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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第八十九話 海辺の彼ら

 生活スタイルのバラバラな八人が再びリビングに集まったのは十時過ぎのことで、それから食事を取ったりすると、お昼も近付く時間になっていた。だが、気温はそこまで高くなく、折角海に来たのだから、という理由で、彼らは目の前の海に遊びに行くことにした。若干一名、屋内でダラダラしていたい、と暗に主張した者もいたが。
 支度の早い男子陣が先に出て行き(件の彼はミシェルが引っ張り出した)、それから間もなく茜が虎太郎を追いかけて別荘を飛び出した。残りの三人は揃って出たが、恵実と詩織は、眼前に広がる海の美しさのあまり、タッタッタッと波打ち際に駆けて行った。
 一人置いて行かれた海奈は、同じく手前の方ではしゃぐ面々を眺めていた蓮哉を見つけ、ドキドキしながら近付いて行った。
「ど、どうかな」
 恥ずかしげに水着の感想を尋ねてみる。もちろんのことこの日のために新調したビキニは、海奈の大人っぽさを活かした挑発的なデザインだ。
「うん、凄く似合ってる、素敵だ。他の誰にも見せたくないくらい、とか言ってみたいね」
 変に気を持たせ過ぎないように、最後は言葉をぼかす蓮哉。海奈もそれ以上は何も言わず、二人の関係は進むこともなく、退くこともないいつもと変わらない状況に落ち着いた。
「そう言えば、虎太郎、静かね。てっきり海だから、またいつもみたくはしゃぐと思ってたのに」
「あはは……茜さんがいるからね、首根っこ掴まれてる感じなんじゃないかな。あ、そうだ、海奈――」
「うん?」
「茜さんに、何か吹き込んだりした? 虎太郎関係のことで」
 男子と違って、女子は四人で部屋を共有しているから、誰が茜を唆したのかは判断出来なかった。虎太郎を手助けしてやりたい、という思いはまるで無かったが、面白い事態を生み出してくれる機会があるのなら、どこ発信なのかくらいは知っておきたかった。
 茜が虎太郎のベッドに潜り込んでいたことをぼかして伝えると、海奈は驚きこそしなかったが、その積極性に少し引いていた。
「うーん、何を以てそれになるのかは分からないけど、私じゃないのは間違いないかな。私、茜さんとはほとんど喋ってないし。モミちゃんか、恵実のどっちかだと思うけど、虎太郎のことそこまで知らないモミちゃんが、そんなことするかな?」
「ってことは、必然的に恵実が?」
「そう、なんじゃない? あの子が直接的なアドバイスをするとは思えないけど」
「まあ、それはそうだろうから、プッシュしたくらいだろうね。茜さんにとっては、それが十分過ぎるくらいの後押しになったんだろうけど」
 さすが蓮哉というべき所で、二人の予想は完全に当たっていた。恵実が茜に頑張りましょう、と応援した後、茜は何を頑張るかしばらく考え、より思い切った行動に出て、虎太郎を否が応でも意識させる、という作戦を取ることに決めた。そんなわけで、今朝のような事態が起きたのだった。
 そして今もまた、危険を察知して出来る限り遠くへ走り去ろうとした虎太郎を、驚くべき速度で茜は捕捉し、積極的な行動に出ていた。
「虎太郎も腹をくくったら良いのに。茜さん、十分素敵な人だと思うけどなあ」
「そ、そうね」
 蓮哉に惚れているとはいえ、さすがのこの発言には海奈は賛同出来ず、(これだから男子は……。結局顔が良かったら、中身なんてあんまり見てないんだろうね)と心中で呟いた。昨夜、女子部屋で眠りにつくまで延々と虎太郎の話を全員に向けてしていた茜の姿を思い出すと、どうにも茜が真っ当なタイプの女子だとは思えなかった。
「ずっとここにいたってしょうがないし、僕らも海に入ろっか」
 そう言うと、蓮哉は海奈の手を取って汀へ歩き出した。それは完全に無意識の行動で、色々なしがらみを考えなければ、彼が海奈のことを特別に想っていることの表れだった。不意打ちを食らった海奈は、自分も大概どうかしてる、と思いながらも、この状況を喜ばずにはいられなかった。
 こうして一同は時間が経つのも忘れ、貸し切りのビーチを思う存分楽しんだ。二人一チームに分かれ行ったビーチバレーでは、ミシェルと詩織のチームが、共に人並み以上の運動神経を有していることから圧勝し、料理対決と違って微塵のやる気も示さなかった颯斗は、それなりに運動の出来る恵実のアシストがありながら、全チームにストレート負けを食らい、さらにやる気を減退させた。ところが、続くスイカ割りでは、再三蓮哉に正誤入り乱れた情報を提供されながら、一度目で完全にヒットさせるという面白い(蓮哉にとっては面白くない)展開を作り出した。
「あー、さすがに疲れた」
 砂浜に寝転んで、腹の底から絞り出したミシェルの声は、その場にいた全員の気持ちを代弁していた。空もほんのりと赤みがかっており、夕方に近付いていることを示している。
「それじゃ、そろそろ戻ろっか」
 そんな蓮哉の提案に、ようやくだ、と颯斗だけは生き返った気持ちになり、それと同時に、(これのどの辺りが歌い手合宿なんだろうな)という至極真っ当な疑問も抱き始めていた。今の所、料理対決に、水遊びというイベントくらいしか大したことをしていない。これで終わりなら拍子抜けだが、おそらくは、残された一日半に、何らからしいことがあるんだろう、と思い、もう少しだけ我慢することにしたが、一同が着替え終わってリビングに再結集して、蓮哉が「お寿司でも食べに行こっか」と言った折には、さすがに頭を抱えたくなった。
 昨日の晩にも全く歌い手らしい話題の一つも出なかった以上、今晩も同じような席になるだろうし、何より、ようやく一息つけると思ったのに、また外に出なければならないと思うと、颯斗には軽く頭痛さえして来そうな勢いだった。
超久しぶりに海奈が喋りました(笑)
歌絵師キャラの中で、一番忘れがちなのが海奈です。登場させるのは忘れるんですが、出した後役割を与え忘れます。そして、どんなキャラだったか忘れる不憫な子です。
インパクトの強い子たちがごろごろ出て来ましたが、それでも、登場回数だけならヒロインの夕葉より多い気がしてならないです(ヤバい気がする)。

テコ入れってわけじゃないですけど、展開を速めるために、二日目はササッと終わらせます←
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