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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第三十二話 大人な奴ほど純情

 列は長く、夕戀の人気の高さを示していた。
「そう言えば、なんで並んでるんだよ」
 颯斗の疑問はもっともだった。普通のファンでもあるまいし、蓮哉に会うのに、夕戀に会うための列に並ぶ必要は無い。
「バカか、お前。目立つ感じに俺らが会ってたら、あいつの身内だって分かるだろ」
「ああ、なるほ……いや、一回そのシーンあった気がするんだが……」
「まあ、あれはな。予想外だった」
「にしても、わざわざここに並ばなくても、このイベントが終わってから会えば解決するような」
「それはそうだけどよ、あいつがそうしてくれって言ってんだから、良いだろ」
「せやけど、よう考えてみたら、こんだけの人数で並んでたら、その時点で目立つような気ぃするわぁ」
「せめて二手に分かれた方が良かったかもね」
 虎太郎の鋭い指摘に、恵実も賛同する。とは言え、今さら列を離れた所で、もう一度並ぼうとするには、随分な気力が必要そうな感じがするほど、列は長い。
「まあ、一人はぼーっとしてるんやし、言うほど目立たんかもね」
「誰かさんにとっちゃ、ファンみたいに並ぶのも、意外と魅力的だったりしてな」
 二人のやり取りに、颯斗と恵実はついて行けない。
「……颯斗は分かるんやけど、なんで恵実ちゃんまでぽかんとしてるんやろ」
 虎太郎がミシェルに小声で尋ねた。
「そりゃお前……恵実は恵実で気になる奴がすぐ隣にいるからだろ」
「あー。アピールしても気付きそうやないし、割とアピール下手やもんなぁ」
「ひょっとするとやっぱりお前のこと狙ってるのかもしんねえぞ」
「まだその冗談引っ張るんかい!」
「なかなか冗談じゃないんだが……?」
「なっ――」
「冗談だよ」
「あのなぁ、純粋なハート、もてあそばんでくれるか?」
「やめろやめろ、笑う」
「笑うとこやないねんけど!?」
 虎太郎とミシェルの仲の良さは、その表情からよく伝わって来る。
「何だかちょっと憧れちゃうな」
「おいおい、マジかよ……」
 恵実と颯斗も小声で話す。
「だってー、あんなに仲良さげだもん」
「お前と海奈も似たようなもんだろ」
「うーん、それはそうだけど、やっぱり、男の子の仲の良さと、女の子の仲の良さは、ちょっと違うところあるんだよ?」
「そういうもんか……って言うか、海奈はなんで会話に入って来ないんだ? いつももっと積極的に入って来るだろ」
「あー、確かに。海奈、大丈夫? 疲れてる?」
 急に声をかけられて、海奈はびくっと驚いた。心なしか顔が赤い。その理由は、二人には分からなかったけれど。
「あ、うん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。それにしても、夕戀の人気、すごいね。こんなにたくさん並んでるって」
 普通なら訝しまれるくらいわざとらしい話題の逸らし方だったものの、鈍い颯斗と恵実は、すっかり海奈の話題に乗っかってしまう。
「憧れちゃうよねー」
「お前、憧れるもの多いな……」
「颯斗は憧れないのー?」
「どうだろうな……憧れるっていうより、想像つかない感じがする」
「嘘だぁー、本格的に出展したら絶対バーッてなるって! ね、海奈」
「う、うん」
 この僅かな時間でも、やはり海奈の心はここにあらずな感じだった。実際の所は、質問の内容さえ頭に入っていなかった。
「おいおい、列、進んでんぞ」
 ミシェルに言われて、三人は歩みを進めた。ようやく後一組か二組かで彼らの番だ。
「ファンっぽくしないとね、颯斗」
「あいつのファン……らしく振る舞える気がしないんだが」
「えー、ダメだよー。でも、ゆー君の歌には、颯斗だって思うところ、あるでしょ?」
「まあ、それは……」
 実際、夕戀の歌唱力は本物だと、颯斗も思っていたし、それはミシェルや虎太郎の歌い手としての活動にも同じく言えることで、それぞれの実力を認めているからこそ、颯斗は彼らとの付き合いを続けている。
「だから、ここはちゃんとファンっぽくしよーう!」
 本当のファンに聞かれたら袋だたきに遭いそうな発言だったが、幸い誰にも聞かれていなかった。
 それから少しして、ついに彼らの順番がやって来た。
 営業スマイル(彼の場合は普段もそうだと言えるが)全開のミシェルを前に、颯斗は最初からげんなりしていた。
「私、ファンなんです! 大ファン!」
 その一方、恵実が開口一番、露骨なアピールをしてみせた。
(いや、そういうことじゃないだろ……!?)
 その様子を見て、颯斗は自分のことのように慌てた。ついさっき、実際に自分がそうされたわけだが、あれは一応本心からのそれだったから良いものの、今回の場合はあくまでフリをしているだけで、なんだか居心地が悪い。
「ありがとう、僕も会えて嬉しいよ」
 ミシェルや虎太郎とは違う、朗らかで優しいスマイルを浮かべる夕戀。颯斗の杞憂は何のその、ミシェルは完璧な対応をしてみせる。
「これ、一つ。後、それも」
 その脇でミシェルは淡々と買う物を選択していく。
「夕戀さん、これとこれ、どういう風に違うん?」
(みんな、っぽい感じを出そうとしてるけど、逆に凄くファンっぽく無い感じになってるんだよな……)
 丁寧に話そうとしつつも、普段からの癖が出て、中途半端さが際立つ。
 とは言え、全員がちゃんとそれらしく振る舞おうとしているのを見て、渋々颯斗もそれに倣うことにした。
「えーと、俺は……」
 じっと見つめられる。選びにくい。
「僕の歌、どんな感じに聞いてくれてるのかな」
(何故俺にだけ聞く)
 正直な所、今回のこの一見茶番にしか思えない時間は、颯斗を巻き込みたいという蓮哉の企みにひとえに起因している。付き合いの悪い颯斗と、蓮哉は真剣に話してみたいとずっと思っていたからだ。普段何とかそうしようとしても、上手いこと虎太郎やミシェルを盾に取られて、一対一で話せることは少ない。蓮哉が颯斗にそこまで執心する理由は誰にも分からなかったが、特別意識していることは、誰の目にも明らかだった。
「えーと……」
「飾ったりしなくて良いよ。率直な感想を教えて欲しいんだ」
 平静を装え、平静を装え、そう言い聞かせて、ポーカーフェイスを作る。
「素直に……凄いな、って、思います。声域広いし、一曲一曲を、本当に心を込めて歌い上げてる、って感じが伝わって来る歌い方で……」
 まともに感想を口にしようと思ったことなんて無い。身内の評価を真剣にしてみるのは、随分と恥ずかしかった。
「嬉しいなぁ……そんな風に思って聞いてくれてるんだね」
 普通なら、真剣な感想を聞いた方も恥ずかしがるようなものだが、蓮哉は変わらない笑みを浮かべるばかりで、颯斗にとっては羞恥プレイをさせられただけだった。これが颯斗が蓮哉を嫌がる理由だが、特段悪気に思っていない蓮哉は、こういうことを平気でしてくるからタチが悪い。
 これ以上は限界だと思った颯斗は、これ以上は何も言わせまいと、適当に目に入ったものを選ぶと、そそくさと会計を済ませた。蓮哉がまた何か言いかけるのを察知して、さっと海奈に場所を譲った。
「ああ、もう、つまんないなぁ……っと、ごめんね、君に言ったんじゃないからね」
「あ、は、はい」
 どうやら、蓮哉の一言一言が、海奈には心地良く感じられるらしい。俯き加減に返事する様子は、完全にのぼせ上がった乙女のそれそのものだ。
「君さ」
「は、はい?」
「いつも来てくれてるよね」
 そして、そんな海奈の想いを知ってか知らずか(いや、あいつは絶対確信犯だ、とミシェル達は口を揃えて言う)、蓮哉は海奈に茶番の続きを求めた。
思ったより海奈が喋らない。
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