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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第六話 深まる溝

 颯斗は我関せずの姿勢で行くことにした。おそらくは何か言葉を発しても、夕葉の気を逆立てるだけだろうと踏んで。
 そのままレジへ向かって、店員に振込用紙を差し出す。店員は二人がぶつかったことを知ってか知らずか、何食わぬ顔でそれを受け取り、文面を確認した後、レジスターに色々と打ち込み始める。
 颯斗は目線だけを横に向け、夕葉がどうするか確認した。よもや、ここで突っかかっては来ないだろうと思いつつも、万が一の可能性に意識が向かないわけではなかったからだ。
 だが、そんな颯斗の不安を他所に、夕葉はそのまま自動ドアをくぐって外に出て行った。
 ドアがしまるのを見て、安堵するようにため息を一つつくと、颯斗はポケットに手を入れて、いつでも紙幣が取り出せるよう準備しつつ、店員が手続きを終えるのを待った。
 よく見ると店員の名札には研修中と書かれていて、手つきも不慣れそうに見えた。振込用紙と暫くにらめっこをした後で、何か分からないことがあったのか、右手にある奥の部屋へ入って行った。
 颯斗は何をするでもなくぼーっと待ちながら、ふいにしろもものことを考えた。
 しろももは、どんな人なのだろうか。絵を描いている、以上のことは分からず、ツイッターを見ていても、日常の些細な内容を呟いているか、絵を描いたという報告をしているのが常で、人柄というものが掴めない。
 学生なのか、社会人なのか、それさえも分からず、写真付きのツイートをするわけでもないため、まったくもってその正体は不明なままだ。
 どうしたものか、と思い始めた頃、店員が颯斗の前に戻って来た。
 やり方を聞いて来たのだろう。今度は多少マシな手つきで手続きを済ませ、金額の提示をして来た。、颯斗は用意していた千円札を出して、早く終わらないだろうかと思いながら、もう一度ため息をこぼした。それを受けて焦ったのか、店員は一二度金額の打ち込みを間違えた。あたふたしながらようやく入力を済ませると、「大変お待たせ致しました」とだけ言って、控えを颯斗に渡した。その目には、どことなく、さっさと行ってくれ、とでも言いたげな色が映っていた。
 俺もさしてしたかったわけじゃないからな、おあいこだ、なんてセリフを思い浮かべながら、颯斗はレジを離れた。やはり安請け合いなんてするべきではなかったと少し思いつつも、過ぎたことを悔やむ性格ではない颯斗は、すぐに思考を切り替え、のんびりと家に戻るべくコンビニを出る。
 そのまま帰ろうとした瞬間に、背後からの声に呼び止められる。
「無視して帰ろうってわけ?」
 なんと夕葉は、コンビニの前で颯斗を待っていた。
 こいつ、随分と根に持つタイプか、と颯斗は三度目のため息を落とす。
「人にぶつかっておいて、謝りの一つも無いって、どういう教育受けてんの?」
「悪かった。これで良いだろう」
 早く帰らせてくれ、というオーラを全開にした颯斗の言が、夕葉の怒りに更なる油を注ぐ。
「今日という今日は、ほんっとに頭に来た! 良い加減にして! あたしのこと、バカにしてんの?」
「そういうつもりは一切ない。むしろ、関わりたくないと思ってる」
 すかさず本音を言うところがまた、夕葉には心底気に食わない。
 犬猿の仲、と言いたいところだが、颯斗からすると興味関心がまるで無いわけで、夕葉が一方的に噛み付いているような印象の方が、理解としては正しい。
 日頃は夕葉もそこまで何かに対して執着しないタイプだが、何故か颯斗に関してだけは、無視しようにもしがたい部分が多かった。学校外においては何とか交わりが無かったから抑えられていたものが、ここに来てついに出先でも遭遇したことで、臨界を超えてしまったようだ。しかも、接触したにも関わらず謝罪の言葉一つ無いというのが、更に夕葉の心持ちを悪くさせた。
「それはこっちの台詞よ! なんであんたみたいなのと学校の外でまで会わなきゃいけないわけ!? 目障りだからあたしの前に現れないで!」
「随分と勝手な言い草だな。そんなこと、俺に言ったところでどうにかなるものでも無いってのに。願う対象が違うだろ。俺にじゃなく、神様にでも言いな」
 颯斗はやれやれ、と言った具合に目線を右上に向けつつも、「ぶつかったことは悪いと思ってる」と再度謝る姿勢を見せた。
 少なくとも自分の非は認めても良いか、というやや妥協気味の反応だった。
 ただ、夕葉もこれ以上怒鳴りつけても仕方ないと踏んだのか、「まあ良いわ」と折れた。
 こうしてようやくいがみ合っていた二人は離れ、それぞれに家の方向へと歩み出した。幸いだったのは、二人の家が正反対に位置していたことだろう。よもや同方向にあろうものなら、間違いなく何故ついて来るのかと、子供じみた喧嘩のようになっていたはずだ。
 同じ時間を共有すればするほど仲が悪くなる、ある意味で珍しい間柄にある二人。
 この二人が、知らぬ間にネット上で良好な関係を築き始めていると、一体誰が考えるだろう。
 もし真実を知っている者がその話をしたとしても、誰一人として信じるはずが無い。
 だが、事実は信じようが信じまいが、確かな形を持とうと動いて行く。
 たとえ当事者が、それを拒もうとしたとしても。
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