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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第三十九話 勝ち誇る虎太郎

「あなたがピンチヒッターの鷺沼君だね? よろしく、ボクは浮橋美園。あ、ボクっ子だよ。スラックス穿いてるけど、男の子でも男の娘でもないからね」
 俺は今夢でも見ているんじゃないだろうか、あるいは、二次元の世界に迷い込んでしまったか。
 救世主と期待していた来訪者は、悪い意味でキャラが立ったとんでもない代物だった。
「あ、ああ……よろしく」
 明らかに目立ってドン引きしたが、美園は気付いていない様子だ。人生をこの調子で過ごして来たんだろう。
「茉莉亜ももう少ししたら来ると思うよ」
 美園の発言から、颯斗はもう一つの事実に気付いた。
「なあ、古河」
「ん?」
「もしかしてこのバンド、ボーカル以外は全員女子だったりするのか?」
「いや?」
 あれ、と思う颯斗。
 そして、出来れば行き着きたくない可能性に辿り着いた。
「ボーカルも女子だけど?」
 なんで俺に頼んだんだ!
 と思わず叫びそうになった。コピー元のバンドのボーカルは男だったし(ボーカル以外も全員男だが)、てっきりボーカルは男だと思っていた。
「ははーん、さては、女子だらけで緊張するとか? 鷺沼も可愛いところあるよなぁ。でも安心しなよ、美園は男っぽいし、茉莉亜はまあ、うん、物凄く女子だけど、アタシはそんなでもないじゃん?」
 お前も十分過ぎるくらい女子なんだが、と言ってやりたい颯斗だった。湊的には、その茉莉亜とやらが女子らしい女子、というところなんだろうか。
「曲のセレクトは誰がしたんだよ」
 女性でも硬派なロックバンドはたくさんあるが、だからといってあそこまで男の塊みたいなバンドを好んでコピーまでしようとするなんて、相当女子っぽくない趣向の持ち主がいるらしい。
「茉莉亜だよ」
 颯斗は茉莉亜に早く会いたくて仕方なくなった。
(物凄く女子って言ったよな……どうなってんだよ……)
 全く人物像が掴めない。
 そうこうしている内に、再びインターホンが鳴った。
「お、来たね」
 湊は居間を出て行き、残る一人を迎えに行った。
「鷺沼君、茉莉亜がどんな子か想像してるよね」
 二人きりになったところで、美園がさらっと話しかけて来た。さっきの印象からもそうだが、人見知りのひの字も知らないらしい。
「見た目的に背が高くて、男勝りだけど、女子力は物凄い高い、みたいなのかな?」
 図星だった。思わず声が出ない。
「あはは、だったら凄くびっくりするだろうね」
 ちょうどそのタイミングで、湊が戻って来た。
 が、もう一人は見えない。
「あれ、違ったのか?」
「ん? ああ、ちょうど死角になってるのな。ほら、茉莉亜、こいつ、全然怖くないから」
 湊の後ろから人影がそーろっと出て来た。身長は140cmくらいだろうか。物凄く小さい。
「あ、あ、あのっ、あのっ、楠田茉莉亜、です、よろしく、お願いします」
 それだけ言うと、またしゅっと湊の後ろに隠れた。
「茉莉亜は凄い人見知りだけど、打ち解けたらこんなことはなくなるから」
「あ、ああ」
 予想外過ぎた。人は見かけによらない、と言うが、よらなすぎる。
「な、なあ、曲のセレクトは、その、楠田さん、がしたんだよな?」
 直接尋ねても返答がもらえないと思った颯斗は、湊に尋ねた。
「そ、そうです。で、でも、私だって歌い手さん聞いたり、じぇ、J-POP聞いたりも……」
 が、答えは湊の後ろに隠れた茉莉亜の口から出た。前に出るのは苦手だが、話すことまではそれほど苦手ではないらしい。
「そ、そうなのか。ちなみに、歌い手って、誰を聞くんだ?」
 折角だから、聞いてみることにした。歌い手の話なら、それなりに出来るし、打ち解けるのには良いと思った。
「お、おせんべさんです」
 噴き出しかけた。
 渋いロックが好き、だと聞いたから、ハンニバルのような硬い感じが良いのかと思ったら、ネタで攻めるエンターテイナーが好きと言われて、茉莉亜のことがますます分からなくなった。颯斗の頭の中では、虎太郎が勝ち誇った顔で「見てみぃ、女子高生にもちゃあんと人気あるで!」と言い放っていた。
「そ、そっか」
 実際のところ、おせんべは男女問わず人気が高い。おせんべのセンスは夕戀やハンニバルとは別方向で突出しているし、それでいて歌唱力や技巧力も引けを取らないため、おせんべの人徳(あると思いたくないのが颯斗の本音だった)に惹かれるファンも少なくない。
「ほ、他は?」
 これでハンニバルやWitCherryが出て来れば、心の中のもやつきも少しはマシになりそうな気がした。
「他、ですか……。TAROIMOさん、とかですね」
「た、TAROIMO、さんも好きなんだ」
 TAROIMOとは、おせんべの親友とかで、歌い手界のユーモア部門を牽引する大物歌い手だ。直接顔を合わせたことは無いが、チャットなどで話す限り、同じ匂いを感じる。ちなみに、同時にゲーム実況を投稿したり、実写動画を上げたりして、爆発的な再生回数を獲得する化け物投稿者なため、普通の歌い手よりさらに格上だ、と評価する人も多い。
 にしても、茉莉亜の趣味が謎過ぎる。スプラッタが好きだとか、急降下のアトラクションが好きだとか言われても、驚かない自信が出て来た。
「茉莉亜が歌い手好きなのは知ってたけど、おせんべが好きだったとはねー。ボクは夕戀くんとか麗音くんが好きだけど、茉莉亜はああいうかっこいいのは聞かないの?」
 歌い手の話で盛り上がって(いない)いたのに釣られてか、美園が乱入して来た。
「ゆ、夕戀さんはかっこいいとは思うけど、同じクラスのファンの子が、ちょっと……気が合わなくて、それで……。麗音さんは……私の好みとは、合わない、かな」
 雷鳴が轟いた。それほどの衝撃。
 夕戀に負けたのはともかく、虎太郎に負けたのはあまりにも大きなショックだった。
 脳裏には高らかに勝ち鬨を上げる虎太郎のイメージがありありと浮かんだ。
 歌い手として努力が足りない、そう言われたような感覚。颯斗は、今一度自分のあり方を見直そうと、固く決意した。

 ところで、この会話の間、湊は完全に置いてけぼりを食らっていた。
ついにタイトルに進出した虎太郎。
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