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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第九十二話 世界はこんなにも広がって行く

 翌朝。収録の現場に立った八人は、プロの目をして立っていた。実際の立場としては、詩織だけがそれに該当するが、そういった違いを意識することなど無く、誰もが最高のパフォーマンスを見せようと意気込んでいた。
「それじゃあ、行くよ」
 蓮哉の合図と共に、八人の歌い手たちは『Berry-Berry Distortion』を歌い始めた。
 誰かと目が合う度に、負けられない、という気持ちが自らの中で高まって行く。歌っているのを目の前にするのではなく、共に歌うという行為は、超えたい相手、負けられない相手と、一つの世界を様々な色で彩ることでありつつ、それでいて歌い進める中で、自分の向上心がなお一層高まるのを感じさせる行為だ。まさに、調和と競合が一所に集まる瞬間。
 麗音は、優しく、傍に寄り添うように。
 おせんべは、盛り上げて、共に楽しむように。
 ハンニバルは、熱く、強く導いて行くように。
 夕戀は、最高の瞬間を、提供するように。
 ミーナは、魅了し、虜にするように。
 エイミーは、はしゃいで、笑顔にさせるように。
 氷雨モミは、癒し、心を落ち着かせるように。
 ほの字は、背中を押し、励ますように。
 自分という存在を主張しながら、それぞれが一つの円を描くように立った時、混ざり合ったそれは、聞く者を幸せへと誘う、幻想的な世界を生み成した。
 さすがに何回かはリテイクを挟むだろう、という蓮哉の予想は全く外れ、一度目の収録で、もうこれ以上は良くならないだろうと思われるような仕上がりになっていた。
「これ、もっと早くから言ってたら、どこまで進化するんだろうね」
 思わずそう言ってしまうくらい、八人が結集して創り上げた世界は素晴らしく思われた。
「なんだかんだで、用意された時間が少なかったからこそ、ここまで本気になれた、って感じもするけどな。まあ、さすがに一日半は短すぎだが。次やる時は、もうちょいは時間用意しろよ」
 だが、ミシェルの言う通り、ごく僅かの限られた時間だったからこそ、彼らの意識は極限まで高められたのかもしれなかった。歌い終わった瞬間の彼らの表情は、やり切った、というこの上ない達成感に包まれると同時に、もうこれ以上は歌えないのではないだろうか、と思わせるほど疲れてもいた。
 同じ曲であっても、次に合わせた時には、今とは違う仕上がりになるのは免れないだろう。何気なく聞く分には変わらないのかもしれないが、やはり、同じではない。もっと後になれば、その時の方がもっと上手く歌える、と思うのかもしれないが、少なくともこの場においては、この歌が彼らの最高であるのは確かだし、二回目以降、それを発揮するのも難しい話だった。
「投稿した時が楽しみだな」
「うん。どんな評価になるんだろう?」
「きっと素晴らしい評価になるわよ」
「ですね! 私も思います!」
「おせんべファン、急増の兆しやな!」
「虎太郎のファンは男だけでええしな?」
「女の子もいてええやろ!」
「あかんあかん、そんなんは――」
 感想を述べ合う姿を見て、蓮哉の心は、不思議な気持ちに包まれた。
 楽しむことを目的に、いつからか生きて来た。望むものを何不自由なく手に入れられる代償に、薄れて行く喜び。一人切りの部屋に、手に入れた瞬間興味の失せる品々を集めきる日々。彼の周りに集まるのは、彼の背景に関心がある人ばかり。自分にしかない価値を、探し求めた。
 そんな彼に、どこまでも飽きることのない、喜び切れない楽しみをもたらしてくれた、歌うという行為。
 彼の世界は、そこから少しずつ光を取り戻して行った。彼そのものを認め、応援してくれる人たち。彼と共に走り、彼と共に成長する仲間たち。
 それが、こんなところまでやって来た。
 この合宿も、企画の段階でははしゃいで楽しむような、軽いものだったはずなのに。いざ始まってみれば、忘れられない濃密な時間になっていた。
 それは紛れもなく、彼だけでなく、この場にいる誰もが合宿を楽しんでいる証だった。
 自分が一番楽しんで、それに彼らを巻き込んでいるだけ。そんな風に、卑下して考えてしまうこともあったけれど。今はもう、全員が楽しめるような環境を、全員で作れている。
「……最高の仲間じゃないか」
 何しみったれたこと言ってんだよ。ミシェルはそう言おうとして、口をつぐんだ。蓮哉が屈託のない、優しい微笑みを、初めて浮かべていたから。

 こうして、波乱に富みながらも、歌い手合宿は大成功の内に幕を下ろした。
 ちなみに、何か吹っ切れたようにスッキリした表情を見せた蓮哉だったが、合宿から帰る際に、〝カーナビやグーグルマップを使わずに帰ろうゲーム〟を強行し、大いに混乱を生じさせたことで、周囲の(主にミシェルからの)評価は大いに下降した。
40,000アクセス感謝、記念企画として、今日から4日連続更新、および藤夜アキブログ(http://tohya-aki.hatenablog.jp)において、歌絵師キャラ設定公開イベントを行います。今後とも歌絵師をよろしくお願いします。

さて、ようやく歌い手合宿編が終了しました。
何と20話近く続く長すぎるストーリーになってしまい、本編よりはスピンオフ的なところでしたら良かったかな、と途中から思いました。
いよいよ次回から、真っ当な本編に戻り、颯斗と夕葉の(今蓮哉のって書きかけました)恋模様を描いて行きます。
100話ももうすぐ。ハイテンションでお送り出来るよう、頑張ります。
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