挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

60/247

第六十話 二つの電話

『悪いね、こんな時間に』
 午後十一時。まだ早いのに、なんて、颯斗は思った。大体、これくらいの時間はベッドに寝転がって音楽を聴くのが、颯斗の過ごし方だった。実際に眠りにつくのは、後二、三時間は後のことだ。
「この時間は基本起きてる」
『そっかそっか。例の曲、歌詞が出来上がったからね、一応知らせておこうと思って』
「なんでわざわざ電話で?」
『ああ、何て言うか、こういう制作に関わる話は、僕はいつも通話しながらしてるから、その癖で』
「ふーん。なら、俺への打ち合わせもそうしてくれて良い」
『ありがとう。そう言えば、しろももさんの件、どうなったかな』
「ああ、言い忘れてたな。受け容れてくれることになったよ」
『良かった。さすが〝麗音〟君だね。よっぽど仲が良いんだ』
「そういうもんかな」
『そうじゃないと、あのレベルの絵師さんがそうおいそれと受け容れてくれるとは思えないよ』
 二人の仲を誰かに認めてもらえることほど、恋する人を喜ばせるものは無い。
『一両日中に、具体的な説明を書いた企画書を仕上げるから、それをしろももさんに送ってもらえるかな?』
「分かった。一応、そういう展開になるってことは、今伝えておく」
『話が早くて助かるよ。時たま、意思疎通が難しい感じの人と一緒に制作することがあるけど、あれは……』
「ああ、面倒くさいよな」
『まあ、颯斗君とは現実で普通にやり取り出来るし、そういう心配は何も無いんだけどね』
「だな」
『うん。それじゃあ、今日はこの辺りで』
「ああ、おやすみ」
 通話が終わると、颯斗はすぐにスカイプを開いた。連絡先の一覧から、〝しろもも〟を探した。それなりにいる人数の中から、彼女だけを探す作業。並ぶ他の名前が、文字の羅列にしか見えない。その四文字だけが、見つけられたら良い。
 ピタリ、と止まる手。もう、名前を見るだけで心が踊る。
 タップする指に、愛しさがこもる。
〝今、良いですか?〟
 伝えるだけなら、メッセージを送信しておけば良いけれど。リアルタイムでやり取りがしたかった。そんなわがままを通したいくらいには、恋い焦がれていた。
 けれど、返信は無い。既読機能の無いスカイプでは、見ているのか見ていないのかもよく分からない。
「〝こんな時間〟なら、寝てたりすんのかな」
 ぼそっとこぼした言葉。少し残念だったけれど、もし、そうだとしたら、可愛げがあると思った。そんな想像が、またしろももの姿を、夕葉からかけ離れたものにしてしまう。絵柄は大人っぽいけれど、きっと見た目はまだまだ子どもっぽくて、身長も低い可愛らしい感じなんだろう、なんて。
このまま待っていても仕方ないだろうと思って、颯斗は風呂に入ることにした。
 洗面所に入ろうとして、先客がいることに気付いた。おそらくは妹だろう。
 つい二、三年前まではばったり出くわす、みたいなことがあっても、なんてことはなかったのに、今は、酷く顔を赤らめて怒ってくるから、風呂に入るのにもいちいち気を遣わなければならないのが、颯斗には少々鬱陶しく思えた。
 はぁ、とため息をついて、颯斗は自室に戻った。つくづく、世の中は女子に優しいと思う。理不尽があっても、男子はぐっと堪えなければならない場面の方が多い、そんな風に思う。それでも、女性の地位が低い、って言われている世の中は、どこで逆転しているんだろう。素朴な疑問も、しっかりと考えられることは無かった。きっといつか、どうでも良くなる時が来る、そんな風に考えるのが、彼だから。
 ひょっとして返事が来ているかも、なんて期待して、ベットの上に投げられた携帯を拾う。
 通知を確認すると、スカイプではなく、ラインの通知が来ていた。
 送り主の名前を確認して、颯斗はそっと明かりを落とした。
 と、携帯が震え始めた。
 まさか、薫がもう一度かけ直して来た、そんなはずは無い。
 ここで抵抗してみせたところで、この状態が永遠と続くだけだと思って、諦めて電話に出た。
「もしもし」
『颯斗はきっとトークは見てくれないと思って』
「……」
『うんうん、図星だよね! 知ってる!』
 聞こえて来るのは、楽しげな蓮哉の声。
「〝こんな時間に〟何の用だよ」
『相変わらず酷いなぁ。二時とか三時にならなきゃ颯斗は寝ないの知ってるんだから』
「……」
『冷たいなぁ。僕と話すの、そんなに嫌なの? 知ってるよ? 最近、パンドラ君と話したり、しろももちゃんと頻繁に連絡取り合ったりしてたりするのを、ね?』
 薫とい言い、蓮哉と言い、縛りのキツい彼女にでもなりたいのか、という勢いで人のSNS事情を把握している。
「お前……俺の家に監視カメラとか盗聴器付けたりしてないだろうな」
『えっ、なんで分かったの?』
「おい」
『もちろん冗談だよ』
「用が無いなら切るぞ」
 颯斗の声は、マジでイラついてる、と主張している。蓮哉にはまるで効果が無いのが、可哀想だが。
『あるある、実はね、歌い手合宿をしようと思って』
「俺は行かない」
『颯斗の分も予約しておいたんだよね! いぇい!』
「は?」
『大丈夫、颯斗の家はこういうのに寛容なご家庭だってことはよーく知ってるから、颯斗が拒む理由は行くのが面倒、以外に無いでしょ? じゃあ問題無いよね、うん』
「俺の意志はどこに行ったんだ」
『颯斗が行かないならエイミーも行きたくないってごねられちゃって、じゃあ絶対僕が連れてくよ、って約束しちゃっんだよねー』
「だから俺の意志は」
『夏合宿だよ! 海だよ! 水着だよ! エイミーとかミーナの水着も見られるんだよ!』
「あいつらの見て何が嬉しいんだよ」
『いやいや、颯斗、二人とも着やせするタイプだよ? 見ないなんて、そんな、勿体ない……』
「お前……その顔でその発言は無いと思う」
『何言ってるのさ、颯斗。男は皆狼だよ!』
「……」
『もう、ドン引きするなんて酷いなぁ。颯斗だって、本当は見たいって思ってるでしょー? あっ、そうかぁ、颯斗はむっつりすけ――』
 颯斗は耳元から携帯を離して、通話を切った。
 この話を受けた時点で、その歌い手合宿とやらは、参加確定らしい。
 賑やかな夏休みになりそうだ。普段なら厭うはずのそれも、ここしばらくで抱くようになった不安を忘れられるなら、良いかもしれない、なんて思う気持ちがあった。
 唐突に通話を切られてしまった蓮哉は、それからしばらくかけ直して来たが、颯斗がことごとく無視すると、数回目でようやく諦めた。
 それで少しは残念がってくれれば良いものだが、そんなことはなく、目的を果たした上に、颯斗をおちょくって楽しむことも出来て、今頃は満足しているだろうと、颯斗は分かっていた。
 どうあっても、蓮哉には勝てる気がしない、と颯斗はまたため息をついた。
気が付いたら60話目ですね、早い早い。

そういえば颯斗って妹がいたなあって思って(第四話くらいに出ました)、何となく出しました。深い理由はありません(笑)

そんなこんなで、久々に奴らが出て来ます!
歌い手合宿は夏休みのイベントなので、間にもう少し話は挟もうと思いますが、何はともあれ、ようやく虎太郎が出せそうです!楽しみ!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ