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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第六十七話 繋がりとバランス

 誰かと話している。
 ぼんやりとした、けれどあたたかな感覚。
 心が癒される……そう思って、目を覚ました。
 誰の夢を見ていたんだろう、考えつつも、答えには気付いている。
 そう言えば、昨日の授業で、昔の日本では、夢に想い人が出る時、それは自分が想っているからではなく、相手が想っているからとか、言っていたような……。
 寝ぼけまなこをこすりながら、でも授業中、俺、寝ぼけてたから合ってんのかわかんないよな、と独り言つ颯斗。
 そうだったら良いのに、とか思って、寂しげな笑い。
 もう忘れてしまったと思っていたのに。そんな辛い過去が、幸せの片鱗に触れる度、顔を出す。幸せの先、待ち受けていた不幸せ。恋多き人生でもないのに、たった一度の痛みが、かき消せない。思い切った一歩を踏み出させない。
 今のままで良い。そんな気持ちが、大きな顔で居座る。
 もう一度寝よう。土曜の心は、思考をやめさせた。

 彼が眠りについた頃、夕葉は目を覚ました。
 むくり、と起き上がった夕葉は、階下に水を飲みに行った。やはり、今日も両親の姿は無い。
 独り。寂しさは、もう無い。
 喉を潤すと、また部屋に戻る。
 何のやる気も出ない。このまま二度寝しようかと思ったものの、前日早めに寝たせいか、もう眠気はほとんど無かった。
 何となく携帯でも見ようかと、夕葉は充電していた携帯を取りに行った。二日前、充電して、翌朝家に忘れて、学校から帰って確認しようとしたら、コードタップのスイッチを入れ忘れていて、丸一日強触っていなかった。それでも夕葉はあまり不都合を感じなかったけれど。
 だが、溜まっていた通知をスクロールする中で、酷く後悔した。
 ラインでもスカイプでも、返信に焦るタイプではないけれど、一人だけ、絡むと冷静さを失ってしまう人からの通知。
 どうしよう、なんて、朝一ドキドキする心臓。
 早速返信をしようとスカイプを起動する。だが、いざ文字を入力しようとして躓く。一日以上時間を空けて、悪びれず返事をするのは間抜けに思える。かと言って、今、良いか、と尋ねられているのに今さら答えるのも、遅すぎるような気がした。
 ああ、と、胃が痛むのを感じながら、罪悪感に苛まれながら、夕葉は言葉を綴る。
〝お返事が遅くなってごめんなさい……。充電を切らしてて、したと思ってたら出来てなくて、見れてませんでした……。その、今、お返事しても、遅いでしょうか〟
 顔文字を使えるような余裕は無かった。まるで、大事な連絡を見逃していたような切迫感。たかが〝知り合い〟からの言葉が、夕葉の中では大きすぎた。
 リアルタイムで返信していないのに、リアルタイムでの返信を求めてしまうワガママな心。
 独りよがりだと分かっていても、願う気持ちを抑えられない。
 もちろん、颯斗は眠っているわけで、返事なんてよこす訳がない。でも、夕葉にはそんなことは分からない。正体が分かっていれば(正直状況は一変するが)、すぐに返事が来ることを期待する空しさに気付くはずだが、完璧で理想的な人が麗音の正体だと思っているわけだから、ひょっとするとすぐ飛んでくるかもしれない、とか考えてしまう。
 気を悪くさせてしまったんだろうか、なんて一人で勝手にひっ迫しながら、不安に駆られた夕葉はイヤホンを繋いで、麗音の声を聞くことにした。願わくば、この声を通話で聞いてみたいとも、ここ最近は思ってしまう所があった。スカイプでやり取りが出来るようになった以上、ひょっとすると、とか、願望はエスカレートするばかり。
 朝の夕葉に、麗音の声が沁みる。
 無防備な心に、染み込んでいく。
 私のためだけに、何かして欲しい。そう思えるのは、間違いなく、彼が、誰かのものになってしまえる、現実に生きる人間だから。誰かのものになるのなら、私のものになったって良いはず。深層にあるのは、そんな心理。
 麗音が歌う〝君〟の内実が、私になったら良いのに。
 それが、絶対に叶わないようなことではないように思えるのが、いじらしい気持ちにさせる要因だった。
 歌声に心をとろかされ、夢見心地に麗音を想う。彼の存在は、良く言えば彼女を支えているが、悪く言えば彼女を蝕んでもいる。
 けれど、夕葉はネット越しの恋愛なんてしたことが無かったし、自身の気持ちを誰にも打ち明けることが無いために、第三者からの苦言が呈されることも無かった。その恋がとてつもなく脆いバランスの上に成り立っていることを、彼女はまるで自覚していない。だが、だからこそ、二人にとっては、それが絶妙に働いていた。きっと、お互いがどこかで冷静に立ち返ってしまったとすれば、そこで終わってしまっただろう。そうならないのは、夕葉が一途に想っているからで、それが全面的にではないにせよ、彼にも伝わっているからなんだろう。
 もし、麗音が過去に打ち勝ち、後一歩を踏み出すことが出来たなら、その時は――
 想い合う二人が、共に手を取り合って、幸せに向かって歩み始める瞬間となるのだろう。
「麗音さん……」
 今はもう、気持ちは落ち着いていた。
 返信が来るかもしれないし、来ないかもしれないけれど、夕葉には関係無かった。
 ただ、麗音との繋がりを確かに感じさせる画面を、じっと見つめながら、留まるところを知らない愛しさの高まりに、彼女は包まれて行った。
お待たせしてすみませんでした。
ここ二、三日は日常が慌ただしく、まとまった執筆の時間が取れていなかったりして、という言い訳はまあつまらないだろうと思うので割愛するとして。

盲目の恋、の方が好きです。
失敗したら、後悔はキツいですが、陶酔している方が、幸せの色は、鮮やかな気がします。
皆さんは、どんな恋の色が好きですか。
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