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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第五十一話 独り

 翌日、夕葉は学校を休んだ。
 そんなことは初めてだった。いつだって真面目に生きて来た。風邪で熱があったって、ちょっとくらいなら耐えて登校した。気分が悪くても、保健室に行かず授業を受けるような毎日を過ごして来た。全校生徒の半分くらいは休むような離任式にさえ、欠かすことなく出席した。ちょっとやそっとの痛みや苦しみで折れるようなことは、決して無かった。だから、こんなことは、本当に初めてのことだった。
 布団を顔まで被って、身を縮こめる。暗い布団の中、壁の白さだけが、ぼんやりと分かった。普段なら学校に行っているような時間なだけに、もう目も冴え渡っていて、これ以上眠ることも出来ない。
 けれど、起きていれば、考えてしまう。それが嫌で、学校まで休んだのに、律儀で生真面目な彼女の身体は、不貞寝することを許さなかった。
 全部、あいつのせいだ。
 思い浮かべたのは、もちろん――
 少し前まで、ただのムカつく奴だったのに。今は、夕葉の心をひっかきまわす、厄介者だ。
 でも。
 彼自身には、意図的な部分なんて、無い。
 何から何まで、夕葉自身が勝手に思って、勝手に決めつけて、勝手に苦しんでいるだけ。それは、夕葉にも、もうよく分かってることだ。
 思っていたような彼は、実はどこにもいなかった。
 嫌い? 何が? 何処が?
 虚像に、苛立ちを募らせていた。
 ずっとそうだと思っていられたら、平和だったのに。
 あの時、実像に触れてしまったから。
 分からなくなった。彼のことも。自分のことも。
 間違っている。そんな風に思っても、けれど彼の前に立った時、〝嫌な奴だ〟と思いたい自分がいる。きっと本当は、良い奴だろうし、普通の姿勢で関われば、もっと友好的な関係を築くことだって、出来るかもしれない。
 でも、認められない。認めたくない。そんな自分が、立ちはだかる。「なんで? ずっと嫌いなままで良いじゃん」と言い続ける。「あいつだよ? 分かってる? あいつだよ? 他にもたくさんいるのに、なんでわざわざあいつの評価を改めようとしてるの?」その言葉は、確かに、夕葉の心そのもので。だから、これまでずっと、耳を傾けて来た。
 なのに。あれから、違う自分が、必死に声を上げようとしていた。何度も何度も押し込めて、耳を塞いで、無視しようと努めた。それでも、心の隙間から、その声が、すり抜けて、次第に無視出来なくなった。
 その声は、言う。
「自分の気持ちに、素直になって」
 違う。
 違う。
 違う。
 嘘だと思いたかった。あれは、夢で。あれは、別人で。あれは、何かの間違いで。あれは――
 あれは、現実だった。
 どれだけ否定しても、その声は止まなかった。
 嫌だ。
 嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 その感情の存在には、もう、気付いていた。
 それでも、その感情に言葉を与えることには、尚も抵抗があった。認められない自分がいた。どうしてそんな思いになるのか、皆目見当もつかないけれど、とにかく、とにかく、認めたくなかった。間違っていたとしても、自分を変えたくなかった。曲げたくなかった。だから、その感情を消し去る方に、心を動かそうとした。
 忘れたい。無かったことにしたい。
 拒む気持ちは、必死に今を忘れる術を探した。
 そして、探し当てた。辿り着いた。
 ある意味で、最も残酷な答えに。
 このまま伏せった気持ちで布団にくるまっていても、苦しさが増すだけ。
 そう思って、携帯とイヤホンを手に、部屋を出た。家には他に誰もいない。学校を休んだ夕葉が何をしていたって、それに文句を言う姿は無い。孤独な環境で育ったことが、彼女の気持ちを、より追い込むような性格にさせたのかもしれない。苦しみや悩みを、打ち明けて楽になるということを知らないのも、同じような理由からなんだろう。
 無人のリビングを抜けて、家を出た。震える手でイヤホンを耳に挿し、端子を携帯に繋いだ。独りぼっちの夕葉を支えてくれるのは、音楽だけ。音色が、歌声が、切ない気持ちを和らげてくれる。
 今回もまた、忘れられるだろう。この苦しみから解き放ってくれて、明日には、何事も無かったかのように、けろっとした顔で、学校に復帰出来るだろう。
 そして、日々の義務を真面目にこなしていれば、こんな感情なんて、あったかどうかも、分からなくなるに違いない。
 そう思って、プレイリストから、今一番寄り添って欲しい〝声〟を、探した。
 もちろん、それが誰かは、もう決めていた。

〝麗音〟

 プレイリストのタイトル名を見つけるだけで、夕葉の表情は柔らかくなった。

 私は、〝彼〟に、恋をしている。
 他の誰でもなく、〝彼〟に。
 必死に。必死に。
 言い聞かせる夕葉は、どこまでも、独りだった。
気が付けば、二話くらい前に10万字を突破しておりました。わぁい。

何だか展開的におめでたい感じを出し辛いのでアレなんですが、まあうん、良いよね、的な感じに思っているのでここでお知らせ致しました。

二日に一回ほど、現在は書いているわけですが、約二千字をメドに書いているにも関わらず、日々サボりたさでいっぱいです。
楽しんで書いている時もありますが、まあ大体ウオオってなってます。
本当よくやってるよと褒めて欲しいくらいです(傲慢)。
かと言って休むと、多分もうあと一年は書かなくなるので、何とか続けるようにしてます。

何とか尻を叩いてやって下さい。
いやもう本当に。
ウオオです(意味不明)。
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