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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第七十一話 いきなり蓮哉

「それじゃあ――良いか、お前ら、くれぐれもハメは外すんじゃないぞ。浮かれたい気持ちは分かる。正直、一度っ切りの高二の夏休みだ、謳歌して欲しい、って思いもある。が、良いか、他人に迷惑をかける楽しみ方はするなよ。他人ってのに俺も含まれるからな、余計なことして無駄足踏ませるんじゃないぞ。まあ、賢いうちの学生達だ。無いと思ってるし、はい、これで一学期終了ー」
 相原の怠そうな説明が終わった瞬間、ガタガタガタ、と席を立つ生徒たち。やれやれ、と見つめながら、自分にもそんな時期があったよなぁ、と振り返る彼の目は、最近年を感じる三十代のそれだった。
 そんな教師の黄昏などつゆ知らず、さっさと帰りたいと教室を後にした颯斗。
 しろももと初めて通話した日の二、三日後、薫から企画書が送られ、それを見せようと声をかけると、折角だからまた話したい、という流れになって、それから後はお互い打ち合わせの大義名分を後ろ盾に、いくらかの通話が為された。そんな日常の喜びが積み重なっていた所に、長い休暇の開始宣言。颯斗にとって、こんなにも幸せが続くのは人生で初めてのことかもしれなかった。
 そう、かもしれなかっただけで、実際は違うわけだが。
 学校を出てすぐ、颯斗は携帯のバイブがひたすら鳴り続いていることに気付いた。その執拗さから、誰が元凶かは即座に分かり、無視を続けていたが、とにかく続くから、仕方なく携帯のロック画面に目を通すと、〝蓮哉がスタンプを送信しました〟という通知が永遠と続いていた。スクロールしてもスクロールしても、どこまでも果てしなく続くスタンプ爆撃。送り主の名前を見てもまったく驚かず、ただひたすらに苛立ちが募った。一向に止む気配の無い爆撃を止めるため、颯斗はロックを解除してすぐ、蓮哉からの通知をOFFにした。
 途端に静かになった携帯。颯斗は満足して、携帯をポケットにしまおうとしたが、今度は直接電話がかかって来た。
 ため息を吐いて、着信をぶち切ると、ラインの方で電話をかけた。
『酷いなぁ』
「お前はもうちょっとまともな連絡の取り方を出来ないのか?」
『まともな連絡の取り方をして、じゃあちゃんと反応してくれる?』
「……」
『どうせならさ、こっちの方が、ちゃんと喋ってくれるじゃーん?』
「他人をイラッとさせない、って選択肢は取れないのか」
『いやー、だってさぁ、こうでもしないと、素の颯斗って出て来ないんだもん。普通に話し掛けたら、そっけない態度で終わり、それじゃつまんないよ』
 割と真っ当な理由に裏打ちされていて、思わず納得しかけた颯斗。が、最初からこんな態度だったから、対応を冷めたものにしたんだ、と思い直して、危うくそれは回避した。
「……で、今日は何の用だ」
『この前の歌い手合宿の話なんだけど』
「中止になったのか、それは有難い。じゃあな」
『あはは、そんなわけないじゃん。詳細が決まったから、それを伝えようと思ってね!』
 さらっと流してやろうとしたが、蓮哉の方が一枚上手。煽り返しが効かない所が、その鬱陶しさに拍車をかける。
『あれ? 舌打ちした? ねぇ、今舌打ちしたよね? クールでニヒルな颯斗君が、感情を露わにしたよね!』
「お前……なんでそれで友達多いんだよ」
 こんな性格なのに、蓮哉には公私共々とにかく友人の量が多い。プライベートで遊びに行ったり食事したりする写真がたくさん上げられるし、イベントなんかでも大量の知り合いが次々と一緒に写真に写ろうとやって来る。
『まさに僕の人徳だね!』
「閻魔大王の前で同じこと言わせたいな」
『言えるよ? 閻魔大王とだって友達だからね!』
「冗談に思えないところが恐ろしい」
『でしょ! いぇい!』
「分かったから、さっさと用件を話してくれ……疲れて来た」
『OK! 待ってました!』
 で、ここまでが蓮哉の作戦だ。散々煽りに煽って、早くまともな話だけ聞いて終わりたい、と思わせる。とことん蓮哉の手のひらの上なわけだが、抵抗しても結局は丸め込まれるだけで、その魔の手から逃れるには、どこか山奥の秘境で修行でもしないと無理そうだと、してやられる度に思う颯斗だった(もちろんそんなところに行ってまで頑張ろうとは思わない颯斗だし、きっといつまでも勝てない)。
『行き先はね、僕の友達が持ってる別荘を借りたよ』
 とにかく幅広く交友があるのが分かった。何なら、地球の裏側にだって知り合いがいて、そこで何カ月か暮らすことだって出来そうな感じがする。それに付き合わされそうな気がして、思わず身震いしたが……。
『車は虎太郎とミシェルが一台ずつ出してくれるから、それで行く感じ』
 二人の車、を思い浮かべてしまった颯斗。ミシェルはかっこいい外車で来そうで、虎太郎はどれだけ思考を巡らせても、軽トラ以外で来るイメージが湧かなかった。
『で、日程は明日からね』
「は?」
 とりあえず、一回マジで殴りたい。
 通話相手が目の前にいたら良いのに。しろもも以外にも、そう思うことはあるらしい、と分かった颯斗だった。
タイトル、虎太郎は軽トラ、の方が良かったですかね!
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