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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第七十二話 サディスティック・プラン

「明日から? おい、どういうことだよ」
『どうもこうも無いさ。明日からなんだ』
「前日に連絡よこす奴がどこにいるよ」
『ココ! いぇい。あ、大丈夫、颯斗の親御さんには了承得てるから』
 そう言われたのは、颯斗がちょうど家の門扉を開けた時だった。
「待てよ、初耳だぞ。俺の親と繋がりあるとか、冗談だろ?」
 自分の親のことなど、ほとんど誰にも話したことが無い。敦にさえ、何らか話した記憶は出て来ない。にも関わらず、蓮哉が連絡を取れるなど、俄には信じがたかった。 
『いやいや、本当。夕飯の時にでも聞いてみなよ。ちゃんと話が通ってるから』
「お前がそこまで言うなら本当なんだろうな……ならそこは信じてやるけど、いったいどういう繋がりがあるんだよ」
『え、聞きたい? 聞いちゃう? 本当に?』
「やめておく」
 それ以上踏み入ってはならない感じがした。それにしても、さては見られてるんじゃないだろうな、と庭や家の中を一通り見て回ったが、さすがに『はは、その程度じゃ見つからないよ』といった言葉は来なかった。そこまでお見通しで、あえて何も言ってないのだとしたら、とも考えそうになったが、そこまで行くと疑心暗鬼でまともに生きて行けなくなりそうな気がして、考えるのをやめた。
『まあ、そういうわけだから、今日の間に支度は済ませておいてよ。二泊三日、楽しい楽しい歌い手合宿が待ってるよ』
「……合宿では疲れさせないでく――」
 最後まで言わせず、ブチッと切られる通話。
「あんの野郎……」
 とことん颯斗を苛立たせるための企みのようだ。ここまで颯斗を玩べるのは、この世に蓮哉ただ一人だろう。それでも颯斗が本気で腹を立てないのは、やはり歌唱の才能を評価しているからで、憧れとしている所に理由がある。自分でもどうかと思うが、それ程までに優れているのは、間違いないからタチが悪い。
 これで性格が真っ当なら、今あるファンが何倍に膨れ上がるのか……そう思いながら、天は二物を与えなかったんだな、と颯斗は一人納得した。
 制服のままベッドに倒れた彼は、大きくため息をついて、旅支度の面倒さに頭を抱えた。何処かに行くにしても、何かをするにしても、そのための準備、が最もかったるく、腰が上がらないのが、颯斗という人間のスタンスだ。

「ふぅ……さて、颯斗の方はこれで解決、っと」
 颯斗との通話を終え、今日も面白いほど上手く行った、と口角を吊り上げた蓮哉。首都の街並みを一望しながらそうする様子は、あたかも黒幕の様相を呈している。そんな黒幕は、続けてもう一人にコールした。颯斗を弄るのはいつも通りとして、今回の歌い手合宿には、もう一人、弄ってやりたい相手がいた。この通話はそのためのお膳立てだ。
「もしもし――」
 その呼びかけに対して、受話器から聞こえて来るのは、関西弁。
「うん、手はず通りに頼むよ。大丈夫、こっちは首尾良く進んでるから、安心して来て。いつまでもこのままじゃアレだろうし、この機会に、ね?」
 颯斗にしたのとはまるで違う、丁寧な話し方。蓮哉にもある程度気を遣わないといけない相手はいて、その理由は様々だが、この通話相手は、〝蓮哉でも勝てない押しの強さ〟を持っている。
「それじゃあ、明日」
 再び通話を切ると、今度は多少疲れの色が顔に出た。
「やれやれ……ほの字さんの圧力はやっぱりキツいな。でも、これで歌い手合宿は絶対面白くなるな」
 思わずニヤリと笑った蓮哉。人生をとことん楽しみ尽くす、というのが彼のモットーだ。このような高層マンションの最上階に、一人で暮らしている蓮哉は、何不自由ない人生を歩んで来た。望むものは全て与えられ、それでいて才能にも恵まれた。それ故、常に満たされているが、満たされているからこそ、満ち足りた感覚を得られないというパラドックスに苛まれる。だから、彼は何もかもをとにかく楽しんで楽しんで、楽しみ尽くす、という主義を掲げる。
 そんな具合に王子様のように育って来たから、彼のワガママは、周囲をとんでもなく振り回す。
「はぁ……楽しみだ」
 蓮哉が呟いたちょうどその頃、聞いたわけでも無いのに、颯斗たちは、背筋がゾクッとするのを感じた。
 大波乱のイベントが始まる、誰もが、そう予期していた。
「どんな顔してくれるかな――」
 嵐の前から、激しい風が吹き荒れていた。
いよいよですね!
歌い手合宿編!
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