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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第五十四話 乗り気な颯斗

 薫は、氷雨モミこと、樅山詩織とのエピソードを颯斗に語って聞かせた。颯斗にとっては、そんな物語みたいな話が本当にあるのかと、終始心を動かされるばかりだった。無感動、と言われがちな彼だが、それは相手と場面による。誰にでも平等に耳を傾けるべきではあるのだろうが、無駄な労力は払いたくない、と考えてしまう颯斗には、そこまでは難しかった。
 ともあれ、志を同じくする颯斗に全てを打ち明け、全てを真摯に受け止めてもらえたことで、薫からの信頼は不動のものになった。
「と、まあ、そういうわけだよ」
 話が終わる頃には、二人のカップはすっかり空になっていた。
「なるほどな……。ってか、御崎もコミギャに来てたんだな」
「僕、も? 他に誰か来てたの?」
「榊原に会った」
「へえ。ひょっとすると、榊原さんも颯斗君みたく、何かで有名だったりしてね」
 なお一層研ぎ澄まされて行く薫の勘だったが、颯斗はその言には何も返さなかった。むしろ、何か居心地の悪さを感じて、話題を新曲の方に戻した。
「PVのイラスト、誰に描いてもらうかとかまで、もう決めてるのか?」
「イラスト? いや、まだだよ」
 その答えに安堵する自分がいる。颯斗がこれから口にしようとしていることは、ひょっとすると絵空事かもしれないし、何より、本人の承諾をまだ取っていないのだから、突拍子の無さ過ぎる思いつきに他ならなかった。けれど、薫の話を真剣に聞く裏で、その提案が出来ないか、ずっと考えていた。
「イラストを頼んでみたい絵師がいるんだ」
 それは賭けだったけれど、勝つ自信があった。
「まずは頼んでみないとダメなんだが、可能性はそれなりにあると思う」
「僕は別に構わないけど……念のために聞くけど、なんて人?」
「しろももっていう人、知ってたりするか?」
「ああ、しろももさんか。僕もツイッターで相互フォローだよ。僕としては、した覚えが無いんだけどね」
「なっ……そうだったのか」
 薫の発言に、颯斗は少しショックを受けた。片想いならともかく、両想いなのには、独りよがりながら、いただけない気持ちがあった。
「びっくりしたよ。いつの間にか相互になってたからね。まあでも、面識があったりするわけでも無いし、お願いするとしたら、颯斗君にやってもらうことになるけど」
 けれど、続く言葉に、気持ちはまたも変わった。しろももが絡むと、いつもこうだ。ちょっとしたことで喜んだり、憂ったり。それだけ執心なんだと、さすがに自分でも気付いていた。
「折角相互だから、僕もしろももさんにその内お願いしてみようかとは思ってたし、願ってもないチャンスだよ。そう言えば思い出したけど、二人が時々やり取りしてるの見かけるよ。あの様子なら、引き受けてももらえそうだね」
 颯斗と麗音の繋がりに気付いたのも、薫の観察眼の鋭さを考えれば、必然的なものだった気がした。
「よく見てるよな、御崎って」
「それだけツイッターにいるってことだよ。褒められたものじゃないね」
「それでどうやって制作活動してるんだ」
「うん? 颯斗君って携帯でツイッターしてる感じ? 僕はパソコンでやってるんだけど、モニターが三つあるからね、作業しながら出来るんだよ」
「モニターが三つ……。ちょっと想像がつかないな」
 編集作業があるため、颯斗もそれなりにスペックの良いデスクトップは持っているが、さすがにモニターは一台だ。一度に三台使っている状況がまるで思い浮かばないし、仮に三台あったとして、颯斗には使える気がしなかった。
「まあ、そうかもしれないね。……颯斗君と話してると、すぐ時間経つね。そろそろ出よっか」
「だな」
 二人して仲良く席を立つ様子を、例の店員が最早隠すつもりゼロで見つめていた。彼女の脳内で、あれやこれやと補完が為される度に、今夜のTLに活気が満ちることは、既に述べた通りだ。
 夏本番も間近に迫っているせいか、午後六時を過ぎても、店の外はまだまだ明るかった。とは言え、二人とも、趣味に関すること以外では、外出に乗り気の性格ではなかったから、そのまま帰る方向に話が進んだ。
「ここからだと、ちょうどお互い真反対に帰ることになるのかな」
「御崎の家があっちなら、多分そうなると思うが」
「うん、あっちだから、反対だね。またこうやって学校の外でも話せる機会があると、僕は嬉しいんだけどな」
「俺も楽しかったし……頻繁じゃなければ、付き合うよ」
 ぜひとも、最後の一言を例の店員に聞いてもらいたかったものだが、もちろんこんな所に居合わせるはずもなく、最大のネタは知られることなく終わった。
 適当に別れの挨拶を交わすと、二人はそれぞれに家路を辿り始めた。
 薫は、麗音が歌うことを前提に、曲調をどうして行くか考えながら。
 颯斗は、しろももに件の依頼をどういった形でお願いするか考えながら。
 背中は向けながらも、一つの曲を作り上げるために、同じ方へ向かって歩いていた。
 その表情はとてもやわらかく、力強い希望に満ち溢れていた。
少し前の夕葉と対照的に、明るいエピソードを用意しました。所々に腐女子店員を入れたのは、単なる趣味ですが、きっと色んな所にこういう人が潜んでいて、素敵なエピソードをツイッターとかで提供して下さるんだろうな、と、一応本作に関係がありそうな形で出させてもらいました。

実は、当初予定していた流れとは、最早全然違う感じになっていて、ちゃんと完結出来るかどうか、またまた不安でいっぱいだったりします(笑)

でも、今、イラストもこっそり描き続ける日々が続いてるんですが、久々に、創作する喜びを味わえている時間が続いていて、大変だけど、続けられそうな気はするので、上手くやって行こうと思います。

これからも応援して下さい。もう本当にお願いします(笑)

追伸:早く虎太郎出したい。
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