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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第三十五話 すぐそこにいるのに 後編

 颯斗のツイッターのメッセージ欄には、やはりしろももからの通知が来ていた。タップして文面を確認する。
〝そう言えば私、今日コミックギャザリング行くんですけど、麗音さんも参加してたりするんですか? あ、私は出展ってわけじゃなくて、友達のブースに遊びに行くだけなんですけど〟
 思わず硬直する颯斗。
 来ていた。会えた。
 と考えると、物凄く惜しいことをした気持ちになった。
 もう少し幻想を抱いていたい気持ちもあったけれど、会える可能性があったのなら、会いたいと思わずにはいられなかった。今日は誰かとずっといたために、携帯を触る時間がまるで無かった。少しでも見る機会があったなら、会うことも出来たかもしれない。そうは思いつつも、過ぎたことを悔いても仕方がない。
 しろももからのメッセージは、以前より積極的なものになっていた。その感覚に、颯斗は気が付くことが出来た。
〝行ってましたよ、俺も。もう少し早くDMに気付けてたらって思います〟
 しろももの言葉に、颯斗も素直な言葉で返そうと思った。短いながらに、想いを込めて、送信ボタンを押す。
 そんな颯斗の隣で、夕葉は麗音からの返信を心待ちにしていた。NaNaNaNaのブースに足を運んだ彼女は、そこに麗音が来ていたことを知っている。菜々が夕葉の分もサインをもらっていてくれたことが、凄く嬉しく思えた。残念ながら会えなかったものの、二人の距離は、思ったよりずっと近いかもしれない――今隣にいると考えると、彼女の予想は大きく外れているけれど――、そんな期待が、夕葉の胸中で膨らんでいた。
 だから、麗音からの返信が無かったことには、少なからずがっかりしたものの、ため息をついて画面を閉じかけた時に、DMが届いた通知を受け取った際には、思わず胸が高鳴った。
 文面を頭で考えるより先に、手が動く。
〝会いたかったです〟
 さすがにストレート過ぎると思った。
 だから、書き直そうとした。
 したものの、指が触れたのは、送信ボタンだった。
 あっさり送信されたメッセージ。思わず固まる夕葉。
 押しが強すぎると思われないだろうか。今まである程度意識して書いて来ただけに、今回の事故は、夕葉を焦らせるには十分すぎた。
 動揺する夕葉の傍で、颯斗はスマホをしまいかけていた。これまで通りなら、返信はすぐ来ないだろうし、チャンスを逃したことで、彼のテンションは下がり気味だったからだ。だが、今度はLINEの通知が届いたことで、そうも行かなかった。恵実から、「今日はありがとねー」とスタンプ付きでメッセージが送られてきた。こちらの返信にはそれほどモチベーションが上がらない颯斗は、適当に目についたスタンプで返信したが、その直後に再びツイッターの通知が目に入った。
 どうやら、しろももは今携帯を見ているらしい、と分かった颯斗は、出来るだけ早めに返事を送って、このやり取りを続けたいと思った。間隔を空けてのやり取りと違って、今こうして続いている時間には、二人の繋がりがハッキリと感じられた。
 が、しろももから送られて来た一行だけのメッセージに、思わず息を止めた。
 想像上のしろももが、「会いたかったです」と口にする姿を妄想して、颯斗は思わず口元に手を当てて、声にならない喜びに悶えた。コミギャ会場で夕葉を目にした際には、微塵も感動を覚えなかったわけで、妄想が高まれば高まるほど、現実との乖離が深まっていくのは、彼らにとっては不幸としか言いようがないのが、皮肉な点だ。
 ともかく、その端的な言葉にジーンとしながら、颯斗は〝俺も〟と打って送りかけ、〝俺もです〟と直した。
 メッセージを送ってから、ふと視線を上げ、脇を向いた。ちょうどその瞬間、すぐ隣の夕葉も似たような仕草をしたことで、二人の目がぴたりと合う。途端、夕葉はふい、と目をそらした。そのあからさまな嫌悪感の表出に、颯斗の怒りは募ったが、今はそんな場合ではないと、携帯に視線を戻した。
 片や同じく携帯に目線を移した夕葉は、予想に反して優しい言葉が返ってきたことに、心を癒された。
(あのバカも麗音さんの優しさの1%でも持ってたら、少しはマシだって思えるのに)
 心の中で愚痴りながら、〝いつか会えると良いですね〟と、今度は恥ずかしがることなく、心からの気持ちを、素直に送信した。
 次の停車駅はちょうど夕葉の最寄り駅で、彼女は優しい気持ちのまま、秘かに想う人から離れて行っているとも知らず、列車から降りた。
 一方の颯斗もまた、〝近いうちにそうなることを、願うばかりです〟なんて、虎太郎に言わせれば「お前ら……アホやろ」なんて言葉を、遠ざかる夕葉の姿には気にも止めず送るのだった。
同時間の二人の行動を描写するの難しい。
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