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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第六十四話 生きること、歌うこと

 ミシェルが歌ったのはアメリカのロックバンドの曲だった。茉莉亜以外の誰もが、名前さえ知らないバンドだった(洋楽や洋画に明るい人であれば知っているようなものだったが)が、ミシェルの歌声は、そんなことは意に介させなかった。卓越した歌唱力、聞く者の心を惹きつけて離さない魅力、歌うことと生きることとを道議に考えられる心、それらが、その場を制圧した。
 そう、制圧、という言い方が相応しい。圧倒的な魅力によって、完膚なきまでに心を奪う。その意味では、聞く者の心に寄り添う麗音とは、また違う形の歌声だった。
 見据えるのは、遠く、遠く、命の果て。
 それは、ミシェルの人生観にも通ずるものがあった。
 他の追随を許さない、際立った容姿、それが彼の人生にもたらしたのは、想いの雨霰。
 全ての人間は、始まりの時は、恋を知らない。どんな人も、ゼロからの始まり。
 ミシェルも、恋に理想を持ち、夢を抱き、物語を信じていた。
 だが、彼の容貌は、主張が過ぎた。彼に歩み寄って来た者の内、彼の幸せを願った者の数は、数えるに値しない。
 誰もが、自らの幸せを願う者ばかり。
 恋は、心をすり減らして、その灯火を燃やし続けるものだから。
 ミシェルが進んだのは、同じ道を歩む者のほとんどが陥る、暗く美しい夜道だった。
 歌いながら、彼は嘆く。訴える。
 それは、聞く者を圧倒する。彼の嘆き、悲しみ、怒り、そして、日常では決して見せることの無い、憎しみ。
 いつ、死ぬとしても構わない。そんな諦めと、それでも死ぬことの出来ない日々に対しての、僅かばかりの希望が、ミシェルという大人の、心を形作っていた。
 彼が歌い終えると、一瞬、部屋の中の刻が止まった。
 呼吸さえ、忘れてしまうほど。
 少しして、思い切り息を吸い込んで、刻は動き出した。
「す、凄いね……え、ミシェルさんって、凄い人だったり……しないよね? こんなに上手い歌、ほとんど聞いたこと無いよ」
 美園のコメントが、その場にいた全員の感想を代弁した。
「このくらい、ザラにいる。別に、大したねえよ」
 心の底からそう思っている、そんな表情だった。
 ミシェルは、歌うことは好きだけれど、それがどう評価されることにも、さほど興味が無かった。歌いたいから、歌う、それ以上でも、それ以下でも無く。仮に、歌い手として評価を受けていなかったとして、彼は同じように歌っていただろう。その命が、尽きるその日まで。
「も、もしかして、虎太郎さんもそうだったりして?」
「めっちゃハードル上がったやん、どないしてくれんの」
「テキトーに歌って戯けたら良いんじゃねえの」
 そうは言いながらも、そんな気なんてねえくせに、とミシェルは心の中で呟いた。
「ミシェルに勝とう思たら……好きなん歌ってたら無理やろし、持ち歌歌うしかないやろなぁ」
「お前がいつ趣向の違う奴歌ったよ」
「んー、そうやなぁ……よし、これにしよ」
 虎太郎が入力を済ませると、今度はボカロ曲に馴染みの無い湊以外には、ピンと来るイントロが流れ始めた。
「お前の十八番じゃねえかよ……」
(正体隠す気ゼロかよ)
(バレたらどうなるとか、考えないんだな……)
 ミシェルと颯斗は、目線を合わせて、同時にため息をついた。まさか、バラエティ番組であるような、有名人が突然乱入して、的な企画みたいな事態が現実で起こるとは誰も想像していないだろうし、そこから詮索されるようなことは無いだろうが、よりにもよっておせんべの【歌ってみた】で一番再生数の多い曲を歌ってみるとか、中々どうして挑戦的だと思えた。まあ、虎太郎の場合、大方女子高生の前だからかっこつけたいとか、ミシェルに負けたくないとかが動機として強すぎるあまり、ほかのことが見えていないだけなのだが。
「よっしゃ、歌うで!」
 ただ、そのノリに、女子高生たちは割と乗り気で(そう言えば、歌い手の中だとおせんべが好きだと言っていたなと、人見知りはどこに行ったのかと思わせるほどノリノリになっている茉莉亜を見て、颯斗は思った)、場の空気を自分色に染める虎太郎のパフォーマンスには、さすがの二人も感心せずにはいられなかった。
 一緒に盛り上がる、そういう雰囲気を自然と醸し出すのが、歌い手、おせんべの特色だった。まさしくムードメーカーで(ミシェル曰くバカ担当だが)、それはたとえディスプレイ越しであっても、体が勝手に動く、あるいは、自然と心が口ずさむ、そんな空間を創り上げて行く点で、おせんべは他の歌い手とは一線を画している。
 合いの手への参加意欲を見ても、湊たちと颯斗たちでは、温度差が歴然だった。こういう場面で、どうしてこう女子の方が盛り上がれるというか、はっちゃけられるというか、メンタルの強さを持っているのか、二人は心底分からなかった。その強さが、色々な場面で男子の先を行かせる秘訣なんだろうとは、分かっていたけれど。
 そんな女子陣の盛り上がり具合に気を良くして、虎太郎は続けて二曲目へと、歌い進めるのだった。
虎太郎は本当に書いていて楽しいキャラです。活力をもらえる、そんな感じがします。多くのキャラは、時折心苦しくなることもあるのですが、彼は違いますね、こっちが力をもらえるくらいです。

フィクションなので、こんなテキトーな展開を思い付いたように書けてしまうのですが、現実世界でも、割と普通に知り合いに超有名声優がいる、とか、大物俳優と知り合い、とかあるらしくて、事実は小説よりもなんとやら、です。

まあ、藤夜にはそんな知り合いは、多分、いないはずです。知らないだけかもしれませんけど。
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