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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第六十六話 笑顔

「で、歌ったけど。誰が一番良かったんだよ」
 いつもの颯斗らしい、うざったそうな言い方。それが本心からの言葉ではないことは、この場にいるメンバーはもう誰もが分かっていた。
「折角だから、三人は伏せてよ。匿名で票入れんの。別にみんなの中でいがみ合いとかしないだろうけど、普通にやるより、面白いじゃん?」
「せやな! それで頼むわ!」
 湊の提案は、主に虎太郎がぶーぶー言いそうな気がしてのものだったが、当の本人がそんな背景にはまるで想像力を働かせず、あっさり承認したせいで、クスッと笑ってしまった。その仕草がまた、可愛らしいなぁ、この子、と思わせるため、虎太郎のアホな部分はいつまで経っても直らない。
「はい、じゃあ三人とも伏せてー」
 言われた通り、颯斗たちは机に顔を伏せた。ミシェルにとっては、これが懐かしくて仕方なかった。
「まず、ミシェルの歌が一番良かったと思う人ー」
 湊は、携帯のメモ帳に手が上がった人数を記録した。
「ん、次、虎太郎の歌が一番だったと思う人ー」
 同様に上がった手の本数を数える。虎太郎が両手を上げていたが、もちろん湊は一本だけカウントした。
「最後、颯斗のが一番の人ー」
 自分だけなんでそこまで簡略化した表現にされるんだよ、と思ったが、この場の雰囲気的に颯斗は黙り通した。湊は左手を上げながら、右手で入力を済ませた。颯斗のことが好きだ、という贔屓目も無くは無かったが、颯斗の歌い方が一番しっくり来た、そんなちゃんとした理由があった。ミシェルの歌には圧倒されるような魅力があったし、虎太郎の歌には一緒になって盛り上がれる楽しさがあったが、颯斗の歌には、彼女が抱えているような、十代の等身大の想いがあった。
「なるほど……こうなるんだ。あ、もう顔上げて良いよ」
 虎太郎とミシェルはサッと顔を上げたが、颯斗は怠そうだった。
「それじゃ結果発表。一番はミシェル」
「まあ、当然だな。お前らに負けるつもりはねえよ」
「無効票やー! 不正票やー!」
「みっともねえよ? 見ろよ、颯斗は素直に受け止めてんじゃねえか」
 素直に興味が無かった、の間違いだが、内心、負けたことには悔しさを覚えた。だが、ミシェルが勝ったのは、颯斗が自分には入れまいとしたからだし、彼はミシェルと違って、自分の歌唱力を相対的に評価はせず、他の誰かに票を入れる道を選んでいたからだ。
「で、二位は同着? 同着で良いのかな、まあ、うん、颯斗と虎太郎ね」
「はぁー!? 俺の方が絶対颯斗より上やろ!」
「その何にでもいちゃもんつけたがる性根、どうにかなんねえのか」
「正当な評価を頼んどるだけやで!」
「良いじゃねえか、お前なんかにでも入れてくれる奴がいたんだぜ?」
「なんちゅう言い方すんねん!」
「まあまあ、みんな100%で入れてないって。票をパーセンテージで入れたりしたら、また結果変わったかもよ?」
「おいおい……女子高生にフォローされてんなよ、虎太郎」
「美園ちゃん、優しいなぁ……」
「やめとけよ、変な気持たれんぞ?」
「あはは、大丈夫だよ、ボク、カレシいるからね」
「ほな期待させるよーな振る舞いしたらあかんよおおお」
「おい、もうしゃべんな、キモいのが移る」
「そこは助けろやミシェルぅ!」
 騒がしいやり取りを、颯斗は少し距離を取って見ていた。そこに、また湊が話し掛けて来る。
「本当に二人と仲良いんだね」
「どこを見たらそうなるよ」
「顔を見たら分かる。教室にいる時の鷺沼は、こんな顔してない。仲良い友達に向ける目、してるよ、今は」
 湊は颯斗をよく見ていた。好きだから、ちょっとでもチャンスがあれば、手にしたいと願うから。それが、ほとんど気付かれない彼の素顔を見つけさせる。
「そんな顔してない」
「じゃあ、そういうことにしとく」
 颯斗を見つめる瞳は、とても優しくて、何だかそれだけで、今日のあれこれは許してやっても良いかも、なんて颯斗は思った。
 それからは、時間の許す限り歌い尽くした。退出する頃には全員の声はガラガラになっていて、その声に笑い合った。
「いきなりで悪かったな」
 カラオケ店を出て、一言、虎太郎に聞こえないようにして、ミシェルは湊に謝った。それを聞いて、湊は彼のことを少し誤解していたと思った。多くの人が想像するような派手な遊び人なんかではなく、根底にしっかりしたものを持った人なのだと気付いた。
「いやー、全然。鷺沼があれだけちゃんと歌ってくれたのは、二人が来てくれたからだと思うし」
「お前にとっちゃ、それが好都合なんだろうな」
「女心、よく分かってる感じ?」
「さあな。まあ、あいつは、自分が思ってるよりずっと求められてる。今はまだ、何とかなってるが、この先もずっと、なんてことはねえよ。後悔するより先に動けよ。ちゃんと、叶える気があんならな」
「鋭すぎる、あー、やりにくい相手だ」
「まあ、大方お前も俺も似たようなもんだろ」
「さあね、どうかなぁ」
「意趣返しのつもりか。ったく」
「甘く見られちゃ困るから、ね」
 やれやれ、とこぼすミシェル。その口元は笑っていたかもしれないし、笑っていなかったかもしれない。
「じゃあ、これで解散かな」
「颯斗、二回戦行くで!」
「行くかよ。帰る、俺は」
「ミシェルも引き止めてぇな!」
「だったら飯の約束無しで良いか?」
「ああもう! 今度またリベンジマッチやるしな! 覚悟せえよ!」
「虎太郎、お前、噛ませ犬になってんぞ」
 二人の会話を見て笑う美園たち。
「ボクらは帰ろっか」
「うん。ま、またね! こ、虎太郎さん!」
 茉莉亜だけは虎太郎の雰囲気(と言うかおせんべの雰囲気と言うか)を随分気に入ったようだ。手を振り返す虎太郎は、随分にへにへとしていた。
 それを見て、ボソリと呟いたミシェル。
「そんな態度でいられんのも、後少しなんだけどな」
 意味深な言葉の裏に何があるのか、彼の表情は何も語らない。
「ハヤトンバイバイー!」
 ゆかりはすっかり颯斗のことを気に入ったのか、美園や茉莉亜の目も憚らず、大きな声で手を振る。ぎこちない感じで手を振り返した颯斗を見て、湊は思わず笑った。
「いつかツインボーカルやらせてみたいな」
「マジかよ……」
「もちろん、参加してくれるよな?」
「どうせ拒否権無いんだろ?」
「さっすがー! アタシのことよく分かってんじゃん」
 はは……と枯れた笑い声。
 それでも、今日という日を、楽しかった、と締めくくれるのは、同じ目線の仲間たちと過ごせたからだろう。それも、一番好きな、歌を通して。
「また――」
 颯斗は、笑った。
 今度は、心から。
「一緒に来てみても、良いかもな」
 その笑顔を、湊は、一生忘れることが無かった。
今回はいつもより30%増量です。
理由は、虎太郎がよく喋るから、です。
いや本当に。

虎太郎が出ると話がジェットコースターみたいに動くので、本当に助かります。それでもって色んな展開が進むので、彼無しでは今作は有り得ないですね。お話も明るくなるし。

そんなこんなで、カラオケ編、これにて終了です!

[追記]
キーワードに設定していますが、第五回ネット小説大賞に今作も応募することにしました。それによって今作の執筆方針に何らか転換が生じることは一切ありませんので、今まで通り楽しんでいただければ幸いです。
また、それに伴って特段何かする(宣伝や企画)といったようなこともございません。
今後も歌絵師は歌絵師、ということで、もどかしい感じのストーリー展開を引き続き追いかけてやって下さいませ。
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