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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第七十九話 颯斗の知られざる才能

「まあ、そんなわけで、ゲストの紹介を改めて。こっちはみんなよく知ってるだろう、氷雨モミこと、樅山詩織ちゃん。で、こっちが虎太郎のフィアンセのほの字こと西野茜さんだよ」
 茜と虎太郎のやり取りが一段落したところで、茶番劇はこれで終わり、とでも言うかのように、蓮哉はいたって真面目な口調でゲストの紹介をしてみせた。虎太郎のフィアンセ、という部分で、また二人が盛り上がったが、さすがに一度目にして慣れたのか、誰も関心を向けることも無く、二人だけのやり取りで終わった。
 最初こそ二人の関係性に興味を示していた颯斗だったが、彼の興味関心がそう長続きするはずも無く、既に合宿に飽きを感じ始め、あくびを漏らした。
 その様子にいち早く気付いた蓮哉は、にやり、とお得意の笑みを浮かべ、次なる作戦に取りかかることに決めた。
「さて、そろそろお昼だし、みんなお腹空いて来てない?」
「まあ、言われてみればそんな気もしなくないな」
「でしょ? で、折角こうやって合宿、って形で集まったんだから、みんなでご飯を作ろうよ」
「おー! ゆー君ナイスアイディア!」
「うんうん、ノリが良くて助かるよ」
 で、と続ける蓮哉。ブナン、なんて言葉は、彼の辞書には無い。
「普通にやるんじゃつまんないから――」
「普通で良いだろ」
「二チームに分かれて、料理対決をしようと思うんだ」
 颯斗の主張は案の定スルーされたが、さすがに慣れて来たのか、ため息一つで諦めがついた。
「判定はゲストの二人にお願いしよう。それじゃ、くじでチームを分けるね。詩織ちゃーん」
 はーい、と今度は割り箸の入った海苔の空き缶を、何処からともなく持って来る詩織。
「おい、プロをアシスタントに使うなよ」
「汐留さん、私の方からお願いしてるんです。極力、お友達にするような感じで接して下さい、って」
「なるほどな。蓮哉は俺らのことをパシりか何かだと思ってる、と」
「まっさかぁー? パシりじゃないよ、協力だよ、人聞き悪いなぁ、もう。それに、僕はちゃんと詩織ちゃんの同意を得てやってもらってるんだからね?」
「ったく……そんなんだと悪い男に騙されんぞ、お前」
「大丈夫です」
 詩織はぐっ、と両の拳でアピールしてみせた。
「どっからその自信が出て来んだか」
 浮かべられた無垢な笑顔を見ると、騙されていることにさえ気付かないまま事が進んで行くんだろう、と思うミシェルだった。だが、実際には、詩織の振る舞いは割と計算されているもので、本当に不利になるものならばしっかりと断れるような芯の強さを持っていることは、誰も知らない。悪い男も何も、詩織は薫のことしか考えていないわけで、その心配も無かった。
 詩織が持つ缶から一人ずつ割り箸を引き、箸の先の色を確認する。赤色か青色。それで組み分けが為される仕組みだった。
「僕は赤。他に赤なのは……ミシェルと、海奈だね。ってことは、残りが――」
「青だ」
 颯斗が答えたのと同時に、虎太郎と恵実が青く染まった箸の先を掲げて見せた。
「ちょうど良い感じに男女が分かれたな」
「それじゃ、相談ターイム! 何を作るかは自由だけど、自分たちで買える範囲でやらないとダメだよ!」
 そう言ってミシェルと海奈とで相談を始める蓮哉。一方の颯斗たちも相談を始めようとしたが、そこである誤算が発覚した。
「え? 私? 無理無理。料理なんてしたことないよ」
 女子なら誰でも料理が出来る、なんて謎の妄想を抱いていた二人は、その事実をあまりにもサラッと告げる恵実に、一瞬言葉を失った。
「こいつがでけへんのは分かるで? いかにも料理せえへん、って顔してるやんか。けど、おま……お前は出来そうやんか、それなりに女子力高そうやんか……」
「最近のJKは出来ない子多いよー?」
「嘘やろ……」
「そう言うおせんべちゃんはどーなの?」
「俺が出来そうに見えるんかいな」
「無理そう! 毎日カップ麺食べてそう!」
「さすがにそれは無いで……」
 そこまで話した時点で、虎太郎は背筋にゾクッとした悪寒が走るのを感じて振り返った。その先には、ジトーッと見つめる茜の目があった。おかげで、普段ならもっと戯けてみせる所を、そのまま萎れるだけに留まった。
「えー、これじゃあ勝ち目なんて無いじゃん! ねえ、ゆー君! こっち誰も料理出来ないんだけど!」
 恵実がそう言ったのに対して、蓮哉は意味が分からない、と言った表情をした。
「うん? そんな不公平になりそうだったら、組み分けが終わった時点で僕がやり直しをさせたはずだよ?」
「えっ?」
「さては颯斗、隠してるんだね?」
「へっ? どういうこと?」
 何も言わないままの颯斗を見て、蓮哉が代わりに説明する。
「颯斗はね、割と料理が出来るんだよ」
「えーーーっ!?」
「なんやて!?」
 ひた隠しにしたかった秘密を明るみに出された、そんな気分の颯斗は、長いため息をついた。間違いなく、自分に面倒な役回りが回ってくるのが目に見えていたから。
 それにしても、その情報を蓮哉は何処から仕入れて来たのだろうか。考えたところで闇に足を踏み入れるだけのような気がして、颯斗は考えるのをやめた。
もうすぐ2016年も終わりですね。
年末に入って、余計に忙しい日々なので、とかもう言い訳だらけで大変です、わっほい。

最初は虎太郎を料理出来る役にしようと思ったんですが、颯斗に回した方が面白そう、ということで、執筆中に役割を変えてみました。上手い方向に傾いたら良いな。
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