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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第八十二話 彼がかっこよく見える時

「決めた」
 近くのスーパーの駐車場。車を降りた瞬間、颯斗はそう口にした。
「お前らには、料理の腕が問われないような方法で、料理を作ってもらう」
 真剣に言うような話ではないが、颯斗の目には珍しくやる気の火が灯っており、そこには気迫さえ感じられた。
「って、具体的にはどーゆーことなんや。料理せんでも、料理した感じ出す、ってことやろ?」
「煮たり焼いたりするのは、さすがに難しいだろうが、何も全員がしっかり料理をする必要は無いだろ? 虎太郎にはハヤシライスを手伝ってもらいつつ、恵実には、アイスを飾り付けてもらいたい」
 颯斗が名前を口にした時、思わずドキッとして、恵実は颯斗から目をそらした。何故だか、じっと見つめていると、どうにかなってしまいそうな気がして。
「……聞いてるのか?」
「えっ、あっ、うん、何だっけ」
「ちゃんと聞いといてくれよ……。だから、お前にはアイスを飾り付けてもらいたい」
「アイスを飾り付ける?」
「つまりだな、そのままアイスを出すんじゃなく、フルーツを添えたり、ミントを乗せたり、チョコレートをかけたりして、デザートっぽく盛り付けてもらいたい」
「なるほど! それなら私にも出来そう!」
「颯斗も頭使うことあるんやなぁ……」
「失礼な奴だな……」
 ようやくそれで話がまとまろうとした時だった。
「適材適所、って感じやけど――」
 あれからしばらく沈黙を続けていた茜が、おもむろに口を開いた。
「勝負から逃げてる感じせえへん?」
 茜の鋭い言葉が、三人に向かって放たれた。恵実も虎太郎も、それを聞いて幾分後ろめたい気持ちになった。自分に出来ないことを、出来ないまま誤魔化そうとする。それはきっと、良くないことなんだろうけれど、かと言って自分たちが今この瞬間に出来るようになるわけでもないし、何より、しなくて済むのなら、それに越したことは無い、そう思っていただけに、茜の指摘には刺さるものがあった。
「上手いこと行かんくても、三人で協力して立ち向かうゆーんが、望ましいんとちゃうの?」
 あまりにも正論。二人には返す言葉も無かった。そのままでは、ダメ元でも頑張ってやってみる、という結論に至りかねなかった。
「確かに、それは正しいことなんでしょうけど――」
 そこに、まさかの颯斗が立ち向かった。その言葉には、確かな力がこもっていて、毅然として茜に向き合う颯斗の姿は、かっこよく見えた。
「それぞれが自分に今出来ることをする、それも十分正しい選択だと思います。勝つためにとか、そういうんじゃなく、美味しい料理を作りたい、食べたい、そう思ったら、この選択がベストじゃないですか」
 茜の〝上手いこと行かんくても〟というのが、颯斗的には納得行かなかったらしい。出来ないことを、無理にやろうとする失敗を、少なくとも今は、して欲しくない、というのが彼の思いだった。いずれ出来るようになった方が良いのは、間違いない。それでも、今無理を押してやったところで、その場にいる半分ほどは、浮かない顔をする結果に終わるだろう。たとえ表面上は、取り繕った顔をしているとしても。
 颯斗の返答を聞いて、茜はじっと彼を見つめた。そして、ふっ、と笑みを浮かべた。
「うち、あんたのこと誤解してたかもしれへんわ。てっきり、やる気の無い自堕落な人なんや、って。けど、違たみたいやね」
「まあ、間違っちゃいませんよ。それで」
「そう思わせてるだけで、その実、熱い所、あるんやね。ファンが多いんも、なんとのう分かった気ぃするわ」
「買いかぶり過ぎですよ。俺は、そんなんじゃないです」
「なら、そーゆーことにしとくわ。ほんなら、買い物行こか」
 話がまとまって、ふぅ、と息を吐き出した颯斗は、ようやく次の段階に進めると、足早に店内へ急いだ。その後ろを、虎太郎が「ハヤシライスって、何入っとったっけ?」と聞きながらついて行く。
 思いがけず颯斗のかっこいい姿を目に出来た恵実は、幸せな気持ちで二人の後を追いかけようとした。その隣で、茜がぼそり、口にする。
「かっこよかったなぁ、彼。惚れた理由、何となくやけど分かってしもたわ」
 ぎょっとする恵実。ついさっき出逢ったばかりなのに、誰にも打ち明けたことの無い気持ちがあっさりと見抜かれている事実に、驚きを隠せるはずが無かった。虎太郎にぞっこんの不思議な人、という印象だったが、どうやらそれだけではなさそうだ。いや、ひょっとすると、とんでもない人なんじゃないか、という思いが、彼女の中に芽生えた。
「まあ、虎太郎には遠く及ばんけどなぁ」
 それでいて、茜は唐突に惚気だしたが、この合宿に波乱を起こす存在になるのでは、と疑い始めた恵実には、そんな言葉は全く届かないのだった。
後で書きます。

と言って書くのを忘れていました。
ところで、この後書きって本編と違って楽しみにして下さってる方っていらっしゃるんでしょうか?
作者の後書きって、自分はすごく好きなんですけど、人によってはあまりそうではないかもしれません。が、自分が好きなので、書くのはやめません、っていう冗長な文になりましたが……。

書いて行く途中で、茜がいわゆる京女になりかけて来て、一応はんなりしてる感じではない関西のオンナノコっていう設定なので、修正しながら書いて行くんですが、そうなると虎太郎との差別化を図るのがそれなりに難しくて、うーん、ってなりながら書いてます。

ところで、ようやく卒論がほぼ書き終わりまして、以前のコンスタントな更新が出来そうになりました。なので、これからはまた二日おきに更新しようかな、と思っております。また確定いたしました、ここでお知らせいたしますので、今しばしお待ち下さい。
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