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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第五十三話 キヲク

「次の曲なんだけどさ、ぜひ、最初から颯斗君に歌って欲しいんだ。良いかな?」
 夕葉が休んだその日、颯斗と薫は、放課後、学校近くのCDショップに来ていた。普通なら誘いを断って、まっすぐ帰路につく颯斗だが、行き先がここだと知ると、事情が違った。
「次の曲を、俺が?」
 洋楽のアルバムを手に取りながら、尋ねる颯斗。ライブで歌うことになってから、少しではあったが興味を抱き、いくつか聞いてみたいバンドを見つけていた。薫の誘いに乗ったのも、ここなら有りそうだと踏んだからだ。
「そう。元々いつか歌って欲しいと思ってたからね」
 麗音が【歌ってみた】パンドラの曲は、『インディペンデンス・デイ』と、それより三つ後に投稿された『シニカル』という歌の二つ。どちらも本家より再生数を稼ぎ、そのおかげもあって、本家の再生数も他の曲より群を抜いて多い。そこからパンドラのファンになった人も多く、そのことを認知していた薫は、麗音のために曲を書き下ろすことで、双方に利のある状況を作り出したいと考えていた。
「面白いな。どういう曲なんだ?」
 音楽に関することなら、例外的に乗り気になる颯斗。いつもこの様子なら、もっと多くの友人が出来そうなものだが、どうやらそれは天が許さなかったらしい。
「タイトルは『キヲク』にしようと思ってるんだ。カタカナ三文字で、〝ヲ〟は〝わをん〟の〝を〟。歌詞はもうほとんど出来てる。記憶の海を泳いで、思い出に浸るんだ。寂しくて、切ない。そんな曲だよ」
 パンドラの作る曲には、時折影が見え隠れする。ハッキリと表現することは無いけれど、確かに感じ取れるように、(意図的にではないが)仕込んでいる。そのことには、颯斗は気付いていた。薫を見て誰もが感じるような、華やかさと言うか、眩しさのようなものも、彼の創る世界には表れるけれど、表層の部分には出て来ない暗がりが、彼の内側にはあるんだろうと思った。
 それは表には決して出されないから、現実で対峙する人は、薫が暗い部分を持っているなんて、思いもしない。だが、パンドラをよく知る颯斗は、違った。おそらく、彼の話を聞く限りは、『キヲク』は、その影がハッキリと示された、初めての歌になるだろう。その所以が、気にならずにいられなかった。普段は、誰かの気持ちに寄り添えるほど、心情の揺らぎに敏感ではないけれど、歌を介することで、薫の心の片鱗に触れた気がして、その揺らぎに、気付くことが出来た。
「今までと作風が違う感じがするが……心境の変化でもあったのか?」
 薫も、夕葉のように、自分の内情を人に口にする性格ではなかったけれど、これから共に活動して行く身として、颯斗に気取った自分を見せる気は一切無かった。颯斗に、と言うより、麗音に、隠し事はしたくなかった。
「その話までするなら、ここは些か具合が悪いね。場所を変えよう。このビルの一階に確か……」
「スタバがあったな」
「そうそう、スタバだ。あんまり行かないから、何が入ってたかまでは覚えてなかったよ。そこで、続きを話すよ。でも、颯斗君もまだCD見たいでしょ。僕ももう少し見て回りたいから、それが済んでからにしよう」
 薫の意見に全面的に賛同して(与えられた時間を、目一杯使い尽くそうとする姿勢を颯斗が見せるのは、本当に珍しい)、もうしばらく店内を見て回った。おかげで、探していたバンドのアルバムを見つけることが出来たし、それ以外にも新しい邂逅がいくつかあり、実りの多い時間となった。その中には、薫の想い人、氷雨モミの1stアルバムも入っていたが、それはまったくの偶然で、薫が何か勧めたりするようなことは無かった。
 一階まで降り、スタバに入った二人だが、どちらもこの手の店に足を運ぶことは稀で(颯斗の場合、外出そのものがかなり稀だが)、注文の際には、ズラーッと書かれたメニューを見て、顔を見合わせた。
「何頼んだら良いのかな」
「わかんないな」
 小声で聞く薫に、即答してみせる颯斗。
 薫のパーソナルスペースは狭く、颯斗もそれほど気にしないタイプのせいもあって、二人の距離はかなり密接していた。顔立ちの整った颯斗と、美少年の薫とがそうする姿に、対応していた女性店員は、心の中で荒ぶる自分を押さえようと必死だった。その記憶スケッチがツイッターで瞬く間に拡散して行くのだが、それはまた別の話。
 結局、二人が頼んだのはカプチーノとエスプレッソだった。他のは見てもよく分からなかったし、二人ともブラックがそれほど好きではなかった。
 注文にエネルギーを随分使った二人は、席につくとほぼ同時に長いため息をついた。
「いやぁ、女子って凄いよね。コレを毎回してるなんて」
「だな……。俺、デートとか出来そうな気がしない」
 いつか付き合うことになる夕葉が、大のスタバ好きで、一緒にいる内にすっかり慣れてしまうのだが、よもや自分がそうなるとは、夢にも思わない。
「さて、それじゃあ改めて。『キヲク』を創るきっかけになったエピソードを、話そうと思う」
 この時、薫は初めて、誰かに自分の全てを語った。
 御崎薫のこと。パンドラのこと。そして、氷雨モミのこと。
 二人は、生涯に亘って、共に創作活動に励む親友になるが、この瞬間こそが、その始まりだった。
昨日、アンケートを取りました。
「歌い手カレシと絵師なカノジョ」と、「私の生きにくいカレシ」の両方を書く、というのが、多くの声として上がりまして。

結果、現在全てを出し切って、あとがきを書いている次第です。

いつも思うのが、あとがきに書くことを、あとがきを書く瞬間だけ忘れています。で、後から思い出します。
本文を書くのに必死になって、飛ぶんですよね。
今回も何か書きたかったんですが、また忘れました。

来週からもこのスケジュールだったら泣きそうなんですが、二日おきなので、来週は素敵なことに日にちがズレますね。良かった。
出来る限りは被る日でも日を空けないようにしますね。

あ、思い出しました。
本作のしょーもない裏話とか、キャラ設定のこととか、ツイッターで呟いてます。もしそこまでご興味をお持ちでいらしたら、見に来ていただければ、と。
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