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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第八十六話 彼方に想いを寄せる人

 麗音の呟きは非常に淡白で、リプライを交わす時にはもう少し人間味が出るものの、基本的にはサラッとしていて、とても落ち着いた印象を与える。他の歌い手と活発に交遊する姿を見せたり、好きなものについて語ったり、活動報告をしてみせる人がそれなり以上にいる中で、その静けさはかえって評価を得る一因となっていた。その麗音が、唐突に仲間と盛り上がっている別の一面を見せたことで、ファンの多くはギャップ萌えに襲われたことは言うまでも無い。
 手の早い絵師が合宿で盛り上がる彼らのイラストを描き上げ、ツイッターに上げたことで、その勢いはさらに加速した。この一連の流れが生まれることについて、蓮哉が狙って行動していたことは、最早言うまでも無い。
 大多数のファンは、こうしてこの非公開のイベントを好ましく受け止めたが、夕葉は些か違う気持ちで受け止めざるを得なかった。写真には、夕葉の知っているWitCherryの他にも、よく知らない女性の影が見え、麗音との距離感の異なりを感じずにはいられなかった。ツイッターやスカイプで打ち解けたやり取りを交わせるようになったとはいえ、同じ空間で時を過ごせる存在に、少なくとも今の夕葉が敵うはずは無かった。
 現実で近くにいる男子に好ましい印象を抱くことが果たしてあるだろうか、とは思ったものの、そこまで考えた瞬間、例のライブで颯斗に胸の高鳴りを覚えたことを思い出し、思考は放棄された。
 きっと、何かきっかけがあれば、人は簡単に誰かを好きになってしまえる。それまでに複雑な心境を抱くような事情が無ければ、いともあっさりと。そう考えると、今麗音と一緒にいる女子の中に、麗音のことを好きな人がいたとしても、何らおかしくはない。現実で麗音が恋愛についてどういう考え方を持っているのかは夕葉には想像もつかないが、一介の男子高校生並みの価値観を持っているとすれば、それこそ、夕葉に勝ち目など無いに等しいと思えた。夕葉は所詮、顔も知らないネット越しの相手。どれだけ彼女の容姿が優れていようと、彼のことを想っていようと、彼にとっては、数多く並んだアイコンの一つという印象以上にはならないように感じられた。
 ふいに、麗音に抱いている感情さえ、よく分からなくなりかけた。何を以て、自分は麗音に想いを寄せているんだろう、と。相手に自分のことがほとんど見えていないのと同様に、自分にも相手のことはほとんど見えない。それなのに、麗音のことを――
「好き……?」
 戸惑ってはいけない気がした。それさえ失ったら、今の自分からは全てがなくなってしまう気がした。
 妄信的にでも想わなければ、自分が消えてなくなってしまう。そんな恐怖が、彼女の心を襲った。
 早く合宿なんてものは終わらせて欲しい、彼の声が聞きたい。そんなわがままを、心から募らせた。

 料理対決が終わり、ゲスト以外も食事を済ませ、その後片付けまで終えた頃には、すっかり夕刻になっていた。今日の予定としては全てやり切ったのか、蓮哉も大して何かを仕掛けようとする様子も無く、団欒を交えながら、ゆったりとした時間を過ごした。その内、もう作るのは面倒くさいし、ピザでも取ろうか、という流れになると、ミシェルがさっき食べた気がするけどな、と言って、みんなの笑いを誘った。
 それ以後は各自自由行動になり、さすがに温泉なんてものはついていないことから、順番に入浴しつつ、一日目の夜を過ごすこととなった。
 颯斗はようやく解放された喜びを満喫しようと、足早に別荘を出て、眼前に広がる海辺へ足を向けた。
 その様子を察知出来なかった恵実はチャンスを逃したと残念がったが、海奈に誘われ近くを散歩する段になると、それはそれで楽しく、颯斗のことは少し頭の隅に行ってしまった。
 そうして別荘の空気が落ち着いた所に、颯斗は頃合を見計らって帰って来た。
 リビングには誰もおらず、少しくつろごうかと考えたが、テラスがあることに気付き、そこからの景色も見ようと思い至って足を運んだ。
 と、そこには先客がいた。
「海、綺麗ですよね」
 潮騒に、海風を浴びる詩織の姿は、普段無感動な颯斗でさえ、少なからずどきりとするものがあった。同じ美しさでも、夕葉のそれと違い、詩織は健やかさとか、柔らかさが現れている。
「あ、ああ」
「ご、ごめんなさい、びっくりさせちゃいましたか?」
「ああ、いや。俺、人見知りするから……」
「そうなんですか? 割と堂々としているタイプだと思ったんですけど……」
 料理対決の時は、自分でも少し驚くくらいには積極的で、同じく初対面だったはずの茜にさえ、面と向かって話すことが出来た。けれど、集中の糸が切れた今は、いつも通り、ローテンションの颯斗に戻っていた。
「あれは、何て言うか、場の空気に当てられた、って言うか」
「そうなんですね。あ、蓮哉さんたちの方に票は入れましたけど、颯斗さんたちの方も、本当に美味しかったですからね?」
 詩織がそう言うのを聞いて、颯斗は少し緊張がほぐれるのを感じた。その結果に、自身ではもう何とも思っていなかっただけに、自分の下した判断が何らか不快感を与えたのではないだろうか、と考え続ける詩織の姿勢が少し可哀想に思え、それと同時にその考え込む性格が、どこか可愛らしく思われた。
「大丈夫。俺はすっかり忘れてたくらいだから。勝敗で気にするのは、歌に関することぐらい、そんな気がする」
「良かった」
 何故だろうか、詩織には自然と優しく出来る自分がいた。しろももに対して抱くのとはまた違う、穏やかな感情。一歩引いた立ち位置から話し掛けてくる詩織に対しては、ずかずかと自らのテリトリーに入って来るような厚かましさが全く感じられず、そこを大事にしたい颯斗と、ちょうど良い距離感が作られているからなのかもしれない。
「そう言えば、樅山さんって、その、御崎の友達、で合ってる……よな」
 どうにも話し口調がまとまらず、おぼつかない言い方になってしまう颯斗。同い年だということはほぼほぼ分かっているだけに、茜に対して見せたような丁寧な話し方にするつもりは無かったものの、かといって砕けきった話し方も、いざ口にしようとすると失礼かと思い、なかなか上手く喋れない。
「御崎って、薫君のことですか? 薫君と面識が?」
「偶然、同じクラスで」
 けれど、薫を共通項に出来ると確定した瞬間、氷解したような感覚になった。後はもう、言葉が自然と出て来て、意識するようなことはなくなった。
「色々、樅山さんのことを聞かされて。あいつ、嬉しそうに話すから、どんな人なんだろうって思って見てたんだけど、確かに、好きになるような素敵な人だった」
「そんな、素敵だなんて……。私、人前ではかっこつけるけど、一人になったら、全然ですし、薫君と交わした約束も、守らなきゃいけない、と思いつつ、破ってしまいたい衝動に駆られるんです」
「約束……?」
 詩織の言葉は、途中から文脈が読み取れず、颯斗には何の話をしているのか分からなくなった。
「約束したんです。薫君と」
 そんな颯斗に、詩織は静かに話し始めた。
 誰かに話したくて、でも誰にも話せなくて、ずっと心に仕舞い込んでいた、詩織から見た、薫との物語を。
時間に余裕があったので、少し長めに話を書きました。今回の合宿で書きたいテーマの二個目である、薫と詩織の話を、ようやく出来るようになりました。本題は次の八十七話で。

髪の長さの話を少しだけすると、夕葉が一番長くて、次に長いのが海奈だと思います(海奈の設定だけ皆無)。この二人が長い部類です。次が恵実です。ツインテに出来るくらいの長さ。茜も同じような長さですね。髪型は決めていませんが、うーん、どうしましょう。キャラデザ上手い人に考えてもらいたい(笑)詩織はボブくらいで、可愛い感じです。

……適当すぎない?
と思ったので、もう少し考えます(反省)。
誰か考えて下さっても良いのよ←
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