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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第七話 レクリエーションズ・アクシデント

 四月も終わりに近付くと、颯斗が通う高校では恒例の遠足の時期になる。クラス内で親睦を深めることを目的に、近場にバーベキューをしに行く小旅行だ。
 仲の良いもの同士が組むと色々と不都合がありそうだ、と教師が気を利かせてわざわざくじ引きで班のメンバーを決めるのだが、必ずしもそれが好ましい結果をもたらすとは限らない。むしろ、仲の悪い者同士が組む可能性も考慮に入れるなら、教師が実情を把握して勝手に決めた方がマシだろう。
 見せかけの公平性とやらにやられるから、颯斗と夕葉が同じ班になったりする。
「ゆ、夕葉。そろそろ機嫌治して話し合いしようよ」
「ふんっ! もう、最悪っ、よりにもよってあいつと一緒なんて!」
 颯斗と夕葉、美陽、それに颯斗の友人の(あつし)、そして四人とはあまり面識の無い春文(はるふみ)という男子が机を合わせていた。
 班内で話し合って決めることが求められたのは、主に何を食べるのか、ということだ。他の班は比較的まともなメンバー構成になったのか、もう随分と話が盛り上がっていた。肉屋のチラシを回しながら、これが良いとか食べたいとかはしゃいでいる。だが、この班だけは会話一つ始まらない。原因はもちろん、颯斗と夕葉が生み出す負のオーラだ。
 業を煮やした春文が口を開く。
「良い加減にしてくれないか、二人とも。二人がこのクラスでも群を抜いて仲が悪いのは誰もが知ってることだし、俺は何もお前らが仲良くなることなんて期待していない。だがな、俺に迷惑をかけるのはやめてもらおうか」
「ほ、ほら、颯斗、彼だってそう言ってるし、そろそろ、な、話し合いに混ざろうぜ」
 ここぞとばかりに敦が場の空気を和ませようと働きかける。
「いや、別に俺は話し合いをしたくないとは思ってないからな。誤解しないでくれ。場の空気を悪くしてるのはあいつただ一人だ」
「そういう態度のことを言ってるの……! もうやだ、一年に一度の遠足をなんであんたなんかとっ……!」
「何もお前らのことを考える必要なんてどこにも無いんだからな。このままその調子を続けるなら、当日、お前らの肉はナシだ。良いな、次、一度でもケンカしてみろ。お前らの分は抜いて注文書書いてやる」
 流石にその言葉は効いたのか、二人は顔を背けつつも押し黙った。
「で、だ。さっさと決めるぞ。何が食いたいか、適当に言ってみろ」
 春文という男子は、なかなかにまとめ役として上手く機能しそうだ。チラシを回しても時間が無駄に過ぎて行くだけだと踏んでか、即座に答えを求めた。
 その様子を見て、敦と美陽は顔を見合わせて、ほっと安堵した表情を交わした。
「そうだね……。オレは牛タンが食いたいね。颯斗はアレだろ、豚トロ」
「あ、ああ」
「私はハーブチキンかな。夕葉は?」
「あたしは……普通のチキンで」
「よし、分かった。後はあれだ、お前ら、食えないものとかあるか?」
 敦だけが「いや、無いよ」と答えて、後の全員は首を横に振った。
「なら妥当なもんを勝手に俺が決めとく。上カルビとか入れときゃ良いだろ」
 こういったことにはよく慣れているのか、春文はチラシの裏側に人数から算出しての注文量の計算を始めた。
「助かるね。君がいてくれなかったら、多分、話し合いのはの字も始まってなかっただろうから」
 明後日の方向を向く二人を横目に、敦が春文に話しかける。二人が会話を交えるのはこれが最初だ。
「まあな。けど、お前もちゃんと仕事してただろ。あいつの食いたいもんすぐ口にしてよ」
「去年も一緒だったからね。豚トロ食ってる時が一番幸せそうな顔してたの印象的だったからさ」
「なら、当日の面倒は任せる。どうせ、丸投げしたら火おこし一つで揉めるだろうからな……」
「はは……それは、その通りだと思うよ」
「ったく、本当によく当たるもんだな……」
 最後の一言はぼそっと呟かれただけで、誰の耳にも入らなかった。
「あ、そうだ。お皿とかタレとかは、誰が持って来るの? 飲み物とかお菓子とかも、持って行くよね」
 美陽の質問に、夕葉がぴくりと反応を見せる。一方で相変わらず颯斗は無関心な感じを漂わせている。
「そうだな……。お菓子は女子二人に任せる。そうだ、マシュマロを絶対に忘れるなよ。定番だからな。で、皿とか箸とかか。それは俺が用意するとして、おい、鷺沼。お前が飲み物を買って来てくれ」
「別に良いが……うちにはクーラーボックスは無い」
「あ、それなら心配無いぜ。俺が持って来るから」
 敦がグッと親指を立てる。
「じゃあ、葛西はクーラーボックスを頼んだ。俺は軍手だのトングだのうちわだの持って来る。……さて、と。まあこんなものか」
 案外に手際良く終わったのか、はたまた話が弾まず一方的な指示が飛んだためか、まあおそらく後者だろうが、彼らの班が一番早く話し合いを終えたようだった。
 春文は他の班の様子を少し羨ましげに一瞥してから、注文書に数量を書き込む作業に移った。
 どう考えても当日苦労するのは避けられないだろうな、と考えながら……。
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