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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第八十話 颯斗の普通

「嘘やろ! その性格でそれは詐欺や。一週間毎日同じの食ってるような顔しとるやんか」
「失礼だな……」
「でもでも、意外! 颯斗が料理してるイメージなんて全然無いよ? 独り暮らしでも無いよね、なんで料理が出来るの?」
 彼らがそう言うのも無理は無い。家の外にいる時の颯斗を見ていれば見ているほど、とても颯斗が料理をするようには思えない。
「いや、生きてたら普通に出来るだろ」
 それだけに、そんな颯斗の発言は、二人の心に大きな衝撃を与えた。
「あ、有り得へん……。こいつに常識疑われた……」
「普通に生きてるだけじゃ料理なんて出来ないよ……」
「お前ら、家族の料理の手伝いとかしたことないのか?」
「あるけど、それで出来るようにはならんやろ」
「私はね、やろうとしたら恵実は座ってて大丈夫よ、ってママに言われたよ」
 虎太郎の言い分には多少納得出来る所もあったが、けろんとした顔で言い放った恵実の発言には、颯斗は到底理解出来なかった。母親に手伝いを拒否されているのか、本当に手伝いをしなくて良いと言われたのかは分からないが、それを素直に聞いて、全く料理をしないままに今まで来たことには、意味が分からない、といった感じを抱いた。
「最低限自分で作れないと生きていけないぞ……」
「あはっ、あはははっ、お、面白、颯斗に将来を心配されてる、お、おかし、こんなの、笑うしかっ」
「ほんならお前は出来るんやろーな!」
「蓮哉はイタリア料理とかでもサラッと作るぞ」
 ミシェルがスパッと答えると、虎太郎は口を開けたまま固まった。
「そ、そんなん、料理対決したらそっちが勝つん確定やんか!」
 とは言え、このまま言われっぱなしなのに不満な虎太郎。何とか勝負の不当性を訴えて抵抗するが、負け犬の遠吠え感が否めなかった。
「大丈夫だよ。別にこんなところでイタリア料理を振る舞ったりする気は無いし、合宿に合うような料理を作るだけだから、颯斗の手伝いをちゃんとしてあげたら、良い勝負になると思うよ?」
「颯斗の手伝い、って……そんな、どの程度やねん……」
「なんでお前上から目線なんだよ」
「そう言うけどな、ミシェル。お前もこっち側のチームやってみ? 不安でしょうがないと思うで?」
「俺はお前と違って一通りは飯作れっから。そんな心配は生まれねえよ」
 あっけらかんと言われて、とうとう言葉を失った虎太郎。
「ああもう! ほんならはよしようや!」
 負けを認めるかの如く、そう言い切ると、待ってましたと蓮哉が「それじゃあ、買い出しに行こう!」と告げた。実際のところ、まだメニューは決まってもいなかったが、それは車の中で決めれば良いということで、まずは外に出ることになった。ゲストはと言えば、また別荘で待っていてもらうのもアレということで、それぞれの買い出しに同行することに決まった。何が出来るのかを秘密にしておく方が面白いのかもしれないが、その面白さよりは、同じ時間を共有する楽しさの方を、全員が望んだ。
 そんなわけで、再び車に乗り込んで、移動することになった一同。
 虎太郎の運転する車では、朝方は空いていた助手席に、茜の姿があった。虎太郎は必死に目で拒否の意思を訴えたが、同情する者は誰もおらず、満場一致で相席が決まったのは言うまでも無い。
 動き出してからしばらく、最初は静かに虎太郎の方を見つめていた茜が、ふいに口を開いた。
「もう、運転上手なんやから、もっとかっこええの乗ったらええのに」
「そんなん高うて買えへんわ、買うてくれるんやったら考えたる」
「ええよ? その代わり、うちが行きたいとこ、何処でも連れてってな?」
 ちょうど信号が赤に変わり、停止したのと同時に、虎太郎はふっと右を向いて、後部座席に座る颯斗にSOSのサインを出した。が、颯斗は諦めろ、とジェスチャーを返すばかり。むしろ、ここまで愛されていることに不満を覚えるなんて、そんなわがままはあつかましいことだとしか思わなかった。
 当人がどう思っているかはともかく、端から見ればバカみたいなやり取りをする二人を見ながら、颯斗は窓の外に目を向け、何とはなしにしろもものことを思い返した。夏休みを、彼女はどんな風に過ごしているんだろう。そう考えるだけで、優しい気持ちになれる自分がいることに気付いて、彼は微笑んだ。その隣にいる恵実は、彼が自分の方を向いてはくれないことに、寂しさを覚えていたけれど、それでも、今一番近い距離にいるのは自分だと言い聞かせて、近い内に振り向かせると、改めて誓った。
「本題なんやけど、何作るんや? 蓮哉が凄腕なんやったら、勝てるような代物無いやろ?」
「だよねー。ねえ、颯斗、勝ち目あるの?」
 二人ともすっかり蓮哉の技量に物怖じしていて、闘う前から勝つ気が全く感じられない。それでも、対する颯斗は、いつもと違って無気力では無く、あっさりした態度で返した。
「別に、普通に美味いの作ったら良いだけだろ。料理コンテストじゃあるまいし。それに、虎太郎がちゃんと仕事すりゃ、確実に一票入れてくれる人もいるわけだしな」
 後は、戦力外の二人を何とか機能させれば、それでも頑張って作った料理、ということで詩織の票も手に入るだろう、というのが颯斗の目算だった。もとより努力するつもりは微塵も無かったが、こうなってしまった以上、むしろ蓮哉の鼻を明かす良い機会だと思い、それなりには頑張るつもりになっていた。
「それは間違うとるで、颯斗君」
「はい?」
 が、しかし、現実はそれほど甘くはないようだ。
「確かに、うちは虎太郎にぞっこんや。けどな、勝負事で、そーゆー私情は持ち込んだらあかん。正々堂々勝負して、そいで出来上がったもんが美味しかった方に投票するで」
 誰にでも気軽に接するはずの蓮哉が、そう言えば茜には〝さん〟付けをしていたのを思い出し、茜が手強い人物であることに気付かされた颯斗。
 今日何度目になるか分からないため息をついた彼は、心内でそっと、面倒くせえ、と毒づいた。
新年明けましておめでとうございます。
前年は多くの方に本作を読んでいただき、今ではコンスタントな閲覧数を記録する、私の看板作品的なものに成長した飛躍の年となりました。
今の所忙しい日々が続いておりまして、投稿ペースは乱れたままとはなっていますが、新年になったということで、初日に何とか投稿したい、と思い、頑張って続きを執筆した次第です。

忙しいことを、今年は言い訳にしない年にしたいです。それから、本作以外にも、たくさん投稿出来たら良いな、と思っております。
本作共々、私藤夜アキの作品を楽しんでいただけるよう、精進して参りますので、どうぞ本年も宜しくお願い致します。
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