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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第九十話 本当の目的

 三日目の朝も、全員が揃ったのは十時を過ぎてからのことだった。
 颯斗については、ミシェルが引きずって連れて来た状態で、半分意識が無いようなものだった。
「合宿も残り半分になったが、蓮哉、そろそろこの合宿の本当の狙いをハッキリさせてくれ」
 この二日間、誰もが気になっていた歌い手合宿の目的。まさか、蓮哉が〝親睦を深めるだけ〟の会を開くとは思えないし、巧妙に練られた作戦があるだろう、とは予想していた。けれど、これまでの間にはまるで示されず、痺れを切らしたミシェルが直接尋ねるに至った。
「お、ようやく聞いてくれたね」
「聞かなかったらどうする気だったんだ」
「それならそれで良いかな、とも思ってたよ。実際、そういうプランも用意はしていたからね。でも、きっとミシェルが聞いてくれるだろうなって予想してた」
「あー……最後まで聞かねえ方が良かったな」
「みんなのためを思って聞かなかったんだよね、うんうん、分かってる。そんな優しいミシェル君のためにも、ぜひとも教えてさしあげ――いたたたたた! 分かった、分かったよ、普通にするから、バイオレンスはやめて!」
 あまりに冗談が過ぎると、もちろん本気でではないが、こうして蓮哉の頭を掴んで締め上げるのがミシェルなりの苛立ちの示し方だ。蓮哉曰く、細く美しいミシェルの指先からは、想像しがたい強さが出ているらしい。
「ふぅ……ってわけで、そろそろ本当の目的を教えちゃおうかな。って言っても、予想の範囲内だとは思うよ? 八人合唱を録ってみよう、っていうのが――ストップ! なんで、ねえなんで!? なんでまた締めつけるの!」
「あのなぁ……そういうのは初日に言って、もう少し余裕を持たせろよ……。今日と明日しか時間ねえじゃねえか」
「み、みんなの能力を考えれば、二日あれば十分だよ。動画自体は上げてなくても、きっとみんな口ずさんだことはあるだろう有名な曲を用意してるし」
 って言ってるがどうなんだ、とミシェルが確認を取ると、各人の反応はすこぶる良かった。寝ぼけていた颯斗も、八人合唱の話が出た当たりで覚醒し、賛意を示した。
「ったく……どうせレコーディングする場所も用意してあるんだろ?」
「うん。早速移動してもらえるかな?」
 蓮哉に連れられて移動した先は、初日にここは入らないでね、と全員に伝えられた部屋だった。
「よくまあここまで揃えてんな……」
 ミシェルが思わず嘆息するくらいには、部屋には【歌ってみた】を収録するための設備が整えられていた。
「知り合いに頼んで用意してもらったんだよ」
 この別荘を貸してくれた友達とはまた別の人なんだろうな、とミシェルは思ったし、事実それで合っていた。
 詩織以外は目を輝かせながら、機材を眺めては、時折声を上げて感動してみせたり、試したりして性能を確かめた。颯斗やWitCherryの身分では、憧れはするものの手に届かないものが多く、虎太郎やミシェルでさえ、全て揃っているのを見るのは初めてだった。
「こんなん貸してくれる知り合いて……どんなんやねん」
 同業者はそんな商売道具を貸し出したりはしないだろうし、こういった機械類やら何やらを集めるのが好きなコレクター気質の高い人、だったりするんだろう、と虎太郎は考えた。
「TAROIMOだよ、貸してくれたの」
「ってたろやんかい!」
 それなら納得だ、と全員が思った。よく収録用の機械を(もう既に同じようなのをたくさん持っているはずなのに)新しく買ってYouTubeにレビュー動画を上げたりしているのを見かけるから、その余りを貸し出してくれたのだろう。
「じゃあ、ここにあるのは型落ちのか……」
 颯斗はそう呟いたものの、どれも新品と何が違うのか分からないくらいのピカピカぶりで、つい先日まで最新モデルだったようなものまであった。
「これ、全部合わせたらいくらなんだろう?」
 誰もが思った疑問を、恵実が口にした。これらを複数所持しているTAROIMOの経済力が、恐ろしくて仕方なかった。同業者の間では圧倒的人気を誇っている彼らであっても、これだけの機材を一先ず揃えるのも苦しいのが現実で、いかに彼が稼ぎまくっているのかを痛感させられる光景だった。
「いくらって言ってたかな、忘れちゃったけど、まあ、ともかく、TAROIMOに感謝して、トップクラスの設備で録らせてもらおう」
「どの曲を歌うんですか?」
「うちらが知ってる奴や、とはさっき言うてたけど、結局何なん?」
 どうやらこのことについてはゲスト二人にも聞かされていなかったらしく、蓮哉がこれを隠し球にしていたことがなお一層際立った。
「それではここで! クーイ――」
「これ以上もったいぶんな」
 ミシェルにバシッと後頭部を叩かれ、蓮哉は仕方なさげにぷくーっと頬を膨らませながら、ついに曲名を明らかにした。
「『Berry-Berry Distortion』」
 それを耳にした瞬間、七人の目つきが、変わった。
 そしてそれを目にした蓮哉が、ニヤリ、と口角を上げる。
早いもので90話になりました。
一つの区切りにしたかった(絶対無理です)100話まで、なんと後10話しか残っていません(笑)
文字数に関しても既に18万字を越えていて、よくもまあここまで続けられて来れたものだなあって思います。
一作品の長さでここまで到達したのは今作が初めてなんじゃないでしょうか。
飽き性なので、割とすぐやめちゃうんですよね。
でも、今作は多くの方に応援を……とかは、100話で書くのでさておくとして。

今回出て来たTAROIMOは、第三十九話でチラッとだけ出て来た、歌い手しながらゲーム実況やら何やらを手がける動画投稿者です。YouTubeの方が私は見るのでYouTubeにしていますが、商品紹介はYouTubeの方が強い気がします。

久々にまともな歌い手らしい一面を書けそうです。
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