一緒に居んのは気まずいか。南音以外は、まともに話した時無いだろうし」
「そう思ってるなら、早く来てよね」
「まぁ、ゆっくり行く事は無いと思うけど。由李に早く逢いてぇし」
「いや、俺に惚気(ノロケ)られてもさ…」
()んなよ」
「いや、盗らないしっ」
「それじゃ、また後でな」
「何で一方的に会話終わらせるの…。後でね」

南音の溜息交じりの小言を聴きつつ、俺は教室を後にした。

家には、相変わらず人の温もりは無かった。
けど、今日からは変わるだろう。
少なくとも、俺と秀統は変わった。

制服を脱いで、私服に着替えて部屋を出た時、秀統と逢った。

「秀統?まだ居たのか?」
「まだって…。俺、(スゲ)ぇ暇人みたいじゃん」
(チゲ)ぇの?」
「そうですけどぉー」
「どーせ、大学も推薦で決まってんだろ?良いじゃん」
「まぁな。憂灯、今から行くのか?」
「おぅ。あんま南音待たせててもな。まぁ、それより、由李に逢いたいんだけど」

秀統は会話を止め、俺をじっと見据えた。
睨んでるとかそういうんじゃなくて…ただ、見つめている。
何で?

「憂灯…変わったな…」
「はぁ?」

訳判んねぇ。

秀統の言葉に、俺は声をぶつけた。
秀統の口から出た意外な言葉。
それも、そんなしみじみ言われたら、こっちも戸惑うじゃねーか。

「いや。由李ちゃんの事、ほんと好きなんだと思って」
「あー…」

成る程な。
秀統の言いたい事、判ったわ。
俺、彼女出来てもあんまストレートに逢いたいとか、好きだとか言わなかったから。
それは、言うのが恥ずかしかったってのもあるけど。
1番の理由は、そこじゃ()ぇと思う。
多分、今まではどれも本気じゃ無かった。
逢いたいとか、好きとか、想って言葉にまでならなかったんだろな。
けど、今は違う。
言いたいって思って、そういう事言って()ぇからな。
只、自然に言葉が出る。
訊かれても、昔は照れ隠しで否定するか、本当に思ってなかったから、冷たくあしらうか、どっちかだったけど。
今は、違う。
本当に、由李が好き。
今も逢いたい。
(スゲ)ぇ逢いたい。
自分がこんだけヒトを好きになれるって…思ってなかったわ…。

「運命――…なのかもしれねぇな」
「運命?」

玄関で靴を履きながら、秀統は俺に訊き返して来た。
意外なんだろな。
俺は、運命論とか信じてねぇ奴だったから。
けど、絶対運命ってあると思う。
初めて逢った時に、絶対何か感じるトコがある筈。
それが…運命の出逢いなら。

「俺と由李が出逢ったのはな。何か…自分の中にこんな感情があるって思ってなかったから。そういうのも、信じてみる気になるわ…」
「ふーん…。じゃ、憂灯は勝ち組だな」
「勝ち組?」

今度は、俺が訊き返す番だった。
勝ち組って…どういう意味よ?

「よく言うじゃん?人間には、勝ち組と負け組みの2種類しか居ないって。俺なりの勝ち組と負け組の中だったら、憂灯は勝ち組」
「それって、どういう基準だよ?」

一旦会話を区切って、秀統は再び口を開いた。

「ヒトを…本気で愛せるかどうか」

俺は、言葉を失った。
正直…秀統がこんな事思ってるなんて、考えた時無かった。

秀統も、俺と一緒で昔から女にはモテた。
それは、素直に認める。
どっちがモテてたかっていうのも…ぶっちゃけほぼ同数だった。
そんな俺らだから、女なんか簡単に選べた。
好みのタイプの女は、取り敢えず連れとしてキープ。
で、女欲しーって思った時に、ヤる。
告りとか、しねぇよ?
当たり前じゃん。
そんなの、何で俺らがしねぇといけない?
しなくても、向こうから勝手に寄って()んじゃん。

これが、俺らの考えだった。
それは、多分、俺と秀統の仲が可笑しかった時も、ずっと変わらなかったと思う。
俺が…由李に逢うまでは。

由李に初めて逢った時に思ったのが、『天使みたいな()』。
初めは声。
次に、部屋と由李の着てた服の色。
勿論、顔もだけど…。
何もかも真っ白で、ぶっちゃけ思ったのが…コイツは無理って事。
俺とは、あまりにも違い過ぎた。
あまりにも、環境が、住んでる世界が違った。
話してく内に、その思いはどんどん強くなっていった。

けど、それと同時に自分がどんどん薄汚い人間に思えてきて。
俺が、こんな()と一緒に居て良いのか…話してて良いのか…て思った。
その時だと思う。
由李を…想い始めたのは。

その内…絶対俺が汚してまう…穢してしまうって思っていた。
そうしたら…本当にそうなるような事になって…。
けど、由李はそんな事では汚れたりしない、気高い美しさを持った()だった――………。

「俺さぁ…親嫌いなんだよな」

病院までの道。
俺と秀統は並んで歩いていた。
「龍偉は?」って訊いたら、「先に病院のロビーで待ってる」との事。
だから、俺と秀統はこうやって2人で病院に向かってる訳。

「秀統が?嘘だろっ」
「いや、マジで。憂灯も、そうだろ?」
「俺?俺は…まぁ、なぁ…。嫌いだな」
「憂灯は、何で嫌いなんだ?」
「何で?秀統だったら、判るだろ?屋上での話、思い出してみ?」

俺がそう言うと、秀統は口を噤んで考え始めた。
秀統だったら、すぐに判るだろう。
俺が、親を嫌いな理由。

暫らくして、秀統が口を開いた。

「俺の…せい…?」
「まぁ、それもあるけどな。今はそんなの思ってねぇから、気にすんな?」
「ん…」
「親父もお袋も…すぐに数字でヒトを評価するだろ?成績が何番だったとか、いつ英検受かったとか…」
「言われてみたら…そうかもな」
「それが、俺の嫌いな理由。俺らはロボットじゃねぇ。人間なんだ。数字なんかで、俺の何が判んだよ?」
「そうだな…。憂灯の言う通りだな」
「秀統は?何で嫌いなんだよ?」
「………親父もお袋も、2人ともお互いの事愛してねぇから」
「は…?マジ?」
「こんな事で嘘吐くかよ。俺、2人からよく聴かされてたんだ。お袋は親父の悪口言うし、親父も親父で、浮気してんしな」
「嘘だろ…?浮気とか…有り得ねぇっ」
「俺、親父の部屋で見たんだ。親父と浮気相手の写真。しかも…」

秀統はそこで口を噤んだ。
それだけで、秀統が何を言おうとしてたか…俺には判った。

お袋が可哀想だ…。
正直、そう思った。
余計、親父が嫌いになった。
けど…そんな親父の元で由李は入院してる…。
悔しい…ッ。
最低な親父なのに、由李の病気に関しては、俺より親父の方が力になれるっていうのが…(スッゲ)ぇ悔しい…。

知らないうちに、俺は拳を握り締めていた。

「それからだよ。俺が、愛なんてもんを信用出来なくなったのは。恋愛=ゲームだった」
「そ、か…。俺…気付いてやれなかったな…」
「そんなの、憂灯のせいじゃねぇよ。俺も、必死に隠してたからな」
「そうだったのか…」
「けど、今の憂灯見てて、親父とお袋の関係だけが恋愛の形じゃ無ぇんだなって判ったから…」
「それで、俺は勝ち組か…」
「そう。俺は、負け組だよ。まだな」
「当たり前じゃん。お前が一生負け組だったら、俺、切れんぞ?」
「ははっ。あーあ、俺にも運命の相手現れねぇかなーっ」
「自分で掴んだら良いじゃん」
「え?」
「俺、待つの嫌いだから。秀統もだろ?」

俺がそう言うと、秀統は俺を見てニヤッと笑った。
この顔は…秀統が勝ちに行く時の顔だ。

「だな。負けねぇぞー!!」
「頑張れよ。…って、言いたいトコだけど、天下の公道で叫んでんじゃねぇ!!」
「…憂灯も、思いっきり注目浴びてんぞ」
「〜〜〜っ早く、病院行くぞ!!」
「おぉー」

俺らは走り出した。
偶然だけど、その先には紅い紅い太陽があった。

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