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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第三十一話 多分お前は運命とか気付かんと思う

「で、俺はまた騙されたと」
「騙してなんかないよー!」
 露骨に嫌そうな表情を浮かべる颯斗に、必死に嘘を隠す素振りをして自爆する恵実。いつもなら少しくらい助け船を出す海奈はと言うと、少々落ち着かない様子で、二人のやり取りには意識が向いていなかった。
「何や、まだわがまま言うてんのか、颯斗」
 こいつも筋金入りやなー、なんて半ば感心しかける虎太郎を、いやいや、とミシェルが制す。
 再び二人と合流した三人。夕戀こと蓮哉のブースに足を運ぶためだが、颯斗はこの期に及んでもまだごねていた。
「お前も良い加減腹くくれよ。蓮哉が苦手ってのは分かる。割と分かる。いや、よーく分かるが」
 独特のノリで話しかけられ、気が付いた頃にはすっかり相手のペース。というのが蓮哉の特徴で、波にでも乗るようにのらりくらりと交わしつつ会話を楽しめる虎太郎はさておき、ミシェルや颯斗は、それに翻弄されてばかりなこともあって、やや苦手意識を感じている。まあ、颯斗の場合は、元々賑やかに話すのが好きではないし、その点では虎太郎も苦手な部類に入るわけだが。
「大人になんねえといけねえ」
 顔立ちの整いすぎたミシェルが決め顔で言い放つと、さすがの颯斗もそれ以上は抵抗出来なかった。フランス人とのハーフで、ハーフへのイメージをここぞとばかりに体現した容姿を持つ彼だが、見た目に相応しい、いやそれ以上のハイスペックぶりは、異性はもちろんのこと、同性をも魅了し圧倒する。ただ、身内にもてはやされるのは好きでないらしく、さらに比較でもしようものなら、絶縁を迫って来るほどに怒ったりもして、彼には彼なりのコンプレックスもあるらしい。
「いや、俺まだ子どもなんで……って痛い痛い、痛いです、ギブギブ!」
 子どもじみた発言をなおも繰り返す颯斗に、ミシェルのヘッドロックが炸裂した。
「分かりゃ良い」
「おうおう、ミシェル、元気やなあ。颯斗に会えて嬉しいんはよう分かるけど、はしゃぎすぎたらあかんで。目立つねんからな、ただでさえ」
「お、おいっ、虎太郎、バカを言うな、喜んではいるが、嬉しくはねえ!」
 緩んだヘッドロックが、照れ隠しで再び強まる。ミシェルがいわゆるツンデレ(颯斗には美味しくない)だということは、割と周知の事実だった。
「あはは、ハンちゃんってば、かーわいー」
「ほーう、お前が気になってる奴のこと、バラしてやっても良いんだがなぁ?」
「わ、わーっ! ダメ! ダメだよハンちゃん!」
「言われたくなけりゃ余計なこと言うんじゃねえ。後、良い加減ハンネ呼びやめろ」
「ご、ごめんなさい! そ、それと、そろそろ颯斗を離してあげて!」
 二人が一触即発の雰囲気になりかけた間、ヘッドロックは決まり続けていた。おかげで颯斗はぐったりしている。
「あ、悪い。大丈夫か?」
「や、厄日だ……本当、帰りたい」
「まあまあ、そう言わんと、な? あ、ほら、今そこ通ってった子、めっちゃ可愛いで?」
 ピッと虎太郎が指差した先を、全員が目で追う。
 歩く度にさっと揺れる長い黒髪。身長はさほど高くないが、細身で可愛げに満ちていた。
「あ、本当だ。え、普通の来場者だよね?」
「別にコスプレしてるわけでもねえし、そうなんだろ?」
「あーゆー彼女が出来たらええねんけどなぁ」
 それぞれが口々に感想を述べる中――
「あれ? 颯斗は興味ない?」
 神妙な面持ちをしている奴が一人。
「何だよ、お前。虎太郎にしか興味ねえってか?」
「わ、悪いなぁ、颯斗。いくら颯斗のことが好きや言うても、恋愛の対象としては、な、ちょっと」
「冗談はやめてくれ……しかも、なんで俺がフラれたみたいになってんだ。あいつ……俺のクラスの奴なんだよ。すこぶる仲の悪い、な。本当、なんでこんな所にまで来て会わなきゃなんないんだ」
 そう、話題の中心となっている可愛い子、とは、NaNaNaNaのブースへと向かう夕葉のことだった。
「クラスって、高校のか?」
 颯斗が頷くと、また賑わいが強まった。
「おいおい、上物が身近にいるじゃねえかよ。ったく。お前も隅に置けねえな。何が仲悪いだ、宜しくしてろよ、勿体ねえ」
「ええなぁ、女子高生ええなぁ」
「虎太郎、お前が言うと捕まるぞ」
「なんでや! ハーフのイケメンやないと捕まるんか!」
「いや、年齢考えろよ」
「まだピチピチの22やしー!?」
「どう思うよ、現役の女子高生お二方さんよ」
「うーん、まあコタローも面白いから、人気はあると思うよ」
「悪い人ではないしね」
「二人とも!? なんでちょいぼかすんや! ハッキリ言われるより刺さるんやけど!?」
 一同は颯斗を置いて話に花を咲かせる。ひょっとするとしろももに会えるかと思いきや、犬猿の仲の夕葉とすれ違う始末。しろももの同人誌を手に入れられたのは良かったが、さすがに落胆しないわけには行かなかった。
「にしてもなぁ、颯斗、多分お前は運命とか気付かんと思うで。こんなとこで会えるとか、割と奇跡的な確率やのに。仲良うしたらええのに」
「無理なもんは無理だって。ほら、列進んでる。止まらず進んでくれ」
「勿体ない奴やなぁ……」
 颯斗が夕葉には微塵も興味を見せないという意思を示すと、恵実は思わず胸をなで下ろした。あんな子が相手じゃ勝ち目なんて無いよなんて、鏡を見てから言うべきセリフを、心内で吐いた。
 それにしても、虎太郎の発言は適当極まりなかったわけだが、実はそれが完全に的を射ているなんて、誰が思っただろうか。もし、口にしたのが虎太郎ではない別の誰かであれば、颯斗ももう少し真剣に考えたかもしれないし、これからの日々でさらに複雑に絡まっていく二人の糸も、もう少しマシなものになったかもしれない。
 虎太郎だから仕方ない、みんなそんな風に、最後には片付けてしまえるから、きっと、それで良いんだろうけれど。
今回は海奈以外結構いっぱい喋れて良かったと思います。
この中に皆さんの好きなキャラはいたでしょうか。

次は海奈ももう少し喋ると思います。
賑やかな歌い手メンバーたちのやり取りを、もうしばらくあたたかい目で見てやって下さい。
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