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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第八十四話 蓮哉の焦り

 この調子で行けば、当初の予想とは全く違う展開になるだろうと、誰もが思った。だが、恵実が真性のポンコツであることを、誰も知らなかった。
「恵実……?」
 テーブルの方で作業していた恵実の様子を見れば、恵実はじっとフルーツの入った缶を見つめるばかりで、微動だにしない。
「どうした?」
「ねえ颯斗、これ、どうやって開けるの?」
 そう、恵実は料理が出来ないというより、生活力に欠けるというのが正しい。お嬢様なら世間知らず、と可愛らしく済むが、甘やかされて育っただけの庶民の子となると、目も当てられない悲しさしか出て来ない。
「缶切り使えよ」
 そう言って缶切りを手渡し、颯斗は作業に戻ったが、それが悪手になるだろうと、いったい誰が予想出来ただろう。
 次に恵実に視線を向けた時には、無残に広がるフルーツミックスが、彼の目の前にあった。
「な、何してるんだ……?」
 鍋の見張りを虎太郎に任せて慌てて駆け寄ると、缶詰がひっくり返っているのが目に入った。元の向きに戻すと、フタが半分ほど開いていた。
缶詰を開ける、という行為そのものが出来ないなんて、颯斗には想像もつかなかったが、実際に恵実は缶詰を開けるのに右往左往し、どうにかしてこじ開けようとした結果、手元が狂って惨状が生み出されることになった。
 これには怒りを隠せない颯斗だったが、今にも泣き出しそうな恵実の顔を見ると、ため息と共に、優しい慰めの言葉が出た。
「まだ缶の中に少し残ってる。食べてもらう奴には、これを乗せたら良い」
 正直、続きの作業を任せることには不安が募って仕方なかったが、今颯斗が代わりにしようものなら、恵実の存在を全否定してしまう気がして、信じて託すことにした。
「ごめん、ごめんね、颯斗、私……」
「気にせず頑張れ。ほら、もたもたしてたら今度はアイスが溶けるぞ」
「うん……」
 料理が出来ない、苦手、というのは、漫画やアニメで見るような、砂糖と塩を間違える、みたいな典型的なミスを犯しやすいということよりも、慣れていたり知っていれば当たり前に出来ることを、慣れていなかったり知らないから上手く出来ない、ということなのかもしれない。そう思いながら、颯斗は恵実が後始末するのを手伝った。
 それが済んでからコンロの前に戻ると、嫌な可能性が脳裏にちらついた。もしや、と思って鍋の中をかき混ぜると、案の定底の方が少し焦げ付いていた。〝鍋を見ていて欲しい〟と頼んだが、まさか本当に見ているだけ、とは……。しかもこっちの方は、それが失敗だとは思ってもいない分、タチが悪い。
 怒ろうにも怒れない。左手で顔を覆って、はぁ、とまたため息を一つ。隣で「幸せが逃げちゃうよ?」なんて声がしたが、それに心を乱されないよう、大きく息を吸って、小さく吐き出した。
 何もこんなことのために精神をすり減らす必要は無いが、颯斗は〝出来ること〟を〝出来ないこと〟のように看做されるのは好かなかった。
 この程度、まだ挽回出来る。二人に注意が欠けているなら、自分がまとめて意識すれば良いだけのこと。そう言い聞かせて、颯斗は続きの作業に取りかかった。
 そんな颯斗の様子を横目に見ていた蓮哉は、はちゃめちゃな展開を望んでいたのに、と心の中で残念がった。颯斗をかき乱してやろうという目論見は失敗に終わったようで、次の作戦を考えざるを得なくなった。
 颯斗がやる気を失うどころか高めたおかげで、審査に移る段階になると、蓮哉たちの出した皿と並べても遜色の無いものが出来上がっていた。ミシェルや海奈がその出来具合に賛辞を述べると、さすがの颯斗も照れを隠せなかったのか、少し目をそらした。恵実も虎太郎もあれ以後は目立った失敗をすることなく、今は達成感を露わにした顔をしている。
「でも、勝負はここからだよね。見た目が良くても、味がどうかまではまだ分からないよ」
 蓮哉はいつの間にか自分が噛ませ犬のようなポジションになっていることに気付き、表には出さなかったが少し狼狽した。望むまま場をコントロール出来るはずの自分が、颯斗一人を御しきれないでいる。愉しむためには、先を取らなくてはならない、翻弄されてはならない。求心力と、人を振り回すも見限られないパワーが必要だ。それが薄れかけている、そんな不安が彼の心に押し寄せた。
「ほな、食べて判断しよか」
 審査員の二人がまず口にしたのは、颯斗たちが作ったハヤシライス。
「おぉ……! めっちゃうまいやん! 料理の腕、ほんまなんやな!」
「うん、美味しいです。料理、お上手なんですね」
 二人の高評価に、また照れを隠せない颯斗は目をそらしたが、ちょうどその先に恵実がいて、恥ずかしがる颯斗を見てにっこりと笑顔を返した。
 そんな無邪気なやり取りを他所に、焦る蓮哉は二人がいつ自分の作ったパエリアに手を付けるのか注視していた。颯斗の腕前は、蓮哉がその実力を全員に明かしたように、彼にはよくよく分かっていたし、負けるはずが無いとも確信していた。ミシェルが作ったサラダと、海奈が作ったババロアを合わせると、より一層敗北は有り得ないと思われてならない。それなのに、ハヤシライスを美味しそうに口に運ぶ二人を見ていると、ひょっとすると、という可能性がちらついて仕方なかった。
いつまで料理対決編やってるんですかね、って自分でも思います。話の山と谷が無いので、作品的につまんなくなってないかな、とやや心配なので、早く展開を進めるよう、頑張ります。。。

余談ですが、日記を再び付けようかな、と思います。内容は創作の裏話とか、ゲームのこととか、社会的な身分に関わる内容以外で色々書こうと思っています。まあ、ご興味がありましたら、Twitter(@Tohya_Aki)に更新報告をしますので、見てやって下さいな。
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