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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第四十話 上がって落ちる

 幾ばくかは場の雰囲気も和み、四人は練習に入ろうか、という段階に入った。
「今さらなんだが、どこで練習するんだ?」
 考えてもみれば、バンド練習をするような雰囲気は、今までのところ全く伝わってこない。洒落た豪邸の居間で練習、なんてことは無いだろうし、さて、これからどうしようというのだろう。
「ああ、それなら。ついて来て」
 先導する湊の後を美園と茉莉亜が歩き、颯斗はさらにその後ろをついて歩いた。
 いかにも名画らしい感じのする絵が掛けられ、仰々しい雰囲気の漂う廊下を進む。甲冑でも置いてあれば完璧だな、なんてことを颯斗は考えた。
 そうこうする内に一行の足は止まった。
「入ってー」
 湊が開けた扉の先には、練習するには逆に豪華すぎるスタジオがあった。
「すげえな……」
「パパがバンドマンだからね、大体何でもあるよ」
 このレベルの豪邸を建てられるくらいだ。ただのバンドマンでは、絶対に無いのだろう。パパ、という響きにも、凄さが見え隠れしているような気がした。
 他二人は微塵も驚かず(これが当たり前になっている、という所に、颯斗はまた別の驚きを感じた)、せっせと支度を始めた。
「そういえば、聞き忘れてたんだけど、鷺沼ってギター弾けるのか?」
 このタイミングで聞くのかよ、と思った。
「弾けないと困るんだよなぁ」
 俺が弾けなかったら今日どうするつもりだったんだよ、と思いながら、颯斗は肯定した。
「おー、良かった。あ、でもさすがに練習は……あ、してるんだ、凄いな、お前」
 別段このことを見抜いていたわけではなく、単に興味本位で弾いてみただけだが、意外と功を奏したらしい。
「まあ、二、三日だし、触ったくらいだけどな」
「良かった良かった、なら心配無いな」
 さすがにツッコむのも疲れてきた颯斗だった。ライブはまだ先で、練習する時間もそれなりに取れるとは分かっていたが、ひょっとすると前日にトラブルがあったとしても、当日に代役を頼んできそうな感じがした。
「さーて、それじゃ練習するかぁ」
 ところで、颯斗は誰がどのパートをするのか知らない。
 気になって見てみると、ギターを湊が、ベースを美園が携えていた。なるほど、それらしい感じがする。
 そして、茉莉亜がドラムスティックを握っている。
 ああ、もう、多分、そういうことなんだろう。
 趣味がツーリングだとか、麻雀のプロだとか、背中にどぎつい入れ墨があるだとか、言われたところで驚かないような気さえした。前世がとんでもない奴なんだろう。
 驚きの連続で、逆に驚かなくなって来た颯斗は、すんなりと練習の輪に入ることが出来た。
 演奏を始めてみると、思った以上に出来が良く、しっかりまとめられているバンドだと分かった。このはちゃめちゃなメンバーが、音楽を通じて一つになる、その素敵さに、颯斗は改めて愛おしさを感じた。
 こういうのも、悪くない、そう思った。
 社交性に欠けるため、軽音楽部に入部することを諦めた颯斗だったが、この時ばかりは、少しだけ、残念なことをしたかな、と後悔するところがあった。
 練習はそれからも順調に進み、終わる頃には、颯斗もメンバーの一員になれたかのような一体感が生まれていた。
「良いじゃん良いじゃん。これなら、ライブも安心だ」
「期待以上だよ。改めてヨロシクね、鷺沼君」
「わ、私もっ、よ、よろしく……お願いしますっ」
「ああ、こちらこそだよ」
 普段から人とこれくらいで接することが出来れば、もう少し上手くやれるのにな、なんて、柄にも無く反省するほど、三人との時間は濃密なものだった。
 と、結論付けられれば、幸せに済んだのだが。
「ふぅ、じゃ、ラーメンでも食べに行こっか」
「そうだね!」
「ラーメン……良いね」
 は? と思った。
 練習で疲れたし、家に帰って休息を取ろうと思っていた矢先の、湊の発言。しかも、そこに異を唱える者は誰もいない。女子三人がラーメンを食べに行くことにノリノリの中、颯斗は何とかしてその場を逃れる術を――
「鷺沼、もちろんあんたもね」
 考える間もなく、四名様ご案内の流れが出来た。
 ああ、やっぱり……。
 人と活動するのは、しんどい。
 少しだけ上向きに転じるかに思えた颯斗の社交性は、こうして、横ばいになることが決定したのだった。
皆さんはラーメン好きですか?
私は苦手です。
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