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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第九十三話 それは、誰故に

 合宿の明くる日、颯斗が目を覚ましたのは昼もとっくの昔に過ぎ、十五時を回ってからのことだった。
 寝過ぎなのか、軽く頭痛までして、せめてもう少しは早く起きるべきか、と考えたものの、考えてみれば何回は目を覚ましてはいたわけで、けれど二度寝、三度寝の誘惑に駆られてこんな時間になってしまったわけだから、あの誘惑に負ける快楽を思うに、多少の頭痛を我慢する方が良い、との結論に至るダメな発想。
 とは言え、こんな自由で怠惰な暮らしをしていても、親には特に怒られないし、なんてったってようやく合宿から解放され、とにかく自分の思うがままに振る舞えることを思うと、開放感を味わわずにはいられなかった。
 リビングで適当に腹ごなしを済ました颯斗は、自室に戻って、またベッドに寝転がった。枕元に置いてあった携帯を手に取り、色々とアプリを起動しては、何をすることもなくホームボタンを押してを繰り返す。
 と、スカイプを起動した際に、しろももからのメッセージが来ていることに気付いた。
 内容は他愛もないものだったが、大事だったのは、ツイッターでの呼びかけに、颯斗がまるで応じていなかったために、仕方なくスカイプでも声をかけた、という部分だった。合宿中、仕方なしに呟かされた写真付きツイートにはいつも以上の反響があり、そのせいで通知を切っていたことが原因だった。
 合宿に行っていた事実を察したのか、合宿初日にそのメッセージが送られて以降、催促はされていなかったが、たった四日であれ、しろももに何の返答もしなかったことは、颯斗の心を随分と痛ませた。
 ひょっとすると気分を害したんじゃないだろうか、と思いながらも、だからと言って返事をしかねればそれっきりになりそうな気がして、颯斗はツイッターに来ていたメッセージに返信を行った。
 しばらくはリアクションを待っていたものの、その気配が無いことを察した彼は、携帯を脇に置いて、この怠惰が許される時間を思う存分謳歌してやろうかと思った。ちょうどその折に、ラインが着信を告げた。
「もしもし」
『合宿、お疲れ様。そろそろ起きる頃かな、って思って』
 受話器越しに聞こえて来るのは、颯斗の生活リズムを今やしっかり把握した薫の声。
「相変わらず何もかも筒抜けだな……」
『合宿の方はツイッターを見てたら分かるからね。颯斗君の生活習慣の方は、何て言うかもう、感覚で分かるって言うか』
「男にそこまで把握されてるって、何か気持ち悪いな」
『颯斗君が分かりやすいだけだと思う』
 何故だか薫の声を聞くと、日常に帰って来たような気がした。歌い手仲間たちといる時は、イベントとか非日常な感じの場面が多く、どうしても強張る部分があるが、学校という日常的な空間を共にする薫とは、朗らかにやり取りを交わせるような安心感があった。
「で、用件は? 多分、『キヲク』の件だよな」
『そうだよ。こっちとしては骨子は大体出来上がったから、颯斗君としろももさんに、スカイプで会議でもしながら打ち合わせして行きたいな、って思ってるんだけど、どう? っていう提案』
「なるほどな。良いんじゃないか?」
 颯斗はさっとそう返答したが、薫が尋ねたいのは、それよりもう少し踏み込んだ所に関してのようで、じゃあその方向で、とはまだ行かなかった。
『しろももさんの方はどうかな。通話とかあんまり積極的にしないタイプの人だったら、やめておいた方が良いだろうし』
「いや、特に問題は無さそうだけどな。時間とかはあるかもしれないけど、通話自体はしたことあるし、提案すれば多分、行けると思う」
『そっか、じゃあこの件も颯斗からお願いしてもらおうかな』
「分かった」
 颯斗はだんだん通話に疲れて来て(この程度で既に怠さが高まって来始めるのを、薫もよく分かっているから、基本的に長電話はしないように努めている)、このまま通話を終わらせる方向に持って行こうとしたが、薫に伝えなければならなかったことがあるのを思い出し、「そうだ、御崎」と呼びかけた。
『うん? 何?』
「実はさ――」
 颯斗は合宿であったことをありのままに伝えた。薫の想い人である、樅山詩織が来ていたこと。薫との距離感を、誓い合った夢が妨げることがあること。そのために、詩織が苦しんでいること。颯斗の言葉で、彼女が前に進む決意をしたこと。それらを全て、薫に伝え切った。
『本当にさ――世界って、狭いなって思うことがあるよ。同じクラスに君がいて、その君が詩織に会って。……でも、そっか、あの約束は、必ずしも僕らにとって、良いことばかりではなかったんだね。だったら、それに縛られて苦しみもがくよりは、時々は目を瞑るのも、必要なんだろうね。……ありがとう。後は僕らの方で頑張るよ』
「出来るだけ早い内にな。向こうは忙しいだろうけど、それにかまけてたら、いつまで経ってもチャンスは来ないだろうし」
「だね。出来る限り近い内に会えるよう、調整してみるよ」
 ああ、そうしてくれ、と颯斗が言うと、通話はそれ以上続かない雰囲気が出て、どちらからともなく終えるムードになって、薫が先に通話を切った。
(何かしら、俺も変わってるんだろうな)
 昔の自分なら、こんなことはしなかった気がする。颯斗はそう思った。いくら仲が良い友達にだって、自分が何か気の利いたことを出来るようなタイプではないと思っていた。
 時間の経過が、精神を成長させている、それだけではないような気がした。
 何かが自分の中で変わって行こうとしている。あるいは、自分そのものが。
 願わくば、それが彼女のおかげであって欲しい。颯斗はそう思った。
〝彼女を知って、自分は変われた〟
 そんな風に、言ってみたいと思った。
ようやく日常に帰って来ました。とても書きやすいです。いっぱいの人数を動かすのは骨が折れます。

ここからは一応、普段の歌絵師、のノリがしばらく続くと思います。そして、あの夏の特大イベント編へ、突入して行けたらな、と。

あ、今日は夕葉の設定を公開しましたよ!

こちら(http://tohya-aki.hatenablog.jp/entry/2017/01/26/174500)からどうぞです!
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