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歌い手カレシと絵師なカノジョ 作者:藤夜アキ
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第二十七話 麗音と愉快な仲間たち

「あれ? 麗お――」
「バカかお前は。今日はこいつはお忍びで来てんだ。滅多なことしてんじゃねえよ」
「ああ、そういやそうやな。よっ、颯斗」
 入場して間も無く、WitCherryの二人に会場の隅の方に連れて来られた颯斗は、強烈なデジャヴを感じながら、二人をギロリと見た。
「なんでこいつらのところに連れて来た」
 颯斗の目は中々にマジだ。こいつら、とは麗音の歌い手仲間で、恵実の如く颯斗の歌い手名を言いかけた関西弁の男が〝おせんべ〟こと浅井(あざい)虎太郎(こたろう)で、それを制した口の悪い男が〝ハンニバル〟こと汐留(しおどめ)ミシェルだ。二人とも麗音と懇意の仲、だと世間的には認知されているが、颯斗が本心でどう思っているかは明らかではない。
「こうでもしないと会おうとしないでしょ?」
「会う必要性を感じない」
「まあまあそう言わずにねー」
「別に会いたくねえなら無理に合わせようとしなくたって良かったんだけどな」
「もー、ハンちゃんはすぐそう言うこと言うんだからー」
 恵実がたしなめるのを聞きながら、ミシェルはため息を一つ。
「お前んとこのツレも同族だったな。ちゃんとしつけといてくれよ。ここに人だかりでも作る気か?」
「あー、ごめん。ほら、恵実、ちゃんと普通の名前で呼んで」
「そうだったねー、で、おせ――虎太郎君とミシェルさんは今日はゆー君のブースで売り子するんだっけ?」
「昼からや。それまでは自由行動してええって言われたしな」
「まさか一緒に行動、とか言わないよな? こいつらの面の割れは凄いと思うんだが」
「まあ、らしい格好はしてねえとは言え、颯斗の言う通りだな。別行動が良いだろ」
 ちなみに、この中では颯斗が最年少。虎太郎もミシェルも二十代だ。二人とも歌い手としての麗音を対等な存在だと捉えているために、タメでの対応を求めたという経緯がある。ただ、ここまで冷たい態度を取って良い、という意味では全く無かったはずではある。
「みんな楽しそうだね!」
 そんなバラバラな五人の後ろに、優しい面影の少年が一人。唐突に現れた、と言っても良いほど、その出現はいきなりだった。
「ゆーく――蓮哉(れんや)君!」
「はろはろー」
 手をプラプラとさせる挨拶。
 少年、のような見た目をしているが実はこれでもハタチ。歌い手〝夕戀(ゆうれん)〟こと財部(たからべ)蓮哉だ。ミシェルと虎太郎が売り子を務める〝ゆー君〟とは、すなわち彼のこと。
「抜け出して来て良いのか? お前がブースにいなかったらブーイング来そうなもんだが」
「大丈夫! 姉貴に替え玉頼んであるからさ! それに少ししたら戻るからね!」
「お前の姉貴は大変だろうな……」
 蓮哉は双子で、瓜二つの姉がいる。同じ格好をすれば、蓮哉が女の子のような容姿をしているのもあいまって、全く区別がつかない。
「でもなんで来たんや? 会おう思たら後で会えるやろ?」
「いや、みんな集まって楽しそうだったからね」
「はぁ? お前のブースからこんなとこ見えないだろ?」
「海奈ちゃんから楽しげなメール来たからねー、すっ飛んで来ちゃった」
 全員がバッと海奈の方を見た。
「そ、その、まさか抜け出して来ちゃうとは思わなくて」
 海奈は本当のところプライベートで蓮哉に会いたいと思っていて、つまりは確信犯だったわけだが、それを覆い隠そうとする言い訳は、日頃の行動のおかげか、上手く通用した。
「しゃあねえか。普通の考えならこいつの行動は読めねえよ。けどよ蓮哉、さっさと帰れ。ファンにはちゃんと向き合ってやれ」
「だね。ミシェルの言う通りだ。じゃあまた後で! あ、颯斗もちゃんと来てね!」
 現れた時と同じようにさっといなくなってしまった蓮哉。ただ、ここにいる全員が慣れっこだったせいで話題にもならない。
「蓮哉君に釘刺されちゃったねー、颯斗。後でちゃんと行こうねー?」
「あいつに会うためだけにあの長い列に並べって言うのか……?」
 颯斗の目は既に死んでいる。
「こらこら颯斗、ちゃんと俺らもいんで?」
「まあ会ってやれよ。最近長らく顔を合わせてねえだろ?」
 二人に半ば本気で威圧感を持って迫られると、さすがの颯斗も抵抗出来ない。
「分かったよ……。ここまで来たんだ。諦める」
「よーし、颯斗にも約束取り付けたことやし、俺らもどっか適当に回ろっか、な、ミシェル」
「そうだな。それじゃあな、また後で、だ」
「はーい」
 憂鬱な表情を湛えたままの颯斗をさておいて、彼らは二手に分かれた。
 そうしてまた三人に戻った後、適当に会場内を歩きながら、うなだれた颯斗を他所に二人は楽しげな会話を繰り広げる。
「相変わらずゆー君は可愛かったねー」
「うん。可愛かった」
「絶対女子力負けてるよー」
「そうだね、本当に」
 海奈の言葉が時に力強く、時に心ここに在らずな感じに発されていることを、恵実は気付いていない。あっさりと流してしまって、恵実は颯斗の方に向き直った。
「さーて、颯斗ー、次はどこに行こっかー? あれ? 颯斗?」
 恵実は颯斗がすぐ隣にいないことに気付いて、辺りを見渡す。追って気付いた海奈も同様の行動を取る。
 颯斗は二人の少し後ろで立ち止まっていた。
 その視線の先に何があるのか。
 あの颯斗が足を止めて見入るようなものがあるとしたら、それは何なのか。
 気になった二人は、颯斗のいる方へ引き返した。
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