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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第九十六話 近付く、近付く

 PVに使うイラストは、途中までは進んでいた。構図も決まったし、曲のイメージや麗音のイメージを加味して、テーマであったり配色であったり、雰囲気的な部分はほぼ固まっていた。だが、そこに立つ麗音の像については、しろももは自分の一存で決められない気がして、麗音に直接尋ねることにした。
「麗音さんのイメージって、どういうのにしたら良いのかな」
『別に、意識したこと無いし、適当で大丈夫だけど』
「そうは言っても、私の想像するのが麗音さんの中での麗音さんと違ってる可能性は十分あるだろうし、方向性くらいはあると思うから、それを聞いてみたいの」
『俺の方向性……なぁ』
 うーん、と考え込む声が聞こえて来る。しろもも個人としては、麗音は凄く身近にいてくれるような温かさを持ちつつ、けれどどこか儚げな印象のある人のように思える。だが、本人がどう思っているのかは分からない。認識があまりにも食い違えば、最後まで納得の行かない煮え切らなさが続いてしまう。これまで依頼を受けてイラストを描いたことは何度もあったが、その中ではお互いが気持ち良く終わりを迎えられないようなこともままあった。一度切りの関係であればすぐに忘れてしまえるが、中途半端に近しい間柄だと、その後のやり取りまで気まずくなり、悲しくも疎遠になってしまったりもして、そういった経験から、麗音とは絶対にお互いが納得出来るまで話し合いを設けようと決めていた。自分の納得が、相手の納得と同じ着地点に行き着くまで、出来る限り妥協はせずに頑張って行く。夕葉の生真面目さがよく表れた一面だ。
『ハッキリした意思は、持ってない。だから、凄く不安定というか、強さみたいなものは、見えない感じが良い』
 数日前の通話で、麗音が決して明るくはない過去を背負っていることは読み取れた。それは、自分に対しての捉え方にも反映されているんだろうか、と夕葉は考えた。何か悲しい経験があって、それが影を落として今の麗音を形作っているのだとしたら、夕葉はそのことを残念だとは言えなかった。その悲しさが麗音の味を引き出していると、思わずにはいられなかった。けれど、それだけならファンとしての思いだったが、今の夕葉には、その悲しみを和らげてあげたいという感情も存在していた。
『ごめん、抽象的で。だから、その、明確なキャラ付けよりは、捉え所が無いようにしてくれると……って、難しいよな』
「うーん、まあ、そうだけど、頑張ってみる」
 そこで通話は終わりそうだったが、たまたまカレンダーが目に入り、その日(・・・)が近付いていることに気付き、思い切って尋ねてみることにした。
「ねえ、麗音さんって、夏コミ、出るの?」
 コミックロケーション、通称コミケ。年二回開催される最も大きな同人の即売会で、八月の中頃に行われるものは、主に夏コミと呼ばれ、プロアマ合わせ日本中の同人が一堂に会する熱く暑い三日間の祭典だ。
 しろももはコミギャ同様NaNaNaNaのブースに委託という形で参加することになっていたが、ツイッターなどで特に表明していない麗音はどうなのか気になっていた。
『ハンニバルとおせんべ……あー、歌い手仲間のブースで、三人の【歌ってみた】を収録したCDを頒布する予定』
「そうなんだ。あ、あたしもコミギャの時と同じ感じで、友達のブースに委託の形で参加するから……」
 その一言は、言うか言うまいか迷った。けれど、今ここで機を逃せば、この先ずっと、距離はこのままな気がして、勇気を見せるべきだと思った。
「麗音さんのブース、い、行くね」
 一瞬の静寂。その後すぐ――
『楽しみにしてる。しろももさんに会えるの』
 優しい声だった。
 ついに、ついにだ。
 麗音を知ってから、四カ月。ただのフォロワーから、相互フォロワーになって、ツイッターでやり取りが出来る仲になって、ツイッター以外で連絡が取り合える仲になって、通話が出来るようになって、そして。
 ついに、面と向かって話が出来る所まで、行き着こうとしている。
 夏コミまでは後二週間。他の作業も平行して進めなければならないが、そんなご褒美が待っていると思えば、光の速さで進められるような気がした。
「うん、あたしも楽しみ。じゃあ、作業、頑張るね」
『ああ。俺も頑張るよ』
 通話が終わると、夕葉は言葉にし難い喜びを、何とも言えない表情に表した。会える。麗音に。直接話せる。ブース越しだから、普通に会うのとは違うだろうけれど、それでも構わなかった。実際に会って話せるなら、それに優る幸せは無かった。それくらい夕葉は麗音に深く思い入れていたし、同刻、夕葉ほど顔には出さなかったけれど、麗音もまた、二週間後を心待ちにせずにいられなかった。
 この合作を完成させることが、同時に二人が直接顔を合わせるためのカウントダウンになる。そう思った二人は、それぞれ自分の作業に、それまで以上に熱を入れて取り掛かり始めた。
お待たせしました。いよいよコミケ編の開幕です。コミケという略称をどう扱うか、と考えて、やっぱりコミケじゃないとコミケらしくならないな、と思い、色々考えた結果、コミックロケーション(コミックの場所、という何だかいまいち分かるようで分からない意味になりましたが)というイベントの略称という位置付け(ロケーションだけに)になりました。

そして、ようやく二人が顔を合わせる段取りを整えることが出来そうです。
いったいいつになったら二人は会えるの? という疑問をお持ちだった皆様、ようやくですよ。
ということでコミケ編、頑張って書いて行きます!
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