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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第四十三話 もう間もなく

 而して、ライブ当日。
 その日は朝から、教室が俄に騒がしかった。
「何の騒ぎだよ……」
 低血圧の颯斗は、相変わらず半開きの目で登校して来た。
「ラメントって知ってる? ゲーム実況で有名な」
 敦はだいたいいつでも同じテンションだが、今日は心なしか高い気がした。そのせいか、朝から妙な話を振ってくる。
「いや……俺、ゲームしねえし」
「ああ、そうだったね。忘れてたよ。だったらピンと来ないかもしれないけど、ラメント、って有名な実況者が、3組の中瀬って奴だって分かって、もう大騒ぎでさ。マスクしてて全部顔出しはしてなかったんだけど、普通にイケメンだから女子もキャーキャー言ってるよ」
「へえ……」
「何だよー、そんなに興味無いのかー?」
 颯斗の大して驚かない様子に、敦はつまらなそうだった。
 それにしても、意外と身近な所に有名な動画投稿者ってのは潜んでるもんだな、と颯斗はぼんやり思った。一応自分もその手のクチだし、そういった存在がいることには驚かなかったものの、それが飛び火して自分の正体がバレるのは面倒だな、とため息をついた。仲の良い敦でさえ、彼の活動は知らない。隠しているというより、単に伝えていないだけなのだが、それは一介の高校生としての平穏な生活を、学校では望みたい気持ちがあるからだった。
 そんな一騒ぎがあっても、五時間目が始まる頃にはいつもの空気が戻って来て、授業を受けながら舟をこぐ者、絵を描く者、ブレザーの袖にイヤホンを通してこっそり音楽を聴く者など、普段通りのだらけた雰囲気が広がっていた。
 放課後まで、颯斗はフル充電でもするかの如く、机に突っ伏したままだった。その様子を見て、夕葉は愛想を尽かしたが、今日はそれほど苛立ちを感じなかった。
 七限目のチャイムが鳴ったと同時に、教室の中は再びざわつき始めた。活気づいた教室で、一番活力を見せたのは、ライブの準備に取りかかるべく、いそいそと講堂へ向かい始めた軽音楽部だ。
 が、それを他所に、颯斗は眠りこけていた。
 何故か颯斗を視界の端に捉え続けていた夕葉だったが、ひょっこり現れた美陽に気を取られた。
「夕葉、軽音部のライブ、見に行こっ」
 今日の美陽は、いつになく上機嫌だ。
「なんでまた急に?」
 数日前から言っていたならともかく、美陽の提案は急な思い付きの様相を強く感じさせた。
「あのねあのね、高野先輩って人が、凄くかっこいいの! 今日のライブに出るから、見に行きたいなー、って!」
 普段は温和で優しい美陽だが、唯一の難点が、イケメンに弱い点だ。確か、先月は陸上部の先輩が、とか言っていた気がする。夕葉は呆れながらも、数少ない親友の誘いを無下に断ることも出来ず、ついて行くことに決めた。
 夕葉たちが教室を出たのと入れ替わりで、湊が颯斗のクラスを訪れた。湊らしく、自然に颯斗と待ち合わせなどはしていなかったが、普通に講堂に来ると思っていたらしく、姿が見えないのを気にしてやって来たのだ。
「おいおい、鷺沼、起きろって!」
 眠ったままの颯斗を見て、さすがの湊も焦りを感じた。揺り動かすが、颯斗を起こすのは中々容易ではない。下手をすると、危険を伴う。
「んだよ……」
「おいおい……しっかりしてくれよ。はぁ……仕方ないな」
 そう言うと湊は、颯斗に顔を近付け、耳元で息を吹きかけた。
「っ!?」
 これには颯斗も相当堪えたらしく、身悶えながら目を覚ました。湊の行為は自然と艶めかしさを帯びていて、それは颯斗にも効果があったらしい。耳元を押さえながらも、動悸を速めた颯斗は、顔を上げて湊の方を見て、事態に気付いた。
「おはよう、鷺沼」
「寝過ぎたか……」
「まあ、普通に間に合うから、行こうか」
「悪い。すぐ行くわ」
「ってか、寝起きで声出るのか……?」
「ああ、それなら別に」
 麗音の【歌ってみた】は寝起きに録ることも多いが、それでも普段と変わらないクオリティを出すため、そのことに気付くリスナーは誰もいない。歌うことに関してだけは、天賦の才を持つのが鷺沼颯斗という男の、良くもあり悪くもある点だ。逆に言えば、彼がMAXの状態で歌えば、一部のファンが(どこぞの某絵師のように)失神しかねない。
「なら良いんだけどさ。頼りにしてるんだからな、鷺沼」
「任せてくれ。最高のステージにしてやるよ」
 その一言は、寝起きだからこそ出た、颯斗の――それはきっと、麗音の――心の声だった。
(この瞬間だけは、マジで輝いて見えるんだよな……さっき、やっぱりキスしといたら良かったかなぁ……)
 すぐ隣で、湊がその煌めきに心拍数を上げているとも知らず、颯斗は首を鳴らした。
 開演はもう間も無く。
 運命が切り拓かれる瞬間もまた、すぐそこまで迫っていた。
いますよね、普段はアレなのに、ある瞬間だけ、輝いて見える奴。
颯斗は、そういうタイプです。

段落を変えずに色々なキャラの視点を変えて、それでも読者が混乱しない文を作ることが、最近の目標です。
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