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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第八話 ツナガル、ハナレル

 その日の放課後、颯斗は待ち合わせ場所に決めた公園へと向かった。五人分の飲み物を持って帰るには、教科書をたくさん入れたカバンを背負ったままだとしんどいから、と敦が提言して、颯斗もそれに賛同して一度家に帰ってから買い出しに向かうことになった。
 遠足は一週間後な上、飲み物の買い出しに指名されたわけでもないが、敦は颯斗がその気になっている内に連れて行かないと後々までもつれることをよく熟知しており、今日を選んだのだった。
 颯斗の家から待ち合わせ場所の公園までは少しあり、颯斗は携帯を弄りながらのんびり歩いていた。なんとなく起動したツイッターを見ていると、しろもものツイートが目に入った。
 彼女の行動する時間帯は自分と同じなのかもしれない。だとしたら、もしかすると学生?
 颯斗は中々良い推理を見せた。
 だが、ただの学生が果たしてここまで著名になるんだろうか。
 自分自身がその最たる例な癖に、他人のこととなると俄かには信じられず、颯斗は近付きかけた答えから遠ざかった。
 しろももは落書きを載せたツイートをしていたが、またもやその絵が颯斗の心を捉えていた。
 海を眺める、髪の長い少女の絵。落書きだと言うのに、そこにはしっかりと書き上げられた絵と同じほどの魅力が詰まっていた。
 こんなにも素敵な絵を描く人は、いったいどんな人なんだろうか。
 颯斗の中で、しろももに対するイメージが、また美化されて行く。聡明で可憐な、けれどどこか儚げな女性。そんな印象が出来上がって行く。そしてその度に、夕葉から遠ざかって行く。
 颯斗は普段お気に入り登録なんてものをしないが、この時ばかりは自然に手が動いていた。
 そして、イラストに関するコメントを一文だけ、返信にはせずにツイートした。
 この感動が、ひとかけらでも伝われば良い。
 そう思って。

 夕葉はと言うと、落書きを載せたツイートをした後は、ベッドに寝転がって件の班員一名についてまだ文句を独り言ちていた。
「何なのほんと。くじ引きにしたって普通一緒になる? 美陽と一緒になれたのは良かったし、後の二人にしても別にどうとも思わないけど、なんでよりによってアイツと一緒の遠足になるわけ? あーもう、ほんとサイアク……」
 ついさっきまで穏やかで優しい落書きを描いていたとは思えない言い草。
「あー、もう、ほんとイライラする。外出よ、外!」
 ついでにお菓子も買っておこうと、財布と携帯だけを手に取って部屋を出ようとする。
 すると、無意識に触れてしまったのか、携帯のロック画面が解除されていた。夕葉の携帯のロックは指紋認証なため、ボタンに触れているとこうしてひとりでに開いてしまうこともよくあった。
 表示されたのはツイッターのタイムラインで、夕葉はツイートを投稿したのと同時に画面をスリープにしたのを思い出した。
 なんとなく、ただなんとなく夕葉は親指を画面の上部に触れた。そうすることで、一番最新のツイートまでタイムラインが動く仕組みになっている。
 そこには麗音のツイートがあった。
 何気ない、何気ない一言だった。
〝しろももさんの絵を見ると、心が安らぐ〟
 ファンがたくさんいて、実力があって。
 そんな人が、心が安らぐと言ってくれている。
 憧れを抱いた、あの素敵な歌声の持ち主が、自分の絵を、見て。
 夕葉はその時、底知れぬ喜びを抱いた。
 彼女にとって、褒め言葉自体は、見慣れた、聞き慣れたものだった。
 夕葉の絵は確かに素晴らしくて、才能に溢れていて、そして何より、上手い。だから、誰しもがそれを見て、感嘆の声を上げる。
 でもいつだってそれは、有り触れたどこかの誰かの感想で、恵まれたことだとは分かっていても、最初の頃のような鮮やかな喜びは、次第に得られないようになって行った。
 でも今、麗音が放ったたった一言は、夕葉の、しろももの心の奥の奥にまで響いた。沁み渡った。
 心から嬉しいと、思えた。
 もっと、もっとこの人に近付いてみたい。そうしたら、初めて歌声を聞いた時に抱いた、彼に自分の絵を贈りたいという気持ちも、もしかしたら叶うかもしれない。
 だから夕葉は、一歩を踏み出そうと思った。
 どうか、届きますように。
 そう願いながら、麗音に対して、〝ありがとうございます〟とだけ返信した。
 送信が完了した、という通知まで見終えると、夕葉はふいに昂ぶった感情を抑えるためにも、改めて外に出ようと決めた。
 階段を焦りながら駆け下りて、かかとを踏み潰しながら靴を履いて、前のめりに倒れこむようにドアを開けた。
 爽やかな風を吸い込んで、勢い良く、飛び出した。
 そして、お菓子の買い出しをすべく、行きつけのスーパーに向かって歩き始めた。
 よもや同刻に、颯斗と淳が同じ場所を目指して公園を経ったなどとは知らずに。
 むしろ、一気にテンションが高まったせいか、美陽に〝今から一緒に買い出しに行かない?〟とチャットを飛ばして。
 そしてまたそれに美陽がすぐに同意を示したものだから、いよいよ夕葉は止まらなくなって。
 ここ数日で一番の上機嫌で、颯斗と同じ目的地へ向かうのだった。
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