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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第七十話 その感情は、青

『し、してみようかな……』
 遠慮気味に話すのが可愛らしくて、颯斗は思わず微笑んだ。
「そうそう。同い年なんだから、こんな風に話してる方が自然だよ。俺は、丁寧に話してると疲れるし」
『麗音さんが疲れるなら……あたしも頑張った方が良いのかな……?』
「タメ口の方が疲れるって言うなら、別に無理してまでしなくても良いけど、そこの所は、うん、適当に」
 一度砕いてしまうと、もう颯斗は丁寧に話すつもりはまるでなくなっていた。ただ、友達やクラスメイトに出すようなあの話し方ではないし、何だかんだで、(あまりにも珍しいことだけれど)気を遣って話しているのは事実だ。
『同い年なんだし、もし学校が同じだったりしたら、きっとこんな風に喋ってる、のかな?』
 一方の夕葉は、まだ抵抗があるのか、言葉の最後をぼやかしてしまいがちだ。それでも、全体的には、かなり砕けた物言いになり始めていた。
 言葉の姿が、二人の間の距離を示すとしたら、ここに来て、ますます縮まったことは、誰の目にも明らかだった。
「同じ学校とか、面白そう」
『でも逆に緊張しちゃって、話せないかも……』
「あー、確かに。通話するまででもこんな感じだから……」
 この時初めて、颯斗は声を出して笑った。その声が耳元で聞こえると、夕葉は耳を赤らめた。夕葉には何だか凄く可愛らしく思えて、釣られて笑った。そうすると、今度は逆に颯斗がその声にドキッとして、お互い、顔が見えてなくて良かったな、なんて安心した。
 そこから先は、特に話題なんて用意していなかったものの、二人とも切りたいなんて思いがとても湧かず、空白の時間を挟みながら、当たり障りの無い話を積み重ねた。どれくらい話しているんだろう、と夕葉が通話時間を確認すると、2時間を越えていた。
『気付いたらこんなに話してるけど……麗音さん、時間、大丈夫?』
 それくらい話していると、もうすっかり自然と会話することが出来るようになって、会話のリズムもテンポ良く進むようになっていた。
「別に、今日は予定とか入ってないし。しろももさんこそ、良いの?」
『あたしも特には……』
「しろももさんと話してると、時間が経つのあっという間だ。すっごく楽しくて、時の流れを忘れる感じ」
『本当に。麗音さんって、いつもこんな感じで通話するの?』
「言うほど通話とかしないかな。あるとしても時々?」
『そうなんだ……』
 そう聞いて、自然に笑みを浮かべる夕葉。自分との関係を特別に感じたい、そんな気持ちが随所に姿を見せる。颯斗との通話が、自分が思っているのと同じように、愛おしく受け止められていたら良いのに、そう信じて止まなかった。
「しろももさんは?」
『友達とは結構……。あ、NaNaNaNaとかとよくするかな。麗音さん、会ったんだよね』
「ああ、あの子と……」
 名前を聞いて、猛烈にアピールして来た彼女の姿がありありと浮かんだ颯斗。
『あたしも会いたかったなぁ……』
「その内――」
『うん? 何か言った? ちょっと聞き取りづらかって』
「ああ、いや、何も」
 言いかけて、やめた。ここまで距離を縮めていても、まだ、会ってみたい、という意思表示までは、する勇気が出なかった。
 会う、というハードルは、高過ぎるものがあった。しょこらと違って、何をしている人かもよくよく知っているし、きっと、しろももとの関係は、しょこらとの関係より、ずっとしっかりしている。それでも、顔を突き合わせるのには、多大な勇気が必要だと思えた。
 現実でまともな恋愛をしたことの無い颯斗にとって、そこで時間を紡ぐ行為は、残念ながら上手く想像出来なかった。友達として、何気無い時間を過ごすと言うのなら、簡単に出来る。だが、〝それ〟を意識して同じ空間にいようとするのは、難しいことに思えた。
「いつか――いつか、会えたら良いな」
 だから、ロマンチシズムに訴えかけることで、それ以上の現実への目線をそらした。
『うん』
 燃え上がって、燃え尽きる恋より、その方が堅実で、長続きはするのかもしれない。けれど、焦らし過ぎて上手く行かないこともあるだろうし、人間の感情なんて、どう変わるか分からない。この先、相手の目の前にもっと魅力的な人が現れて、それまで感じていたような想いは、何てことのない、単なる気の迷いだと割り切ってしまえることだって、多分に有り得る。恋の花を咲かせるのに、何が正しい手法なのかは、容易に結論付けることは出来ない。
『また、通話しても……?』
 今日はもう、この辺りで留めた方が良い。お互い、何かがそう囁いていた。ちょうど良い距離感、それを保つために、ここが瀬戸際、そんな風に。
「うん、いつでも」
『麗音さんからも、好きな時に言ってもらって良いからね』
「分かった」
 終わることに寂しさを覚えながらも、終わらせないといけないような気がして、複雑なその気持ちは、行き場を求めて、結果的に二人の声に表れた。
『それじゃあ――』
「ああ、また」
 どちらが通話を切ったのかは、分からなかった。お互い、赤いボタンを押したくなくて、でも、押さないといけないと感じて、震える指先で触れた。二人が触れたのはほとんど同タイミングで、通話が切れる音がして、渦巻いた感情の奔流がため息に出たのも、同じ瞬間だった。
 二人の感情が共鳴していると、分からないから。
 自分だけそうなんじゃないかと、彼らは思い悩む。
 それは、後から思えば何てことはない淡い色だけれど、そのただ中にいる者達にとっては、とても濃く感じられる、青い色をしていた。
投稿がいつもより20分ほど遅れました。
話が進めば進むほど、考えて書かなきゃいけないことが多くなっている(年を取ったのもあるんですかね、最初の頃と比べると)ので、もう少し早めに書き出さないとダメだなって感じました。

突っ込めば良いのに、突っ込まない、それが、藤夜の恋愛のカラーなんですかね。自分でもじれったく思うけど、自分の知る恋愛って、そういうのなんです。

これも、後から見れば、青いなぁって、思うんですかね。
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