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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第四話 Colored Talking

 颯斗のフォロワーが増える速度は並の比ではない。動画を投稿した直後なんてのは、瞬き一つする間に一度爆発が起きる。颯斗にとってツイッターは最早動画投稿を知らせる程度の位置にしか無かったし、使うとしてもフォローしている少数の仲間の動向を見るくらいが限度だった。もちろん、通知などオンにしているわけもなく、彼はしろももがフォローを返したことも知らなかった。
 だから彼は、すっかりしろもものことを忘れていた。
「どけ。邪魔だ。そこに立つな」
 立て続けに三言。
 教室の入り口近くで友人と話していた夕葉に、颯斗は何のためらいもなくそう言い放った。
 夕葉はその言葉にあえて怒りを見せず、むしろ知らぬふりを突き通して、今度は意図的に入り口の前に立った。
 意地の張り合いをするつもりは無い颯斗は、意にも介さないという風に反対側の扉に向かう。
「な、何なの、あれ! ほんっとムカつくんだけど」
「まあまあ。鷺沼君はあれで普通だよ?」
美陽(みよ)は何とも思わないの!?」
「そういう人もいるんだなーってくらい?」
「あたしが考えすぎ、ってことなの?」
「気にしなかったら良いと思うな」
「……そっか」
 夕葉は美陽の考えも一理あると思って颯斗を極力意識しないように努めた。
 努めたが、どうにも気に障るという人物が誰しもいて、それが夕葉にとっては颯斗だったわけで。
 やはりいらいらとせずにはいられなかった。
 次の休み時間にも颯斗は夕葉に「どけ」と口にした。
 今度は颯斗が落とした消しゴムが夕葉の足元に転がって、拾うのに夕葉が邪魔だったからだった。
「あんた、良い加減にしてくんない!? ほんと、何なの!? 拾えって言えば良いじゃん!」
「自分で拾う。お前に頼むつもりは無い」
 ある意味で価値観の違いのようなものが二人にあって、それが真っ向から対立するわけだから、タチが悪い。
「あーはいはい。ほら、拾いなよ」
 夕葉は軽く消しゴムを蹴飛ばして、颯斗の方にやった。夕葉自身、さすがにそれはやり過ぎたかなと一瞬後悔したが、それくらいしたって良いような気がして、顔には出さなかった。
「どうも」
 颯斗は怒らなかった。それに腹を立てたって仕方ないと思ったし、次は落とさなければ良いと考えた。
 ただ、両者とも、お互いへの印象は酷くなるばかりだった。
 また放課後がやって来て、颯斗も夕葉も、一刻も早くと争って教室を出た。
 美陽はそれを見て、少しだけ笑ってしまった。
「似た者同士、なんだよね、あの二人って」
 ああいうタイプに限って、ひょんなことからくっついたりするから、面白い。くすくす笑いながら、美陽は書き終わった日誌を閉じて、職員室へ向かった。
 そんな美陽の予感は、誰もが予想しない形で当たりに近付いて行く。

 帰り道、颯斗は次に【歌ってみ】る曲を探そうと動画サイトを巡回していた。
 最近伸びている曲、そこを巡っている内に、彼はその曲に出逢った。『Colored Talking』という名前のそれは、赤や青、黄色や緑といった様々な色で飾った文字でチャットを楽しむ男女を描いた歌だった。
「なかなか悪くないな」
 颯斗はどちらかと言えば激しい曲調が好きだったし、それこそ、この前の『インディペンデンス・デイ』のような力強い曲の方が好みだ。だが、夕葉との一連のやり取りに疲れた彼の心には、『Colored Talking』のやさしく微笑ましいメロディが心地良く聞こえた。
 そしてもう一つ、彼にその曲を選ばせた理由は、PVに使われているイラストを描いた絵師の名前だった。
「しろもも……って、この前のあの人だよな」
 颯斗の心を一瞬で掴んだあの絵師。
「こんな絵も描けるのか」
 朗らかで、あたたかな二人の絵。
 それもまた、颯斗の心に響いた。
「これを歌うか」
 そう決めたついでに、颯斗はもう一度しろもものツイッターのアカウントを見てみようと思った。
 今度は、少し遡って他の作品も見ようと思った。
 実のところを言えば、あるイラストの投稿サイトを尋ねてみるのが一番なのだが、しろももがそこで活動している保証は無いし、見知っているところで確認するのが手っ取り早いと考えた。
 しろもものプロフィール画面まで行って、颯斗はその変化に気付いた。
「あれ、フォロー、返されてる?」
 少しばかり信じられなかった。
 だが幾度か目をこすっても〝フォローされています〟という表示は変わらないし、それを見て、颯斗の心は俄かに高揚した。
「もしかしたら、いつか本当にこの人と一緒に活動出来るかもな」
 颯斗にとってその憧憬の心は初めての感覚だった。
 今はまだ、『Colored Talking』という他の誰かのPVで間接的に関わるだけだが、いつかは自分のために描いてもらいたい。そんな思いが颯斗の心に生まれていた。
 早く帰って歌いたい。
 逸る気持ちで、颯斗は『Colored Talking』をループ再生しながら家路を急いだ。
 こうして二人の距離は、一方で遠ざかりながら、また一方で近付いて行く。
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