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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第四十八話 同じ方を向いて

 夕葉は背もたれに体重を預け、自室の宙を見た。
 ここまで完成しない絵は、初めてだった。
 ライブの後、取りかかり始めた麗音のアイコン制作。
 あれからそこそこ経つというのに、線画がかろうじて完成した程度で、色塗りが一向に進まない。
 麗音のアイコンは、夕葉ほど深慮しないファンの手によるものを、颯斗が気まぐれに使うのだが、顔出しをしていない麗音の印象はひたすらイメージが先行するもので、かといって公式的なデザインも示されていないので、結果的に各人が自由に想像して描くことになっている。
 そのため、別段それほど悩まなくても良いのだが、燃える絵師魂と、麗音への強い想いが、持ったペンを動かさない。描いてはctrlとZを押す、の繰り返し。
 はぁ、とこぼれる溜息。
〝まだまだ絵師としての力が足りない〟
 満足出来ない、それが彼女の才能。そのことに不満を抱く日々だけれど、それが彼女の強さだとは、まだ自覚しない十七歳。
 妥協したものを、誰にだって提供したくないし、その相手が麗音なら、尚更だった。
 納期までに仕上げることは、プロとしては必須だが、納期が無い作品についてであれば、限界まで煮詰めるのもまた、プロだと思う。
 気分転換に、と、夕葉はツイッターを開いた。そうなると、時間が一瞬で溶けるが、ボーッとしているよりはマシだと、現代人の多くは賛同するだろう。
 フォロー数の少ないタイムラインは、今日も穏やかで、絵師仲間が参加しているイベントについて呟いたり、落書きを載っけたり、アイドル育成のソシャゲのガチャで推しキャラが当たらないとかぼやいていた。
 平和な世界。あるいは、そこでくらい、そうありたいと願う人たちが、作り上げているのかもしれなかった。
 その中に、夕葉は彼の姿を見つけた。
 麗音はさほどツイッターに浮上するタイプではないし、それ故、タイムラインでその姿を見かけるのは珍しいことのはずだった。それが、ここ最近は割とタイミングが合う。何か運命的なものが為せることだと、本当は違うのだとしても、そうであって欲しいと思わずにいられなかった。
 けれど――
 心は、チクリ、と痛んだ。
 麗音のアイコンが、変わっていた。
 そして、夕葉が見かけたそのツイートには――
〝素敵なアイコンをいただきました。これからはしばらくこちらのアイコンでやって行きたいと思います〟
 見た瞬間に、麗音だと分かるような、麗しいアイコンだった。
 その絵柄を見ただけで、夕葉には、しろももには、それが誰の絵なのかを察した。鬼灯いるかとか言う、そこそこ有名な絵師だ。夕葉とは、美的感覚や創作への指向が幾分異なっているため、交友は無く、リツイートで見かける程度だ。そんな、自分からしたら、あまり好みではない人の絵を、麗音が――
 盗られたような、気持ちがした。
 麗音は、しろももの、何者でもないのに。それでも、絵師として、麗音と一番親しいのは、しろももだと思っていた。
 知り合った時から今まで、麗音がアイコンを変えたことは無いし、そのアイコンも、誰かに描いてもらったものなんだろうけれど、自分の知る所ではないから、気にはならなかった。
 ただ、今度は違った。
 麗音の次のアイコンは、夕葉が、しろももが描くものだと、勝手に思っていた。
 喜ぶ麗音に、〝これからも時々描きますね〟なんて、言ってあげるつもりだった。
 けれど、先を越されてしまった。NaNaNaNaみたいに、見知った人がプレゼントしたなら、まだ許せたかもしれない。でも、鬼灯いるかは、夕葉からしたら、〝あんな人のアイコンなんて使わないで〟くらい、言ってしまいたくなる、そんな存在だった。もちろん、勝手極まりない、彼女の好き嫌いに基づく嫌悪感だけれど、好きか嫌いかが、アーティストの彼女には、非常に重要だった。
 アイコンは、とても鋭く、麗音の要素を捉えていたけれど。〝私の麗音〟じゃない、なんて。思う夕葉の目は、僅かとは言えない程に、潤んでいた。
 ぼやけた視界。それでも、まだ何か呟くんじゃないかと思って、夕葉はタイムラインを追い続けた。
 もし、ここで麗音が何も呟かなければ、しろももとの関係は、密やかに、下火になっていたかもしれない。
〝この前消しちゃった動画の件なんですけど〟
 でも、麗音は、呟き続けた。
 運命は、麗音の相手に、しろももを選ぼうと働いた。
〝ある方に勧められて録ったんですけど、どうしても出来に満足出来なくて。色々考えて、妥協したくないって思って、取り下げることにしました。中には投稿すぐ聞いて下さった方には、申し訳ないです。この先、納得の行く仕上がりになったら、またその時に改めて上げようと思います〟
 ある方、は間違いなく、しろもものことで。麗音がしろもものことを挙げただけでも、嬉しかったけれど。そのこと以上に。
 麗音の姿勢に。勇気付けられたような気がした。妥協せずに、自分に出来得る最高の仕上がりまで、追求する。創り手として、しろももが最も重視していることを、麗音もまた、同じように求めていた。そのことが、沈みかけた夕葉の心を、引き上げた。いや、それ以上に――惹きつけた。
 この人に贈る絵は、一切の妥協をなくしたい。
 強く、心に決めた。
 どれだけ時間がかかっても、構わない。自分が、心の底から納得出来るものが完成するまで、努力を止めない。
 それが、麗音と向き合うのに相応しい、自分だと思った。
 肩を並べて歩んで行けるように。進むべき道は、多少異なるかもしれないけれど。目指す方は、きっと、同じだから。
 しろももは更なる高みへ、羽ばたこうとしていた。
 そのツイートから少しの間も無く、夕葉の元に、麗音から直接謝りのDMが届いた。
 それに受け答えする夕葉の顔には、人を虜にするような、きらめいた笑みが、たたえられていた。
妥協……しまくりです。いやはや。
投稿間隔を保つため、という理由を盾に、日々妥協の毎日でございます。反省。

実は、裏話をすると、ライブの時に、別に夕葉はそこまで颯斗に惚れるはずは設定上無かったんですが、何だかあんなことになってしまって、ライブで歌った曲は、本来なら投稿されるはずで、夕葉もなんとなくだけど、そうかも?って思ってはいる、っていう展開になるはずでした。はい。でした。
ところが、あんな感じになったので、今回、言い訳回が入った次第です。

あれ、なんで言い訳してるんだろう。別にしなくても良いのに。

ともかく。一番言いたかったのは、夕葉が藤夜の意志に背いて、自分から颯斗を好きになって行ってるよ、っていうことです。
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