挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
34/187

第三十四話 すぐそこにいるのに 前編

 コミギャも閉会となり、四人と別れた颯斗は、人の波に揉まれながら、最寄りの駅に向かっていた。出展側にもなれば、片付けにかかる時間なんかもあって、来場客の帰宅ラッシュとは時間をずらせるが、今日の颯斗はそうも行かない。ぞろぞろざわざわと歩く中を、げんなりしながら歩いている。戦利品を片手に喜び勇む人たちの中では、颯斗は異様な存在だった。見る人が見れば、随分と場違いな人に見えただろう。
 駅に近付くにつれ、人だかりはさらに一点に集まり始める。散らばっていた会話の数々が、どんどん集中して来る。この喧騒にやられまいと、イヤホンをしようと思ったが、そう言えば行きがけに断線していたことに気が付いたことを思い出し、諦めざるを得なかった。イヤホンは彼の強力な味方だけに、その不在は大きな痛手だ。
 Suicaを持っている颯斗は、切符を買う手間は要さず、割と手早く改札を抜けられた。ちょうど列車が到着した頃で、ぞろぞろと動く人混みに押されながら、すし詰めの車内に踏み入った。
 人と人とがほぼゼロ距離で密着する車内。
 戦利品をたくさん持つ人が多く、さらにその狭さを感じさせる。そんな中にあっても、スマホを手放さない人も少なくなく、一人一人のストレスは高まりつつあった。それでも、声を上げてまで文句を言う人はおらず、それぞれが我慢をすることで、車内環境はどうにか平穏に保たれている。
 その中で、一際苛立ちを募らせる颯斗。ただ、颯斗が不満を漏らすのは友人に限ってなので、目を閉じてどうにかやり過ごすことにした。
 しばらくはその状況が続いたが、車体が大きくカーブするのに合わせて、乗客の多くがバランスを崩した。わっと車内で声が上がる。
 颯斗もまた、近くにいた誰かに、左足を踏まれてしまった。
「す、すみません」
 さっと謝って来た相手。そちらに目をやると――
「さ、鷺沼……」
 その相手とは、まさかの夕葉だった。
〝これはもう運命やろ〟
 脳内で虎太郎の声がする気がした。
〝勝手に入って来るなよ……〟
〝俺に冷たすぎひん!?〟
 馬鹿らしくて脳内での会話はやめることにした。
「謝って損した」
 夕葉の言葉はあまりにも失礼極まりないものだったが、颯斗はぐっと堪えた。今日はもう穏やかに過ごしたい。そう思って、応えるのはやめた。
 無視された夕葉はそれに不満気だったが、知らない人だらけの車内で食ってかかるほど、強いメンタルを持っているわけではなく、こちらも我慢の姿勢に入った。
 だが、列車が次の駅に停車し、乗り降りで乗客の位置がズレると、さらに面倒なことに、二人の位置関係は前後になった。身体の向きを上手く調節することも出来なく、二人は向き合う形になっている。
 よりにもよって嫌い同士の二人が正面を向いて密接したことで、さすがに我慢も出来なくなったのか、夕葉が小声で訴えかけて来た。
「身体の向き変えてよ」
「出来たらとっくの昔にそうしてる」
 今度は無視すれば逆に面倒になりそうだと察して、返答することにした颯斗。
「何が嬉しくてあんたとこんな距離で密着してないとダメなの」
「それは俺が聞きたい」
 二人のイライラは募るばかりだ。もし、二人が単なるクラスメイトくらいの関係であれば、ここから発展しそうなものだが、生憎最悪の関係。一刻も早く離れたいと、願うばかりだった。
 その状態が一、二駅ほど続いた後だった。その次の駅は比較的大きく、乗り換えに降りる人たちの数もそれなりで、車内には少しの余裕が出来た。少しずつ線路側のドアの方へ追いやられていた二人だが、人一人分離れるくらいは出来るようになった。まだ大きく距離を取ることは出来ないが、ようやく一触即発の状態からは逃れることとなった。
 スマホを触ることも出来るようになり、颯斗も夕葉も、逃げるように画面に目を移す。
 二人が真っ先にしたことと言えば――
 本人がすぐそこにいるとも知らず、それぞれの分身からの連絡が無いかと、ツイッターを開くことだった。
やる気が途中で尽きたので、続きは後編に投げます!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ