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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第九話 程良い距離の、あいつ

「よし、行こうか」
 敦は安心していた。颯斗が平静の様子で現れたからだ。妙に機嫌でも悪かったらさてどうしようかと、実は気を揉んでいるところがあった。
 世話焼きな性格の敦は、颯斗が不機嫌でも気を悪くすることはなく、むしろどちらかと言えばどうすれば楽しげな顔をしてくれるかと考えるタイプだった。
 そんなやさしさを向けられているとも知らず、颯斗は早くこの買い出しが終わらないかと考えていた。自分の興味のないことにはとことん無関心、というのが颯斗の長所であり短所だ。視野をあえて狭めることでの一点特化は、颯斗の才能を確実に伸ばすことに役立っている。ただ、そのおかげで夕葉とは非常に仲が悪くなっているわけだが。
「何買ってくべきだと思う?」
「ジュースを適当に二、三本で良いだろ」
「全部ジュースだと飽きるって。一本は炭酸、もう一本は紅茶系、でどう?」
「良いんじゃないか」
「もうちょっとノって来てくれよー」
「店に着いてから決めれば良いだろ」
「いやいや、じゃあこの店に着くまでの間はだんまりをしてろ、って?」
「それも良いかもな」
「適当だろ……」
 颯斗のめんどくさがりにはさすがの敦も中々手を焼くが、それでも今回はまだ買い出しに出向いているだけマシだということを分かっていた。
 気分が乗らずとことん無気力状態になってしまった颯斗は、いくら敦でもどうにも出来ない。
 そんな颯斗にそもそも何故敦がこうして友達付き合いを続けているかと言うと、話は少し前、颯斗がまだ高一だった時に戻る。

 もとより誰かと仲良くしてわいわい盛り上がるようなことは苦手だった颯斗は、高校に入学してもドライな態度を貫き、イヤホンを付けて休み時間を過ごすのが習慣になっていた。
 友達を作ろうとせず、一人の時間を淡々と過ごしていた颯斗と敦が接点を持つようになったきっかけも、実は遠足だった。
 同じ班になっても、やはり颯斗は班員と仲良くしようという姿勢は見せなかった。群れることを嫌う一匹狼とは違って、単純に人と接するのが不器用なだけな颯斗だが、当然無口で自分の考えを述べようとしない姿は周囲には良く映らない。
 だが、なるべくして孤立して行く颯斗に、敦は声をかけた。
 それはある人には偽善だとか、自己満足だとか言われることなのかもしれない。
 輪の中に入れていない子を輪の中に引き込もうとすることは、時としてどこかで当人の意思をねじ曲げる行為にもなりかねない。だが、敦は確かな感情を持って接したわけではなかった。
 輪の中に入らない颯斗を哀れむでもなく不満に思うでもなく、ただ心の奥が訴えかけるのに従って、手を差し伸べた。声をかけたいと、自然に心の底から湧いた気持ちによって動いた。
 敦そのものを作り上げているやさしさが敦を動かしたとも言えるだろう。颯斗の醸し出していた雰囲気が敦を誘い込んだとも言えるだろう。
 いずれにせよ、二人の出逢いは運命的だった。
 他の誰でもなく、敦が引き寄せられたのは颯斗で、颯斗が招き寄せたのは敦だった。
 ただそれだけの、偶然にして運命的な二人の邂逅。
 敦の言葉は、敦の性格は、微々たる量ではあったが颯斗の言葉を引き出して行った。
 二人は互いに、相手のことを友達とか親友だとかいった存在として認識してはいない。
 名前のある関係ではない。もっと感覚的な、特に何とは言えない程良い距離の相手。
 颯斗にとって、その立ち位置に敦がいてくれることはありがたかった。
 他人から見たら友達で済んでしまう関係も、二人の視点で見つめれば、もっと複雑で、それでいて淡白。
 ただ、だからこそ居心地が良くて、長続きする存在だ。
 もちろん、人に紹介する時は、あっさりと友達と言い切ってしまうわけだが。多分、その時紡がれる言葉は、空洞のそれなのだろう。

「なら、ジンジャエール」
「お、やっと希望が出たね。折角買いに行く役柄になれたわけだし、自分らの好きなもの買っちゃおうか」
「そうだな。多分、食材はまともなのが揃うだろうしな。問題は、女子二人が変なものを持って来ないか……」
「心配無いって!」
 あの榊原って子は、颯斗の分だけ変なのを選んだりむしろ買って来なかったりするかもな。敦は内心そんなことを考えて少しだけ不安を抱いていた。
 分かり合えないとは思えないものの、どうにも相性が悪過ぎて。幸いは、双方にそれぞれ仲裁役を買って出られる友人が付き添っていること。
 もちろん、敦はそんな考えは口にせず、スーパーへの足取りを早めるように促した。
 そうして少し。二人は目的のスーパーにたどり着いた。
 だが、どうしてかこう、タイミングというものはいつも悪くなるのだろうか。
 店内に入ろうと自動ドアをくぐろうとする。
 幾分せっかちな颯斗は、ドアが開き始めてすぐ入ろうとした。そこに、もう一人が隣からやって来て、ぶつかった。
「ごめんなさ――」
 デジャヴが二人に走る。
 またも颯斗と夕葉は、望まぬ接触を起こしてしまったのだった。
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