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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第七十三話 蓮哉の毒

「気を付けて行って来るのよ」
 翌朝、寝ぼけ眼をこすりながら居間に入った颯斗に、母親がかけた第一声はそれだった。それだけで、蓮哉が話を通してあるのが確かなんだと思わされた。どういうルートかは分からないが、コネクションを持っているのは事実のようだ。朝食を食べる間も妹に「うーらーやーまーしーいー」なんて言われたりして、鷺沼家全体に今回の合宿が認知されているのが丸分かりだった。
 部屋に戻り、いざ担いだ鞄は、嫌々荷造りしたせいで歪に膨れ上がり、脇腹に当たる度に不快な感触を与えた。それでも整えようとはせず、どうせその内慣れると割り切るのが颯斗で、実際近くの公園でミシェル達を待つ頃には、少しも気にならなくなっていた。
 公園の入り口にある、ホチキスの芯みたいな車両進入防止用の柵に腰を下ろしていた颯斗は、時折うつらうつらと舟をこぎながら、体がグワンと揺れる度にハッとして、何とかバランスを保っていた。下手すると後ろに倒れて頭を打ち付けそうだが、その状態のプロだからか、ギリギリまで気が付かない、ということは無かった。
「お前……よくそんな所でうとうと出来んな」
 ミシェルが運転席の窓を開けて一言。その言葉に颯斗は気付かず、恵実が頬をぺちぺちとしたところで、ようやく我に返った。
「おはよー、颯斗」
 颯斗とは対照的で、恵実はぱっちり目を覚ましている。生活時間としては、とことん朝型で、颯斗が本腰を入れて作業を始める頃に、大体一日の予定がほぼ終わっている、という感じだ。二人のツイートが同じタイムラインにあることはほぼほぼ無く、良くも悪くも、そのことが恵実に麗音としろももとのただならぬ関係性を気付かずにいさせた。
「ああ……来たのか」
「行こっ」
 恵実に手を引かれ、颯斗はミシェルの運転する白塗りの外車に乗り込んだ。車内にはヘビメタが流れ、サングラスをかけたミシェルが運転席にいることで、恵実とのミスマッチさが際立っていた。
 車内にいたのは颯斗を除くとその二人だけで、自ずと後ろのごく普通の自家用車(虎太郎が運転する、という時点でどうやっても軽トラのイメージしか湧かなかったが、それは外れだったようだ)に、蓮哉と海奈が乗っているのは明白だった。
「お前……海奈と一緒じゃなくて良いのかよ」
「ハンちゃんが一人じゃ可哀想、って言うから、乗ってあげました!」
 こいつ、ピースが無駄に似合うな、と颯斗は何気無く思った。寝起きとほぼ変わらない頭は、無意識に恵実の方を見つめ続けるものだから、見られていることを意識した恵実は、段々気恥ずかしくなって目をそらした。
「ハ、ハンちゃん、そろそろ行こっ」
「だな」
 車が動き出してしばらくの間は、ヘビメタの音だけが聞こえたが、少しずつ目を覚まして行った颯斗は、その状態に少しずつ違和感を覚え始め、そのことについて口にした。
「なあ、ミシェル」
「ん? どうしたよ。なんでお前が蓮哉と一緒じゃねえのか、気になった、とかか?」
 あまりの鋭さに、口を噤む颯斗。その反応が返答となり、ミシェルはそのまま言葉を続ける。
「素直に喜んどきゃ良いんだよ。あいつと一緒じゃなくて気楽だ、ってな。いつも弄ってくる奴がいねえとそれはそれで寂しいとか、マゾみてえなこと思ってたら、それこそあいつの思うつぼだろ?」
 納得出来過ぎる言葉に、颯斗は強く頷く。この歌い手合宿では、その間中ずっと蓮哉に絡まれるだろうと覚悟していただけに、最初の時点で別の車に乗り合わせる、という拍子抜けの事態に戸惑いさえ覚えていたわけだが、ミシェルの言葉にその誤りを気付かされ、この快適な車内環境を謳歌すべく、適当な話題を探すことにした。
「そう言や、行き先、詳細までは聞いてなかったんだが」
 蓮哉の友人の持っている別荘、とまでは聞いていたが、それ以上は知らなかった。近くには別荘があるようなビーチは無いから、ある程度離れた距離に行くんだろうが、それがどこかは、さすがに見当もつかない。
「聞いて驚くなよ――」
 そう言ってミシェルが明かしたのは、颯斗にも分かる高級リゾート地の名前。
「ゆー君って凄いよね、そんなとこに別荘持ってる友達って、どんな人なんだろ?」
「友人の友人ならともかく、友人には怖くて欲しくねえよ」
 ミシェルの感覚に同意しながら、颯斗はますます恐ろしさを募らせた。蓮哉のポテンシャルは未知数極まりなく、最早自分では何一切抵抗出来ないのではないかと思うと、雲行きの怪しさに身震いせずにはいられなかった。
 何にせよ、そんな恐ろしい蓮哉と、僅かな時間でも離れていられる今が、ひょっとするとこのイベントで一番幸せな時間なのではないかと思い直し、何かに駆られるようにして、恵実やミシェルに話しかける颯斗だった。
お待たせして申し訳ありませんでした。
ツイッターの方では少し説明させていただいておりましたが、少々執筆するのに向くような精神状態ではなかったため、お休みを頂戴しておりました。

本日よりまた再開致しますので、どうぞ宜しくお願い致します。
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